エルフさんが通ります

るーるー

嫌ですよ。ブサ勇

「どうもすいますせんでした」


 私の眼前には頭をさげる勇者の姿があります。しかもただ頭を下げているわけではありません。いわゆる土下座です。土下座。
 あれから勇者は二時間ひたすらに殴り続けらるという肉体的調教を受けなんとも従順な姿になっていました。当の調教を施した本人であるフィー姉さんはというと汗をかいたということで精霊さん達の力を借りて体をきれいにしているところでした。


「あー、もういいですよ。面倒ですし」
「リリカ、甘い。ここはもっと徹底的に奴隷の如く使えるように調教するべき。なんならボクが」


 静かに宣言し、腰のナイフを引き抜くと両手で構えます。


「ヴァン! お前俺の従者だよな⁉︎ なんで主追い込むような発言してんの!」


 ヴァンの非情な言動に勇者が顔をあげて抗議してきます。


「顔上げないでください。きもい」


 私は心底嫌そうな顔を浮かべます。
 二時間の殴打というのはえげつないもので容赦なく振るわれ続けたフィー姉さんの拳はそこそこ見れるはずだった勇者の顔を腫れ上げさせ原型の全くわからないような顔へと変貌さしていました。見ていて吐き気を催すような顔に変わってますからあんまり長時間凝視したくありませんね。私の精神衛生上にも。


「つうか! なんでお前ら仲良しになってんだよ! 俺も混ぜろ!」
「嫌ですよ。ブサ勇」
「酷い暴言だな⁉︎ やったのお前の姉ちゃんだからな!」
「女に負けるなんて〜 勇者だっさ〜」
「やった本人が抜かしてるんじゃねぇよ!」


 土下座状態はすぐに終わり体を清め終わったフィー姉さんにブサ勇は近づいていきます。続いて聞こえる炸裂音。あのブサ勇も懲りませんね。


「リリカ」
「ん、なんです?」


 服の裾をヴァンに引っ張られたので振り返ります。


「さっきの話、続き」
「ああ、交換の話ですね」


 私とヴァンはフィー姉さんの二時間にわたる鉄拳制裁の間に私はドラクマに襲撃してきたエルフの達の落とした武器をヴァンに見せていました。相場がよくわからなかったので尋ねてみたんですが思いの外彼が食いついてきたので色々と交換することとなったのです。
 私が出すのは基本的にはヴァンの主力武器であるナイフ。しかし、エルフの里で作られている特別便なのでそこいらのナイフよりはるかに性能が高いものです。代わりに私が受け取るのは情報。よく考えたら私。今からいく大陸のこと全くといっていいほど知らないんですよね。


「謝罪、大陸の情報はもってない」
「あらら、なら仕方ないですね」


 謝るように頭を下げてきたヴァンですが私は特には気にしていません。知らない方が楽しいこともありますからね。
 悲しそうな顔をしながら私から断ち切られました受け取ったナイフを返してくるヴァンの姿に若干かわいそうになってきたので三本のナイフのうち一本だけを彼に渡します。瞬間、彼の表情がパッとなります。無表情かと思えばちゃんと年相応の表情を浮かべるようです。


『リリカが人のこと言えた義理じゃないよね』
「くーちゃん、失礼ですよ?」


 しかし、そうなると次にどこに行こうか迷うというものですね。ま、選択肢は少ないより多い方がいいわけですが。


「やめろ! ギブギブ! ギブアップだよ!」
「異世界の言葉なんてわかりませんね〜」
「異世界の言葉として理解してるんだろうが!」


 二人がわめきながらじゃれ合い? をしています。


「あの二人はいつもああなんですか?」
「大体、主が余計なことを言って姉御を怒らせてる」
「なるほど」


 周りとしてはたまったものではありませんね。我が姉と変態勇者が暴れるのは。


「それはそうとイセカイっていうのは一体なんなんですか?」
「主曰くこことは違う世界らしい」
「違う世界…… 精霊界ですか?」
「人間がちゃんといるらしい。主を呼び出したのはどこかの国らしい」
「ふーむ」


 あんなバカみたいな奴でも勇者ができるんですか。まぁ、強いのかもしれませんが現状はわかりませんしね。もし、私が魔王を復活を目論んでいる組織に属していることを知ったらこの勇者(笑)はどんな動きをしてくるんでしょうか。といってもシェリーの派閥は復活をさすのが目的ではなく復活の妨害なんですけどね。


「異世界が気になりますね!」
『眼をキラキラしてもいけないんじゃないかな?』


 無理ですかねー。行きたいですね異世界。夢があります。あとロマン。


「がは! ぐは!」


 悲鳴をあげ、甲板の上を跳ね回る勇者。どこからどう見ても勇者には見えません。あんな人を召喚した国の人たちには心底同情します。希望が見えませんからね。
 それにあんな風にひたすらに殴られる人ばかりの異世界ならば夢とかロマンとか微塵もないんでしょうね。
 やがて沈黙しフィー姉さんに引き摺られるようにしてこちらにやってくる勇者を見て私はそんなことを考えるのでした。

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