エルフさんが通ります

るーるー

水に流してあげましょう

「それでりリリカちゃんはなんでフェステリア大陸にいくの〜?」
「フェステリア大陸?」


 どこの話をしてるんでしょう?
 首を傾げて聞き返すとフィー姉さん困った様な表情を浮かべてこちらを見つめ返してきます。


「まさか今から行く大陸も知らなかったの?」
「知りません」


 今初めて知りました。


「ぶふ! エルフってのはこんなのばっかりなのか?」
「だまれ、汚物勇者」
「おい! 俺に対する風当たりだけが強くないか⁉︎」


 まぁ、この人に優しく接する理由なんて全くないんですけどね。


「私がフェステリア? 大陸に行くのは偶然ですよ。あとは美味しいもの巡りです」


 さすがにあの絵から私が賞金首であることはわからないでしょうがそう答えておきます。ま、真実なんですけどね。


「汚物はなんでフェステリア大陸に?」
「本当に口悪いな。さっきフィーが言ってたみたいに神託だよ神託」


 勇者を動かすほどの神託ってなんなんでしょう。


「魔人が出たらしいぜ」
「魔人?」


 いつの間にか料理を頼んだ勇者がかなりの大きさの肉にかぶりつきながら答えてくれます。
 なんだかエルフの里の外は色々といるんですね〜? 魔人や魔族、モンスターやら亜人と退屈しませんね。
 どう違いがあるのかは全く知りませんが。


「魔人ってやばいんですか?」
「やばい。魔族より上」


 勇者が食べている肉と同じ様なものにヴァンがかぶりつきながら教えてくれます。
 ふむ、魔族にもあったことはありませんがそれよりもやばいと。
 頭の中では危なさが想像できませんがやばいというならやばいんでしょう。


「魔王とどっちがやばいですか?」
「ああん? 魔王なんて封印されて動けないんだから魔人が一番やばいんだよ」


 なるほど。魔王は封印されているわけですから封印されてなくて自由に動き回る魔人のほうがやばいということですか。


「で、そんな危ないのを汚物が退治するわけですか?」
「おう!」


 フィー姉さんにボコボコにされてた奴がでかい口を叩きますね。あなた大して強くなさそうなんですけど。


「俺はやればできる子だからな!」
「絶対できないやつですよね?」


 どこからその自信が溢れてくるんですか?
 私の蔑むような眼を向けられているんですが全く応えてません。


「だいじょぶよ〜 フィー姉さんが魔人なんてボコボコにするから〜」


 声のほうを見上げると朗らかな笑顔を浮かべるフィー姉さんですが、フィー姉さんならやりそうで怖いです。


『やっぱりリリカのお姉さんだよ』
「待ってください。どこにやっぱりの要素がありましたか?」


 ふわふわ浮かぶくーちゃんが退屈げに笑いながら呟いていました。
 私ほど常識人はいないというのに。


「大丈夫! 俺には頼りになる仲間がいるからな!」
「仲間が頼りにならないとあなたすぐ死にそうですからね」


 主に考え方的に。
 無知ゆえに死地に笑いながら飛び込みそうですしね。ある意味見ていて飽きないでしょうが。ただし、かなり離れた位置から見ないと巻き込まれそうです。


「まぁ、観光目的の私には関係ありませんがね」


 勇者御一行が私の邪魔をしない限りは。魔王復活のための欠片の情報もどうせシェリーのことです。どこにいても連絡をくれるでしょうし。


「お、なら俺たちと一緒にくるか?」
「なんでそんな嬉しそうな顔をしてるんですか? 気持ち悪い」
「え…… リリカちゃん、お姉ちゃんと一緒にいるの嫌なの?」


 この世の絶望を見たような顔をして私を見ないでください。


「いえ、単純にそこの汚物と一緒にいるのが辛いので」
「じゃ、こいつを捨てたらお姉ちゃんと一緒にいてくれるの?」
「いや、フィー姉さん。それ捨てたら魔人倒せないんじゃ……」
「お姉ちゃんの妹への愛を拳に込めたらいけるよ!」


 我が姉は賢いと思ってましたがそうでもなかったようです。愛に狂ってます。しかも対象が私なのが辛いところです。というか拳を私に向けられたらたまりません。とりあえず私はフィー姉さんの膝の上から下ります。


「フィー姉さん。その愛の拳はとりあえず私がムカつくそこの汚物に振るっといてください」
「! わかったわ!」
「まて! フィー! 拳を嬉々として振り上げるんじゃない!」


 再び悲鳴をあげる勇者を見てようやく私はイライラが少しだけ減りました。


「とりあえず私の胸を掴んだことはこれで水に流してあげましょう」
『まだ根に持ってたんだね』


 当たり前です。本来なら八つ裂きにして海に沈めてやりたいところですよ。海って深いらしいですし。二度と浮かべないように重しをつけてやろうかと思いましたがフィー姉さんの拳に免じてね。
 死ぬかもしれませんけどね。
 ククク、と笑いながら私は船の食堂を後にするのでした。

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