エルフさんが通ります
ベテラン冒険者は見た、感じた、落ち込んだ
俺は冒険者を始めてもう十年は経つ。世間一般で言えば充分にベテランと言えるものだ。冒険者のランクはA。
疾風のゼンと言えばそこそこに名の売れた冒険者だという自負がある。
今まで数々の迷宮やダンジョンに信頼できる仲間と共に潜りそれなりの成果を上げてきた。
今回のダンジョンもきっちりと準備を行い、情報を集め、危険を排除しながら着実に階層を進めてきた。
そのかいもあって俺たちは未だ踏破されていない新たな階層、第八階層に踏みこんだのだ。
次々に襲いかかってくる新たな罠、そして強暴性を発揮し襲いかかって魔物達。
幾度となく命の危機を感じながらも慎重に進んでいく。
「ゼン、今日はこの辺で切り上げた方がいいんじゃないか?」
仲間の一人が声を上げる。
「俺もそう思ってたところだ。余力のあるうちに引き上げるとしよう」
「ですね」
仲間もそろそろ疲労が溜まる頃だろう。無理はせず、堅実に進む。それがこのパーティを組んだ時のモットーだ。だからこそ余力のあるうちに引き上げる。
「よし、後退を開始する。帰り道だからといって油断はするなよ? 遠足は家に帰るまでが遠足だ」
俺の冗談にパーティメンバーから笑い声が溢れた。緊張感は大事だが適度に息をつかないと体というのはいざという時に動かないものだ。
「しかし、俺達が八階層到達一番乗りとはSランク昇格も近いな!」
「そうだな、近くはなっているだろう」
ダンジョンの初階層踏破というのは冒険者ギルドの中ではかなり評価される。未知の危険度の場所に向かい無事に帰還し情報を他の者に渡す。
これが一番大切だからだ。
当然、ギルドへの貢献も高く評価されランクアップもしやすくなるのだ。
「だが一部には天才がいるからな。それに比べれば俺たちなど凡人だろうよ」
俺は苦笑を浮かべながら告げる。
そう天才はいる。しかも天才なやつほど無自覚なのだ。
世に名高い剣聖などがそうだろう。
彼は自分にできることはみんなができると思っていた。
かつて教えを乞うた時にはひたすらに断られた。
「いや、ぼくそんなに強くないんで」
「ぼくの剣はそんなにすごくないですよ?」
などと自分を卑下しながら。
それでも頼み込み続けると根負けしたように剣を抜いてくれたのだ。
「じゃ、みんなできると思いますけど」
と見せた剣技は常人ができる域を軽々と超えるほどの技であり、見ていた人たちの心を掴み、魅せた。
あの領域には自分は到達できないと示された。
「天才は遠いなぁ」
しみじみと言った俺の言葉に皆苦笑を浮かべるだけだった。
しばらくは魔物にも遭遇せずに七階層に向け逆走していた俺たちのパーティだったが先頭を歩いていた戦士が手を上げたため、一瞬にして全員に緊張が走った。
「どうした?」
「なにか聞こえる」
俺たちのパーティには気配探知などが得意なやつがいないため戦士が先頭に立っているが戦士の気配探知もかなりのもののためみんなが信頼していた。
ゆえに戦士が告げた言葉を誰も疑うことなく自然と背中を合わせ死角を減らし警戒する。
「どこからだ?」
「わからない、だが近い」
全員が各々の武器を構え警戒する中、俺の耳にも僅かな音が聞こえ始めていた。
「……確かに聞こえるな」
「これ近づいてきてないか?」
警戒を強め、周囲を観察するが変化は全く見られない。だが、確実に音は近づき、徐々に音は大きくなってきていた。
誰かが唾を飲む音が聞こえると同時に響いていた音が止まる。
「……止まったのか?」
周囲に俺の声だけが響く。
誰もが緊張し身動きが取れなくなっていた。
しばらく警戒するも変化は現れない。パーティのメンバーも少し気を抜いた。瞬間、
再び轟音が響き、頭上から岩が降り注ぎ始めた。
「な、なんだぁ⁉︎」
「とりあえずは防御だ!」
魔法使いが混乱しながらも魔法でシールドを張り、戦士と俺がシールドで防げそうにない大岩に攻撃していく。
(くそ! どうなってやがる!)
