エルフさんが通ります

るーるー

待たないとダメなんですか?

 いかに船というものが大きいものであっても他に行くところがなければすぐに見終わるというものです。


「ひまだね」


 甲板に寝そべったままの姿勢で私は空を見上げながらつぶやきます。


 一週間。
 船の周りには青しか見るものがないというのは退屈の極みと言っていいでしょう。
 さすがに魔力炉とやらの中は見せてもらえませんでしたが見つくした感はあります。


「こんな状態があと三週間も……」


 フェステリア大陸まで船で一ヶ月。これは船に乗ってから知らされたわけですが。せいぜい二、三日のつもりでいましたからね。
 ゼィハも同様に退屈するかと思いましたが彼女は何やら古代魔導具アーティファクトをいじったりして何かを調べているようでした。


『ひまだよね〜』


 私と同じように甲板に転がっているくーちゃんも同じように呟きます。くーちゃん、あなた小さいんですから見えない人に踏まれますよ。


『ふぎゃぁぁぁぁぁ!』
「あ? なんか踏んだか」


 気怠げに見ていた私の先でくーちゃんが踏まれていました。そこから視線を上を上げていくと勇者汚物カズヤの姿がありました。
 こいつ、勇者のくせに精霊が見えてないみたいなんですよね。感触はわかるようなんですが。
 カズヤが足を上げ、靴裏を確認している間にくーちゃんが泣きながら私の頭の上に退避してきます。


「なんだロリエルフじゃないか」
「わざわざ喧嘩を売りに来たんですか?」


 だとしたらこいつも余程の暇人ですね。頭に乗った涙目のくーちゃんを軽く撫でながらそう言うとカズヤは違うと言わんばかりに手を振っています。


「いや、偶然だよ偶然。俺はただ甲板に用事があっただけだ」
「用事?」


 そこまで話をしてようやく私はカズヤがやたらと荷物を持っていることに気づきました。


「勇者は魔法のカバンマジックバックを持ってないんですか?」
「ああ、なんでも入るとかいう魔法道具マジックアイテムのことか? あれはバカ高いんだよ。レアだレア」
「…… そうですか」


 魔法のカバンこれ、レアだったんですね。初めて知りました。
 しかし、今の私の興味は勇者が持ってきた荷物にこそ興味がありました。


「何を持ってきたんですか?」
「お、興味有るのか?」
「暇ですのでね」


 嬉々とした様子で勇者は背負っていた荷物を降ろし私に見せてくれます。勇者が見せてくれたのは棒。ただし、先端に細い紐が取り付けられている棒です。さらに紐の先には反り返った針のようなものが付いています。これはなんなんでしょうか?


「これは釣竿ってやつだ」
「つりざお?」


 エルフの里にはありませんでしたね。


「釣竿知らないってことは魚も知らないのか?」
「魚は知ってます。川にいるやつです」
「どうやって捕まえてたんだ?」
「そんなの岩を投げて気絶さしたり槍で突いたり魔法を使ったりしてですが?」
「…… ファンタジーバンザイ」


 なぜでしょう? バカにされたような気がします。


「ま、まぁ、こいつは魚を釣り上げることができる道具だ」
「先端から電撃魔法でも出るんですか?」
「そんな物騒なものじゃねえよ。見せたほうが早いな」


 そう言うと甲板に腰を下ろすと小さな箱を取り出し、開けると何やら取り出し、勇者は釣竿とやらの針のような部分に取り出したものを取り付けているようです。


「ほっ」


 軽快な声とともに何かを取り付けた釣竿を振るとぽちゃんという音とともに針が海の中へと消えました。


「あとは待つ」
「え? 待たないとダメなんですか?」
「何を言ってる? 待つのが釣りの醍醐味だぞ?」
「えー」


 そんな枯れた老人のようなのはごめんですよ。しかし、特にすることもないので甲板のですが柵から垂らされた糸を仕方なしに眺めて過ごします。
 糸にはもう一つよくわからないものが付いていてゆらゆらと揺れ眺めている私を眠らそうとさしているのか眠気を誘ってきます。


『眠すぎて暇』
「くーちゃん、多分それは逆ですよ」


 すでに夢の中に飛び立ちつつあるくーちゃんにツッコミを入れますが、私も非常に眠いです。
 興味がなくなってきた私が糸から目を離し後ろを振り返ると。


「ふがぁぁぁ…… ふがぁあ……」
「こいつ、すぐ寝てやがったんですか?」


 器用に座った状態のまま釣竿を握り、いびきをかきながら寝るカズヤ。なんでこんな状態で寝れるんですかね。
 よだれ垂らしながら寝てますし。一瞬で熟睡状態じゃないですか。
 呆れながら首を振っていると不意に釣竿が揺れていることに気づきます。


『リリカ、なんか 引いてる!』
「みたいですね」


 待つことが醍醐味と抜かしながら釣竿を持っているくせに全く起きる気配がなく寝続けるバカを睨みつけながらも震えている釣竿へと手を伸ばすのでした。

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