エルフさんが通ります

るーるー

意外とまともですね

「暗殺ね」


 お茶を飲むのを止め、シェリーは真剣な表情へと変わります。


「ガリア帝国の王様って悪い人なんですか?」


 隣のゼィハにこっそりと尋ねます。殺されるならば悪い人の可能性は高そうですし。


「支配者というのは見方次第でしょう。合わせ鏡ですよ。一概に悪と断定はできないものですよ」
「そういうものですか」


 悪いやつならサクッと殺っちゃぇばいいかなっと考えましたそういうわけにもいかないようです。


「なぜか聞いてもいいかしら?」
「理由は四つだ。一つ、こちらの協力者が皇帝を邪魔に思っているらしい。二つ、この俺様が作った楽園であるカジノに騎士団を差し向けて嫌がらせをしてくるので鬱陶しい。三つ、こちらが穏便に金で解決しようとしたら交渉を蹴りやがったから腹がたつ。四つ、この国の王は俺様の計画上非常に邪魔だ。以上だ」


「どういった交渉を?」
「なに簡単だ。皇帝の一人娘をさらってな。指の一本を切り落としてラッピングしつて送ってやったんだ。『これからは仲良くしましょうね』とわざわざメッセージカードまでつけたんだがな。次の日には騎士団の連中に狙われる日々だ。おかげでおちおち家にすら帰れん」


 完璧に交渉という名の脅迫ですね? 実に私好みのやり方ですが。


「ふん」


 なぜかシェリーは鼻で笑いヴィツーを見ていました。その眼はまるで『あなたそんなことしかできないの?』と言っているような感じです。


「ヴィツー、あなたはそんなことしかできないんですか? このヘタレが」


 おっと私の想像よりも酷い罵倒が飛び出してきましたよ。シェリーの暴言にヴィツーの額にうっすらと青筋が浮かび上がります。


「なにが言いたい?」


 怒りを抑えたような声を響かせながらヴィツー静かに問いかけています。それに対してシェリーはあざ笑いような笑みを浮かべていました。


「私がやるのであればまずは指なんてことは言わずに腕の一本でも切りますわ。そしてその腕の血をワインの瓶にでもいれて干からびた腕と一緒に送りますよ」


 より一層過激ですね。嫌いじゃありませんが。
 シェリーがにやにやと笑いながら言うのを静かに聞いていたヴィツーですがやがて小さくため息を付き、今度は私の方へと視線を向けてきました。


「…… 今回の依頼は黒薔薇というか君にだよ。リリカ・エトロンシア」
「なんで私なんです」


 暗殺とかこそこそするのは特に面倒そうなんですよね。神経使いそうですし。なにより私には合ってないんですよ。


「ああ、別にこそこそとする必要はない」
「ん、暗殺ですよね?」
「ああ、だが内容だけでいうなら皇帝を消すだけでいい。楽な仕事だろう?」


 楽なんですかね? 仮にも国のトップなわけですし。護衛とかもいるんじゃないですか? いやですよ。あんまり強いやつと戦うのは。


「護衛は?」
「今のところは剣聖が一人といったところだ。他の剣聖は国外に外交にでているからな」


 一人、つまりは鉢合わせになる前にぶっ飛ばしたらいいわけですか。それならまだ楽かもしれませんね。


「まぁ、受ける受けないは少しは悩んでもらっても構わない。それでどうだ? お嬢様」
「ヴィツー、あなたが指名したいのは美少女なわけでしょう? なら私に確認をとるのは筋違いですわ」
「お前は言わないと言わないで後で面倒だからな。先に断っておいたまでだ」


 この二人、仲悪いんでしょうか? すぐに険悪な空気を作りますし。あんまり巻き込まれたくはないものです。


「ふふ、まあ、そういうことにしておきましょう。受ける受けないかは美少女次第ですが」
「気が向いたら受けますよ」


 確約なんてしてあげませんがね。だって面倒ですし。特がありませんから。


「で、報酬の話だが」
「ん、報酬でるんですか?」


 てっきり同じ黒の軍勢にいるからボランティアの精神でいくのかと思ってましたよ。


「当然だ、世の中は他人の慈悲だけで生きて行けるわけないだろう?」
「意外とまともですね」


 こいつはなんか腹黒そうですからなにかと難癖を付けて報酬を払わないケチなイメージでしたよ。
 私の考えていることに気づいたのかヴィツーは大きくため息を付きます。


「俺は約束は守る。どこぞのお嬢様のように曲解した守り方はしない」
「……」


 なんとなくら誰のことを言ってるのかがわかったのでそちらを見るとシェリーがニコニコと笑ってました。確実にこいつですね。


「なんなら魔法の誓約書を書いてもいいぞ?」


 誓約書ってなにかわかりませんがなんだか大層なもののようですね。


「まだうけるかどうかもわからない話ですからね」
「話はついたようですね」


 ヴィツーから視線を外しシェリーの方へと向けるとお茶を飲み終えたのかソファーから立ち上がっていました。


「ふふふふ、では、私たちはこれで失礼しますわ。腹黒」
「…… ああ、なにをしに来たかは知らんがくれぐれも面倒をおこすんじゃないぞ?」
「あら、しつれいしちゃいますわね。常識人ですよ? 私は」
『なんだかリリカを見てるみたいで信用が全く感じられないよね!』


 信用ないなぁと思ったのは私も同じでしたが私とシェリーを同じように見られていたことになんとも言えない感じを覚えながら私は再びシェリーに続き部屋を出るのでした。

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