エルフさんが通ります

るーるー

持つ者の悩み、持たざる者の悩み

「それでエルフの方々はなぜこのような場所に? あ、あたしの名前はゼィハと言います」


 紅茶を配り終えたダークエルフ・ゼィハが椅子に座り尋ねてきたあとに自分の自己紹介をするという変わったことをしてきました。


「ふむ、その質問の前に私も聞きたいことがあるんですが」


 ゼィハが聞いてきた質問には答えず私は手を挙げ逆に尋ねます。


「? あたしに答えられることならどうぞ」
「その胸は天然ですか人工ですか?」


 私はゼィハのたわわと実った胸を指差します。これがもし天然ものなのだとしたらエルフとダークエルフは一生わかりあえないのでしょう。戦争でし。エルフの尊厳を賭けた未だかつてない大戦争です。


「えっと…… 天然です」


 少し顔を赤らめながらもゼィハは答えてくれました。いい子ですね。


「よし、表に出なさい。その胸を切って食べましょう」


 私は立ち上がり先ほど破壊した扉を親指で指しながら腰に吊るしたぽちを掴みます。


「ばか!」
「あいたぁ⁉︎」


 扉に向かい歩こうとした私の頭にベシュの声と共に衝撃が走ります。頭をさすり振り返ると拳を振り抜いた姿勢でいるベシュの姿が目に入りました。


「なにするんですか!」
『リリカこそなにをする気だったの!』


 ベシュに喚いているとくーちゃんが割り込んできました。


「聖戦です。これは聖戦なんですよ…… くーちゃん」
『な、なんてレベルの低い聖戦』


 ふ、これはないものにしかわからない悲しみなのですよ。ええ、スタイリッシュなエルフの中にも当然胸の大きな子はいますよ。そんな子は言うわけです。「こんなものなんて肩が凝るだけよ」って。


「ちくしょう!」


 私は膝を付き、涙を流しながら床を叩きます。


「いや、私としてはあなたがそこまで胸に固執している理由がわからないわ」


 呆れたような声をベシュが出していますがそれはある程度は持っている者の言葉だということにベシュは気づきません。


「ちっ! 半端者のくせに……」
「は、半端者ってなによ!」


 私のぼそりと告げた呪詛の言葉を耳聡く拾ったベシュが噛み付いてきます。


「半端に胸がある半端者でしょう? 貧乳でもなく巨乳でもない」
「な、なんですってぇ!」


 ベシュは立ち上がり 巨大を討つ剣ヴァングラミーを取り出すと構えてきます。
 ああ、上等です。躊躇いなく切ってあげましょう。
 ゆっくりと起き上がりぽちの柄へと手をかけます。
 にらみ合う私とベシュ、緊迫した空気の中、ゼィハは怯えたように私より大きな体を震わしていました。


「たかだか胸の脂肪くらいでなんでそんなわめくんだお前たちは」


 腕を組み、ガルムと共にベシュの後ろに控えていたオーランドの言葉が沈黙が降りていた部屋にひびきます。


 アイツハイマナンテイッタ


 私とベシュが同時に感情の全く浮かんでいない瞳をオーランドへ向けます。


「な、なんだ?」


 無言の了解というか私とベシュは二人して標的を変えると体の向きも変え、ジリジリとオーランドへとにじり寄ります。
 さすがに危機感というのを覚えたのかオーランドはゆっくりと背を向けず後退を開始する。ガルムは音を立てず横に移動し被害をさけようとしていました。


『たかが脂? なら死ぬ?』


 私とベシュの合わさった声を聞いた瞬間、オーランドは踵を返して逃げ出した。


『逃がすかぁ!』


 そんなオーランドを私とベシュは武器を構え追いかけたのでした。

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