エルフさんが通ります

るーるー

四剣聖ってなんでしょうか?

「いや、あなたのような美しい方を狙うとは…… 犯罪者とはいえあいつは目が高いと言わざるえませんね」
「はぁ……」


 ひたすらに話しかけられ続ける私はうんざりしながら適当に返事を返します。


「そう! あなたのその銀髪はまさしく夜空に浮かぶ銀の月のように……」
「はぁ……」


 場所は宿屋の食堂。さすがに壊れた部屋の前で話し込むわけにもいかず私は血まみれの変態を縄で縛り上げ兵士が来るまで食堂で待つことにしたわけなんですが……
 なんというか疲れる方なんですよね。
 一応は変質者ということで血まみれになりながらも変態さんは宿屋の人が呼んでくれた帝国兵に連行されていったわけなのですがその時に帝国兵と一緒に来たやたらと煌びやかな服を着たキザ男が私にすごく話しかけてくるんですよね。


「ぜひ僕と一緒にディナーでもどうでしょう?」
「いえ、吐き気がするのでやめてください」


 一礼し礼儀正しく私を夕食へと誘いこちらへと手を差し出してきますが私はそれを払いながら告げます。


「ふふ、私の美貌と肩書きを聞いても容易くあしらわれたのは初めてですよ」
「いや、あなたも兵士なんでしょう? 私に構わずに仕事に戻ってはどうです?」


 遠回しに向こうに行け! と意味を込めたつもりでしたがキザ男は気にもとめずに髪をかきあげ微笑みます。
 途端、私とキザ男のやり取りを見ていた周囲の女性陣から「キャァァァァ」という嬉しげな黄色い声援が上がります。


「はぁ、じゃ、私は用事があるので失礼しますよ」


 ため息をつき、キザ男から離れようとしますが、キザ男は私の進路上に音もなく立ち道を遮ります。


「…… なんです?」
「まだディナーの約束を取り付けておりませんので」
「い・や・で・す!」


 気持ち悪いほどに粘着質ですね。


「名前の知らない人について行ってはいけないとジジ…… 長老にいわれてますので」
「ああ! これは失礼!」


 自分が名乗っていないことに気づいたのかキザ男は慌てたようにして片膝をつきます。


「僕の名前はビーチ・クイック。帝国四剣聖の一人です」
「四剣聖?」
「はい!」


 四剣聖ってなんでしょうか? なんか周りの声を自慢のエルフ耳で拾ってみますが「あれが剣聖ビーチ様」「素敵ねぇ」と微塵も参考にならない感想ばかりです。


「さあ! 挨拶は終わりました! 僕とディナーの約束を……」
「やだ!」


 再び笑顔で手を差し伸べてくるビーチに断りの声を上げるとビーチが笑顔のまま表情を凍らせます。同時に周囲の女性陣から「なんでぇぇぇ⁉︎」というよくわからない声が上がります。


「名前は知りましたが私はあなたの人となりをしりませんし」
「それは愛を語らいながら!」


 隙をみたかのようにすかさずビーチがてを私の手を掴んでこようとしてきますが私は手早く腕を引くと差し出された手を思いっきり叩きます。
 パチンっと軽い音が響き弾かれたビーチは自分の手をまじまじと見ていますね。


「まだまだぁ!」


 弾かれた反対の手を唸りをあげながら私へと伸ばしてきますが、甘い。


「ふんぬ!」


 声を上げ再び迫る手を今度は握りしめた拳で打ち払います。次は鈍い音を立てながらまたも高く弾かれますがビーチの顔には笑みが張り付いています。


「ちっ!」
「今度こそ!」


 しつこく迫るビーチに苛つきながら私は全身に身体強化の魔法を付与、すべての能力、エルフ特有の優れた視力すら強化した今の私は落ちる雨粒すら判別することができるでしょう。
 その今の私の状態をもってこちらの手を掴もうとしてくるビーチを迎え撃ちます。
 一定の間合いを保ったまま私とビーチとの間にはすでに常人には見えないほどの速度で拳を打ち合います。ビーチは私の手を掴むべく手を開いていますが私の方は完全にビーチの手首を叩き折るべく完全強化の拳です。
 空気の弾けるような音と何かをぶつけるような鈍い音が私とビーチとねは間でひたすらに鳴り上がります。


「ふふふ、僕の誘いをここまで断り続けたのはあなたが初めてですよ!」
「こんな変態的な誘い方をしてれば当たり前です! ですが、あえて褒めましょう。身体強化をした私にここまでしつこいとは!」
「ふふ! これでも剣聖です! なめてもらってはいたぁ⁉︎ あのぐーはやめません? 結構痛いんですよ?」
「やですね」


 会話をしながらも拳を交える音は止まらずそれどころか激しくなる一方です。
 しかし、唐突にビーチが手を振るうのを止め軽くため息をつきます。すでに彼の腕は私の強化された拳受け至るところに内出血ができていました。


「仕方ありません。割に合わないので……」
「ぜぇぜぇ…… 諦めますか?」


 構えを未だ解かずに、ですが肩で息をしながら私は問いかけます。しかし、ビーチの口元に笑み。しかもかなり好戦的なものが浮かんでいました。
 そして開いていた手をゆっくりと閉じ人差し指だけを伸ばした状態へとなり構えてきます。


「いえ、レートを上げさしてもらいますよ。そして帝国剣聖に負けはない」
「む!」


 圧倒的なまでの自信。そしてただならぬ気配に私もより一層の警戒を持ち対峙します。
 どちらも動かずに十秒…… 二十秒と経ち周りも息をするのを止めたかのように鎮まり返ります。


「あっ」


 誰かが小さく発した声とともに静寂を破るように何かが割れる音とともにビーチの体からとてつもない威圧感が放たれます。


「剣聖技、一の型」


 次の瞬間、ビーチの両手が私の眼ですら追えない速度で閃かされるのでした。

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