俺は心の中で悪態をつきながらも剣を振るい続けた。岩を弾き、砕き少しでも被害が少なくなるように力を尽くす。
「あら、同業者ですか」
「あ?」
俺が必死に剣を振るう中、なんとも間が抜けた声が耳に届いた。
僅かながらに視線を向けると銀色の髪をなびかせた少女が奇妙な服を着、柄だけを持った状態で立っていた。
「いやぁ、まさか下に人がいるとは、頑張って生きてくださいね!」
「リリカァァァァァァァ! 逃さなぃぃぃぃ!」
今度は岩くれと共に轟音を響かせながら今度は金の輝きが舞い降りてきた。
金の輝きは髪であり、立ち上がり髪をかきあげると人族ではありえない細長い耳が目に入ってきた。
「エルフか?」
思わず溢れた言葉だったがどうやら銀の髪の娘もエルフだったらしく楽しげに笑っていた。
「はは、まだまだ元気みたいですね。では最短コースを再開しましょうか!」
「うるさい! さっさと私に斬られなさいよ!」
片や楽しげに笑みを浮かべながら、片や目を血走らせ物騒な言葉を吐きながら落石が続く空間で対峙していた。
徐々に降りしきる石が減り始め、完全に落ちてくるものがなくなった瞬間、俺の眼から二人は同時に消える。
しかし、通路の至る所で剣閃の音が響き火花が散る。
おそらくは目に見えない速度で攻防を行っているのであろう。音しか響かずただ、通路だけが破壊の跡を作り続けている。
「いいですよ! もっとゆか割りましょう!」
姿を見せた銀の髪の少女再びにこやかに笑いながら柄だけの剣を振るっていた。
「なんで斬れないの!」
金の少女がイラただしげに白刃で迎え撃ち弾け返す。さらには細い体からはありえない膂力を発揮しさらなる破壊を繰り返す。
銀の少女は柄を振るい攻撃を捌くが上段から振り下ろされる攻撃だけは捌かずに躱し破壊を許していた。
その行動を何度か繰り返し金の少女がついに床を叩き割る。
その瞬間、銀の少女がいやらしく笑う。
「最短ルートありがとう!」
銀の少女はにこやかに笑ながら手を上げると少女は金の少女へ素早く刃を振るい一気に後退させる。
「くっ! 相変わらず早い!」
「じゃぁね」
大きく刃を振るい銀の少女は金の少女が作り上げた穴へと潜り込んでいく。
「ァァァァァァァ! また逃げられたァァァァァァァぁ!」
叫び声をあげながらも金の少女は銀の少女を追うかのように自身も穴へと飛び込んでいった。
「なんなんだ、あれは…… っと、みんな無事か⁉︎」
落石が収まり、視界が砂けむりで覆われながらも声を出し、仲間の無事を確認する。
「ああ」
「なんとかね」
「死ぬかと思ったが」
三人の声が聞こえ胸をなでおろす。
傷はあるかもしれないが命に関わるような傷はなさそうだ。
「あれが天才というやつなんだろうな……」
先ほどまでの明らかに次元の違う戦いを見せられた俺は天才との格の違いを見せつけられたのだった。
疾風のゼンと言えばそこそこに名の売れた冒険者だという自負がある。
今まで数々の迷宮やダンジョンに信頼できる仲間と共に潜りそれなりの成果を上げてきた。
今回のダンジョンもきっちりと準備を行い、情報を集め、危険を排除しながら着実に階層を進めてきた。
そのかいもあって俺たちは未だ踏破されていない新たな階層、第八階層に踏みこんだのだ。
次々に襲いかかってくる新たな罠、そして強暴性を発揮し襲いかかって魔物達。
幾度となく命の危機を感じながらも慎重に進んでいく。
「ゼン、今日はこの辺で切り上げた方がいいんじゃないか?」
仲間の一人が声を上げる。
「俺もそう思ってたところだ。余力のあるうちに引き上げるとしよう」
「ですね」
仲間もそろそろ疲労が溜まる頃だろう。無理はせず、堅実に進む。それがこのパーティを組んだ時のモットーだ。だからこそ余力のあるうちに引き上げる。
「よし、後退を開始する。帰り道だからといって油断はするなよ? 遠足は家に帰るまでが遠足だ」
俺の冗談にパーティメンバーから笑い声が溢れた。緊張感は大事だが適度に息をつかないと体というのはいざという時に動かないものだ。
「しかし、俺達が八階層到達一番乗りとはSランク昇格も近いな!」
「そうだな、近くはなっているだろう」
ダンジョンの初階層踏破というのは冒険者ギルドの中ではかなり評価される。未知の危険度の場所に向かい無事に帰還し情報を他の者に渡す。
これが一番大切だからだ。
当然、ギルドへの貢献も高く評価されランクアップもしやすくなるのだ。
「だが一部には天才がいるからな。それに比べれば俺たちなど凡人だろうよ」
俺は苦笑を浮かべながら告げる。
そう天才はいる。しかも天才なやつほど無自覚なのだ。
世に名高い剣聖などがそうだろう。
