エルフさんが通ります

るーるー

次はないですからね

 これが私の闘気オーラなんでしょうか?
 というかこれはただの炎にしか見えないんですが……しかし、闘気オーラというの本物の炎のように熱い……


「燃ーえろよ燃ーえろよー 炎よ燃ーえろ」


 物なんですねと考えていると私の掲げた手の炎の反対側から陽気な歌声が聞こえてきました。
 炎の生じている手をゆっくりと動かし反対側へと目をやるとなぜか私の手に向かい自分の手を向けている勇者の姿がありました。
 私の視線に気づいたのかニヤっという音が聴けえてくるような笑みを浮かべてきます。


「…… なんのようです?」
「ん? 趣味の悪戯だが?」


 尋ねると当たり前のこと聞かれたかのようにしてカズヤは答えてきます。


「で? 感想は?」
「感想って闘気オーラのことですか? 思ったより熱いというくらいですかね」


 炎より少し緩い、なんというか生暖かいお湯のような感じですし。


「あー……」


 私が感想を述べるとなぜかバツが悪いといった感じにカズヤが頭を下げかいています。


「悪い」
「……なにか悪いことしたんですか?」


 唐突に謝ってきたカズヤに不気味さを感じますが訪ねておかないと面倒そうですね。


「お前が闘気オーラだとおもっているそれ、俺が改造した魔法ファイアーボールだ」


 しかも人肌温度だぜ! となぜかドヤ顔です。みていてイラっとします。殴りたい……
 私が黙っていることに怒っていると思ったのかカズヤがワタワタと慌て始めています。


「ち、ちょっとした悪戯だったんだ! なんか目を閉じて集中してたみたいだったしなにか掌に出しといたほうが盛り上がるかなーって思っただけなんだ!」
「ふむ」


 言い訳を並べるカズヤへとそう一言だけ述べると私は未だ手の中で燃えているファイアーボール(人肌)に目をやり軽く掴みます。
 普通なら無理なんでしょうが人肌の温度といっても触っていると熱いのですが、それでも炎を掴んでいるという感触を知らないせいかなんとも言えない柔らかい物を掴んでいるような感触だけがあります。
 それを握りしめ、私のなけなしの魔力で包み込むと目の前であたふたしているカズヤの顔面に向け振りかぶり。


「謝って済むなら世の中平和なんですよ!」


 有無を言わさずに腕を振り切り叩きつけました。


「うむぅぅぅぅぅぅぁ!」


 人肌温度のファイアーボールを顔面に受けカズヤは醜くくぐもったような声で悲鳴らしきものを上げます。というのも、私がファイアーボールを叩きつけた場所は顔面ではありますがカズヤが開けていた口の中へと叩きつけたからです。さらにはファイアーボールを包み込んでいた魔力を解放し一気にファイアーボールへと風を送り込みます。


「爆ぜて反省すればいいです」


 一気に風を送り込まれたファイアーボールは人肌の温度と言えども炎の塊です。一気に空気を取り込んだことによって緩い炎が膨張します。


「ファァァァァァァァァ!」


 雄叫びをあげるようにしてカズヤが顔を空に向けて開くと喉が爆発し、まるで魔物のように穴の開いた喉と口から炎を吐き出し始めます。
 普通なら死ぬと思うですが勇者だからでしょうか? 喉を抑え口から煙を吐きながら転がりまわっています。


死ねばよかったのに大丈夫ですか?
『リリカ、表情と言葉が違うよ?』


 おっと心配そうな顔をして本音をぶちまけてしまいましたか。
 今度は真面目な顔を作ってと。


次はないですからね?大丈夫?
『だから…… まあいっか』


 諦めているような声がくーちゃんから発せられていますが聞こえていないフリをしときましょう。


「しかし、そうなるとどうやったら闘気オーラが出せるかがわからないままですね」


 苦しげにビクビクと不気味に動くカズヤを見てため息をつきます。
 だってこいつ、体が回復しているぽいんですよね。以前フィー姉さんに殴られてた時もヒールを使ってもらう前から傷が勝手に治り始めてましたし。
 勇者ってどんだけ理不尽な存在かがよくわかる光景ですね。
 こんなのに毎回狙われる魔王というのもなかなかに不憫な存在な気がしますね。
 しかし、魔力を使い切ったから非常に眠いですね。


「ふぁ〜 眠い。今日はさっさと寝るとしましょう」
『勇者はどうするの?』
「勝手に傷が治るような化物ですからね。ほっといても死にはしないでしょう」


 喉を爆破したのにも関わらずすでに恐ろしいほどの速度で傷が修復されていっています。なんて非常識な。
 重い体を引き摺るように私は部屋へと欠伸をしながら向かうのでした。

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