エルフさんが通ります

るーるー

ちょっと見学することにしましょう

「はて、ここはどこでしょう?」
『え、わからずに歩いてたの?』


 ヴィツーのカジノを後にした私達はあちこちを歩き回り買い食いや保存食買い込みながらふらふらとしていましたがいつの間にか見知らぬところに紛れ込んでしまったようです。といっても大体が見知らぬ場所なんですが。
 とりあえずはよくわからないので歩き回るとしましょうか。


『なんか大通りとは違うね』
「ですね」


 周りにある建物はやたらと高く、さらには年季が入っています。ただしいい意味のものではなく汚らしさでですが。
 くーちゃんの言う通り大通りとは全く違います。大通りがこの国の華であるのであればここは真逆の陰を集めたような場所なんでしょう。


「なにより姿は見えないというのに視線がべったりと張り付くようで気持ち悪いですね」
『この気持ち悪いやつって視線なの?』
「ええ、姿はみえませんがね」


 しかし、こんな風にバレているようでは二流と言ってもいいでしょう。里の近くにいた獣と大差ありませんね。中には私に気づかれていないのもいるんでしょうがここまで視線が多いと正確にはわからないんですよね。
 とりあえずはいつでも戦えるように腰のぽちの柄の位置をさりげなく確かめます。あと私の体の周りを風の魔法を使い起こした風を旋回さしておきます。これで不意打ちなどが来た場合でもギリギリ反応できるでしょう。
 幾つか角を曲がり、もはや場所の特定は無理になりつつあります。そんな折に鎧をガシャガシャと鳴らしながら歩く騎士のすがたを見ました。


「なんとも場違いですね」
『こんなとこになんでいるのかな?』


 私たちが疑問に思い立ち止まっていると騎士のほうも私たちに気づいたようでこちらに向かい歩いてきます。


「おい、嬢ちゃん。この先は行かないほうがいいぜ?」


 鎧を着込んだいかにもおそらくは騎士っぽい形をした人が不意に私に話しかけて来ました。


「ん〜 この先はなにがあるんです?」
「スラムだよ、スラム。食うに困った奴らが集まって作った町さ」


 そんなことも知らないのか? と言わんばかりに肩をすくめられます。
 知りませんよ。だって「この先スラム!」って感じの看板ありませんでしたし。


「ここ、街ですよね? 街の中に町があるんですか?」
「ああ、他の国でも大きな街ならよく見られるものさ。スリに盗み、強姦に殺人と悪いことをする奴が流れてくるのが大体はここさ」
「ふーん」


 所謂、暗部とかいうものなんでしょうね。大きな光の横には必ず同じくらいの大きさの影があるような感じなのでしょう。
 確かにあまり衛生的ではないような感じですよね。座り込んでいる人もいますし。なにより目が死んでます。


「まぁ、悪いことは言わない。ここからすぐに離れるこった。見たところいい服着てるみたいだしそんなままじゃここの連中に身ぐるみ剥がされるぞ」
「ご丁寧にどうも。あなたはなんでそんな危険地帯に?」
「一応は騎士なんでな、この周囲の見回りだ。きたくはないが仕事なんでな」
「なるほどなるほど」


 騎士というのは華やかなイメージでしたがこういう地味な仕事もあるんですね。私のイメージでは城で警護しているとか戦争の時に隊列を組んで戦いに行くイメージでしたよ。というかそんな騎士しかみたことありませんし。
 しかし、スラムですか。見たことありませんから非常に興味をそそられますね。


「ちょっと見学することにしましょう」
『えー』


 くーちゃんの抗議らしき声を無視し、私は歩みを再開し、騎士さまの横を通り抜けようとすると肩を掴まれます。


「なんですか?」
「おい聞いてたか? ここから先は危険地帯だと」
「聞いてましたよ?」


 魔法のカバンマジックバックから冒険者カードを取り出し騎士に見えるように提示します。


「驚いたなぁ、お前こんなにちっさいのに冒険者なのか」
「ええ、ですからスラム観察してもいいですよね?」


 私が提示していた冒険者カードを仕舞うと騎士は大きくため息をつきます。


「冒険者であるならわかると思うがこっから先はなにがあってもこちらからはなにもできないからな?」
「自己責任ということでしょう? わかってますよ」


 ひらひらと手を振りながら私は騎士の手を振り払い先に進みます。


「物好きな奴だな。スラムを見たがる冒険者なんて」


 そんな騎士の小言を聞きながら私はワクワクしながらスラムへと足を踏み入れるのでした。

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