彼は自分にできることはみんなができると思っていた。
かつて教えを乞うた時にはひたすらに断られた。
「いや、ぼくそんなに強くないんで」
「ぼくの剣はそんなにすごくないですよ?」
などと自分を卑下しながら。
それでも頼み込み続けると根負けしたように剣を抜いてくれたのだ。
「じゃ、みんなできると思いますけど」
と見せた剣技は常人ができる域を軽々と超えるほどの技であり、見ていた人たちの心を掴み、魅せた。
あの領域には自分は到達できないと示された。
「天才は遠いなぁ」
しみじみと言った俺の言葉に皆苦笑を浮かべるだけだった。
しばらくは魔物にも遭遇せずに七階層に向け逆走していた俺たちのパーティだったが先頭を歩いていた戦士が手を上げたため、一瞬にして全員に緊張が走った。
「どうした?」
「なにか聞こえる」
俺たちのパーティには気配探知などが得意なやつがいないため戦士が先頭に立っているが戦士の気配探知もかなりのもののためみんなが信頼していた。
ゆえに戦士が告げた言葉を誰も疑うことなく自然と背中を合わせ死角を減らし警戒する。
「どこからだ?」
「わからない、だが近い」
全員が各々の武器を構え警戒する中、俺の耳にも僅かな音が聞こえ始めていた。
「……確かに聞こえるな」
「これ近づいてきてないか?」
警戒を強め、周囲を観察するが変化は全く見られない。だが、確実に音は近づき、徐々に音は大きくなってきていた。
誰かが唾を飲む音が聞こえると同時に響いていた音が止まる。
「……止まったのか?」
周囲に俺の声だけが響く。
誰もが緊張し身動きが取れなくなっていた。
しばらく警戒するも変化は現れない。パーティのメンバーも少し気を抜いた。瞬間、
再び轟音が響き、頭上から岩が降り注ぎ始めた。
「な、なんだぁ⁉︎」
「とりあえずは防御だ!」
魔法使いが混乱しながらも魔法でシールドを張り、戦士と俺がシールドで防げそうにない大岩に攻撃していく。
(くそ! どうなってやがる!)
俺は心の中で悪態をつきながらも剣を振るい続けた。岩を弾き、砕き少しでも被害が少なくなるように力を尽くす。
「あら、同業者ですか」
「あ?」
俺が必死に剣を振るう中、なんとも間が抜けた声が耳に届いた。
僅かながらに視線を向けると銀色の髪をなびかせた少女が奇妙な服を着、柄だけを持った状態で立っていた。
「いやぁ、まさか下に人がいるとは、頑張って生きてくださいね!」
「リリカァァァァァァァ! 逃さなぃぃぃぃ!」
今度は岩くれと共に轟音を響かせながら今度は金の輝きが舞い降りてきた。
金の輝きは髪であり、立ち上がり髪をかきあげると人族ではありえない細長い耳が目に入ってきた。
「エルフか?」
思わず溢れた言葉だったがどうやら銀の髪の娘もエルフだったらしく楽しげに笑っていた。
「はは、まだまだ元気みたいですね。では最短コースを再開しましょうか!」
「うるさい! さっさと私に斬られなさいよ!」
片や楽しげに笑みを浮かべながら、片や目を血走らせ物騒な言葉を吐きながら落石が続く空間で対峙していた。
徐々に降りしきる石が減り始め、完全に落ちてくるものがなくなった瞬間、俺の眼から二人は同時に消える。
しかし、通路の至る所で剣閃の音が響き火花が散る。
おそらくは目に見えない速度で攻防を行っているのであろう。音しか響かずただ、通路だけが破壊の跡を作り続けている。
「いいですよ! もっとゆか割りましょう!」
姿を見せた銀の髪の少女再びにこやかに笑いながら柄だけの剣を振るっていた。
「なんで斬れないの!」
金の少女がイラただしげに白刃で迎え撃ち弾け返す。さらには細い体からはありえない膂力を発揮しさらなる破壊を繰り返す。
銀の少女は柄を振るい攻撃を捌くが上段から振り下ろされる攻撃だけは捌かずに躱し破壊を許していた。
その行動を何度か繰り返し金の少女がついに床を叩き割る。
その瞬間、銀の少女がいやらしく笑う。
「最短ルートありがとう!」
銀の少女はにこやかに笑ながら手を上げると少女は金の少女へ素早く刃を振るい一気に後退させる。
「くっ! 相変わらず早い!」
「じゃぁね」
大きく刃を振るい銀の少女は金の少女が作り上げた穴へと潜り込んでいく。
「ァァァァァァァ! また逃げられたァァァァァァァぁ!」
叫び声をあげながらも金の少女は銀の少女を追うかのように自身も穴へと飛び込んでいった。
「なんなんだ、あれは…… っと、みんな無事か⁉︎」
落石が収まり、視界が砂けむりで覆われながらも声を出し、仲間の無事を確認する。
「ああ」
「なんとかね」
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