エルフさんが通ります

るーるー

……不安

「あー、話がどんどん面倒になってきましたよ〜」


 ヴィツー、シェリーから話を聞かされた翌日。ゼィハと私は別行動をとっています。ゼィハはというとしじょうちょうさ、とやらに行くために市場へと向かって行きました。
 対して私はやる気も起きませんのでシェリーが手配してくれた宿屋の布団の中でぬくぬくとしています。


『リリカ〜もう昼だよ? ご飯食べに行こうよ』
「今は動くのも面倒です。食料は各自調達してくるようにという話になったでしょ?」
『精霊を餓えさせる契約者なんて聞いたことないよ⁉︎』


 くーちゃんは怒りながらも窓を開け、外に飛び出していきます。どうやら自分で食料を手に入れに行ったようです。


「確か、私が里で習ったのは精霊は魔力を食べているという話だったんですがね」


 おそらくは私の魔力は食べているのでしょうがくーちゃんのいう食事というのは嗜好品。多分果物のことを指すんでしょうね。
 ま、今は動く気はありませんが。


「うーん」


 しかし、そろそろ動かないとお腹が減りますよ。仕方ありません。さすがに空腹には勝てませんし。
 ベッドから降りると仕方なく昨日脱ぎ散らかした服を集め着込んでいきます。


「ん」


 服を着ている最中に緩やかな風がどこからか入り込み髪が揺れます。
 振り返るとくーちゃんが出て行った窓が閉めらることなく開いていたためそこから風が入ってきたのでしょう。
 窓から帝国の皇帝が住む城が見えます。


「そういえば宿の人がうちは窓から見える景色はいいよって言ってましたね」


 確かに壮観な風景です。城までなにも高い建物もなく美しい城下町と城が見える。これは確かにいいものなんでしょう。
 ただ、


「今の私からしたら厄介なことこの上ないんですけどね」


 城を見ながらため息をつきます。それというのもシェリーに言われた魔の欠片の場所のせいです。


 ◇


「魔の欠片がある場所は帝国の王城とヴィツーのカジノですわ」


 しばらくためて行ってきたシェリーの言葉に私はため息とジト目を持って答えます。


「なんでとらないかもわかるような情報ですね」
「わかっていただけましたら幸いですわ」


 対してニコニコと本当に嬉しそうに笑いながらシェリーはお辞儀をしてきました。
 つまりは盗ったらとてつもなく面倒なことになるわけですよね。帝国からもカジノを運営するヴィツーからも狙われるというのは最悪です。


「そんなの嫌に決まってるじゃないですか。楽しそうですけど」
「楽しそうか?」


 ゼィハが首を傾げてきます。


「しかし、なんで帝国の城に魔の欠片が? ヴィツーは黒の軍勢ですから魔の欠片を集めている理由はわかるんですが帝国には理由がありませんよね」
『あ、そう言われればそうだね』


 わざわざ危険の元を持っておく理由はありませんし。どこかから貢物としておくられてきたんでしょうか? あれは魔力の塊ですから古代魔導具アーティファクトと勘違いされてもおかしくありませんからね。


「帝国は魔王を討伐した勇者を送り出した国ですから魔の欠片の封印場所でもあるわけです」
「なるほど封印して守っているわけですか」


 ますます厄介じゃないですか。


「どうされます? ヴィツーの依頼を受けられますか? あ、帝国は以前の騎士の国のようにザルな防備ではありませんわよ」
「うーん……」


 暗殺の方が確実に楽そうなんですよね。


「そこで私に妙案があるのですが!」


 突然声を大にしてシェリーが叫びます。その声に思わずビクリとしてしまいます。
 なんでしょう。凄く嫌な予感がします。
 だってシェリーの目が輝いていますし、瞳の中に星浮かんでますし、すっごい楽しそうに顔を歪ませてますし。
 そんなシェリーに何かを感じ取ったのかゼィハとくーちゃん、さらにはシェリーの付き人であるはずのアリエルまでもが後ろに下がります。


「ち、ちなみになんでしょうか?」


 気圧されながらもシェリーに尋ねます。


「ふふふ、今は言えませんわ。ですが三日ほどで準備ができます。それまではゆっくりと私が取った宿でお休みくださいな」


 そう言いながら小さな紙を私に渡してきます。中にはおそらくはどこかの店の名前らしきものが書かれています。


「ですからあなたはヴィツーからの依頼のことを考えておいてください。ああ、それと最近帝国領内では通り魔がでいるのでお気をつけくださいな」
「物騒ですねぇ」
「ええ、ですからお気をつけてくださいまし」


 言いたいことを言い終えたのかシェリーが指をパチンと鳴らすと再び周囲に喧騒が満ちてきました。


「では三日後にお会いしましょう。あ、こちらの魔法道具マジックアイテムを差し上げましょう。かなり使い勝手はいいと思いますので」


 そういうとシェリーはどこからか丸めた一枚の羊皮紙のようなものを取り出し私へと放ってきます。そしてわたしが受け取るのを確認するとドレスの裾をつかみ優雅に一礼をするとシェリーとアリエルの姿が徐々に薄くなりそして完全に姿が消えました。


「「『……不安』」」


 喧騒の中残された私たち三人は胸中に同じ思いを抱くのでした。


 ◇


「シェリーの策はどうせロクでもないものでしょうね」


 しかし、今は方法がないゆえにそれに縋るしかありません。まあ、時間制限があるわけではありませんからゆったりとやるとしましょう。
 そうと決まればまずは食事です。そう決めた私は食堂に向かうために部屋を後にするのでした。

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