エルフさんが通ります
いえ、生まれます。犠牲者が
「なんなんですか! あなたたちは!」
「あ、目が覚めましたか」
涙目で絵日記を返して欲しいと言ってくるベシュをからかいながら過ごしていましたがようやく魔法使いぽい人が目を覚ましました。あ、ベシュには絵日記を返してませんよ。
身動きを取ろうにも魔法使いぽい人は縄で縛られていますからまったく身動きがとれないわけなんですが。
私の視線が魔法使いぽい人の方へ向いた一瞬の隙を突きベシュが私はさが見せびらかす絵本に飛びつきますが、所詮は獣の考え。そうくると読んでいた私は素早く絵本は魔法のカバンに戻し、ベシュの腕は空を切るのでした。
「さてさて、あなたはここの主で間違いありませんか?」
一応確認しておかないとあとから来られても厄介ですからね。
「あ、あたしの工房になんのようです! エルフ!」
私の尖った耳を確認したのかフードの奥から見える褐色の肌をした紅い瞳が私に対して憎しみを込めたようにして睨んできていました。
「そういうあなたこそこんなダンジョンで何をしているのですか? ダークエルフ」
睨んできたので私は反対に嘲笑うかのようにして返しました。私がダークエルフと告げた瞬間、他のエルフ三人が武器を構え臨戦態勢に入ります。
私は小さくため息をつくだけで特に武器に手をかける気も起こりません。
「リリカ、ダークエルフって」
「褐色の肌、紅い瞳、さらに尖った耳という合致条件から判断しただけですよ。当たってるかどうかはしりませんが」
ですがまぁ、反応を見る限りは当たりのようですが。
「あ、あたしがダークエルフでなにか文句あるんですか!」
ジタバタと抵抗してくるダークエルフですが縄が丈夫なのでまったく意味がありません。それどころかベシュが胸を強調するような縛り方をしているのでやたらと大きな胸が締め付けられています。
「いえ、特に私にはありませんよ? ただ、エルフとダークエルフは仲が悪いって話じゃないですか?」
私は親指を立て後ろで武器を構える三人を指します。彼らはやる気満々なんですよね。
そんな彼らを見たダークエルフはというと顔を青くしています。どうやら殴り合って友情を育むタイプではないようですね。
「ぼ、暴力は何も生み出しません。話し合いで解決しましょう」
「いえ、生み出しますよ? 犠牲者を。ですが、私もそちらの方が嬉しいですね。戦うのは疲れるので。縄は解いてあげます。あ、暴れたり妙なことしたら斬りますので注意してくださいね」
「うう、このエルフ達物騒だよぉ。なんで人間の世界ではこんな奴らが知的な種族として敬われてるんだよぉ」
縄を解かれたダークエルフはめそめそと泣きながら「クリア」と小さく唱えます。すると血やらよくわからない液体で濡れていた服が一瞬にして真新しい服へと変わりました。なんて便利な魔法なんでしょう。
「まぁ、立ち話もなんですのでこちらにどうぞ。お茶でも入れますね」
「そうですね。あ、お茶受けはクッキーを所望しますって! ここはあたしの家です!」
ツッコミながらも椅子を引いてくるダークエルフ。いい人ですねぇ。
「ちょっと! リリカ!」
ダークエルフに勧められた椅子に躊躇いなく座ろうとした私にベシュが静止の声をかけてきます。
ダークエルフはというと「クッキーありましたかねぇ?」とぼやきながら奥の部屋へと向かって行きました。
それを見届けた後、私は面倒くさげな表情を浮かべ振り返ります。
「なんです?」
「相手はダークエルフよ? 何してくるかわからないらないんだからもう少し警戒しなさいよ」
「襲う気があるのなら私なら扉を開ける前に魔法を叩き込みますよ。それにこの部屋はダークエルフの領域なわけですから殺るならサクっと殺ってきますよ」
「そんな物騒なことはしませんよぉ」と奥から声が聞こえてきます。
「ほら、彼女もそんなことしないと言っています」
「……たまにあなたが人を信じてるのかバカにしてるのかわからなくなるわ」
呆れたように言いながら 巨大を討つ剣を消し椅子に腰掛けてきました。
オーランドとガルムも武器は収めましたが警戒は解かないようで椅子には座らずベシュの後ろに立ちました。
そんな悩んでばかりだと体に悪そうなんですがね。
「お待たせしましたぁ」
エルフの健康について考えていると胸をポヨンポヨンと揺らしながらダークエルフがトレーの上に綺麗に装飾が施されたカップを乗せ戻ってきました。
「胸が音を立てて揺れるだと⁉︎」
『え、驚くとこそこ?』
胸が音を立てて揺れる。これはつまり無い者からしたら絶対的な勝利宣言をされているようなものです。
一般的にエルフの胸は掴むのが難しいぺったんこ。ダークエルフの胸は溢れるばかりの巨乳と言われています。なんという風評被害。いえ、確かに思い返せば里には胸の大きなエルフはいなかった気がします。
なんとも言えない感情が胸の中に浮かびますが当のダークエルフはカップを置きながらそこに紅茶を注いでいきます。
私の前に置かれたカップに紅茶を入れようとしたダークエルフの胸が私の視界に入ります。
ポヨンポヨン
いえ、決してこんな音が鳴っているわけではありません。ただ聞こえるのです。
「これが胸差社会!」
「はぁ?」
私の悔しげな言葉にダークエルフは頭に疑問符を浮かべながら紅茶を注ぐのでした。
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