エルフさんが通ります

るーるー

確実に斬ったんですが?

 ダンジョンに入って結構経ちます。
 出てくる魔物はゴブリンやらやたらと大きな蟻や蜘蛛といったそんなに強くない魔物ばかりで妖刀の前ではスパスパと斬られ死体の山を築き上げていきます。これもしばらくすると消えていくんでしょうね。


『リリカ』
「わかってますよ」


 そんな向かうところ敵なしといった中、私とくーちゃんは背後を警戒してしていました。
 というのも途中から気づいたのですが明らかにこちらに近づいてきてる気配があるんですよね。


『魔物?』
「わかりませんね。人の可能性も……」


 喋っている途中で洞窟内が微妙に揺れました。なにか暴れてるんですかね。


「とりあえずこのまま警戒して進みます。地図通りなら次の分岐点の後に階段があるみたいですし」
『そうだね。こっちから行くのも怖いしね』
「面倒に巻き込まれるのはごめんですしね」


 そう非常に馬鹿らしい。自分から面倒にいくなんて。
 歩き続けていると少しずつ洞窟の雰囲気というか気配が変わっていっていることに気づきます。
 この感覚は魔力ですかね。
 地図に記された通りに分岐点を曲がりおそらくは階段がある方の通路へと入るとまた魔力の気配が濃くなりました。


「これは…… やっぱり下になにかあるみたいですね」
『じわじわするでしょ?』


 くーちゃん的にはこの感覚がじわじわとした物のようですが、恐らくは感覚の違いでしょう。私が感じるのはざわざわとしたものですから。


「これ魔力ですよね?」
『んーわかんない。でも動いてる感じがする』


 つまりはこの下には、いや、このダンジョンは七階層以上あるらしいんですがそのさらに下になんだかよくわからない魔力の塊が蠢いていると。
 シェリーの言っていた魔王復活に必要な物とやらかもしれませんね。


「お、あれが階段ですかね?」


 遠目に確認できた地下への入り口、心なしか気分が高揚しているのかスキップをするように近づいていきます。
 入り口を覗き込むと予想どおり地図もどき通りの階段がありました。
 特に代わり映えのしない普通の石の階段です。
 階段を降りている途中、下からも気配を感じていますし、もしかしたら同業者ですかね。


「はい、二階層に到着」
『ちゃーく』


 階段から飛び降り、二階層に足を踏み入れたわけですが特に代わり映えのしないものです。
 ですが明らかに人工的と言いますか自然物に手を加えたというのがわかるような洞窟へと変わっていました。


「可愛らしい冒険者がきたのぅ」


 階段を降りた先は結構な広さのスペースがあり、そこにたむろしている冒険者の一人が声をかけてきました。


「やだなぁ、可愛らしいなんて本当のこと言わないでくださいよ」
「はっはっは、素直な嬢ちゃんじゃ」


 快活に笑う冒険者ですがジジくさいですねしゃべり方が。


「おっちゃんはこのダンジョンに来てどれ位になるんですか?」
「一週間といったところかのう。あいつらと六階層と七階層を行ったり来たりじゃよ」


 おっちゃんは親指を立て背後を指します。みるとあと三人程の冒険者達がなにやら話し込んでいました。おっちゃんのパーティですかね。


「一階層、二階層は遊びのようなものじゃ、三階層からはまか変わるから気をつけるんじゃぞ?」


 よっこらせとと言わんばかりに立ち上がったおっちゃんは忠告をした後にパーティの方へと向かって行きました。
 親切な方でしたね。


『リリカどうするの? 先にいく?』


 先が気になるのかソワソワとした様子でくーちゃんが尋ねてきますがそれよりも疑問を解消させるとしましょう。


「ここで少し休んでいきますよ」


 そう告げ、壁際まで歩いていくと床に腰を下ろします。ここからなら階段から降りてくる人物と二階層から一階層へ戻ると人物の全てが見えますからね。
 魔法のカバンマジックバックからフード付きのマントを取り出すと頭から被りパッと見た感じでは誰かわからないようにすると私は少しうつむき気味になり、監視を開始します。


「リリカ! リリカはどこよ!」


 ばたばたと騒騒しく姿を見せたのは大剣を小枝のごとく振り回す破天荒娘ことベシュでした。彼女がいること忘れてましたね。


「落ち着けベシュ、リリカらしき人なだけでリリカとは……」
「さすがは私のライバル! もう先に行ってるということね! 行くわよ! 二人とも!」


 オーランドが静止の言葉をかけましたがベシュは聞く耳を持たない様子です第二階層の入り口へと突撃していきました。
 それをみていたオーランドとガルムは暫しの間呆然としていましたがため息を一つ付くと仕方なしといった様子でついて行きます。
 尾けてきていた気配はあれですかね?
 洞窟が揺れたのはベシュが暴れたからかもしれませんしね。


『すすむ?』
「そうですね」


 服についた砂を入れ払い立ち上がりながら入り口の方に目をやると明らかにベシュが暴れまわっているであろう音が聞こえてきます。


「……あの騒がしいのからは離れていきましょう」
『……そうだね』


 互いの了承が取れたところでとりあえずフード付きマントをぬぎ魔法のカバンマジックバックにしまいます。


「おねえさん」
「っ⁉︎」


 突如声をかけられ私は横に跳ね飛び、鞘から刀を抜き構えます。


「やだなぁ、警戒しないでくださいよ」


 私の警戒する視線の先には上から下まで真っ黒の衣装に身を包んだ子供が立っていました。少女とも少年とも言える中性的な顔立ち。
 ただの子供です。ですが先ほどまで誰もいなかったところに子供は立っているのですから警戒します。


「そんなに警戒されたらお話も出来ないよ。せっかくの……なのに」


 残念そうにしながら何かを言いましたが私には聞こえませんでした。


「……あなたなんですか?」


 切っ先は向けたまま、しかし、いつでも逃げ出したり、斬りかかることができるようにしながら私は尋ねます。


「気になる? 気になる? でも今の君には聞こえないよ。だから言わない」


 目の前の子供が人をバカにした様な笑みを浮かべた瞬間、私は一気に踏み込み、妖刀を下から上へと振り上げ斬り込みます。
 確実に切り裂いた感触が私の手に残る中、しかし、子供は今だに笑みを浮かべていました。


「うん、おねえさんならそうすると思ってた。だからこそ資格がある」
『生きてる⁉︎』


 くーちゃんと同じ疑問を抱きつつも斬られたにも関わらず血すら流れない子供から再び距離を取り刀を構えます。その際に刀の方に僅かに視線を送りましたが刃には一滴の血もついていませんでした。


「お化け?」
『そんな非現実的な物じゃないよ』


 愉快そうに私の言葉を否定してきた子供の姿が徐々に薄くなっていきやがて完全に姿を消しました。
 同時に今まで見られていたように感じていた気配が完全に消えます。


「あの子供だったんですね」


 気配が消えた事で私は警戒を解き、刀を鞘へとしまいます。


「また会おうね。おねえさん」


 私だけに聞こえるであろう小さな声が耳に入りました。
 ああ、またくるんですね。


「会いたくないですねぇ」
『さっきのなに! なになになに!』


 興奮と恐怖を半分ずつ混ぜたような表情を浮かべたくーちゃんが私の服を掴みに引っ張りまくっています。


「私が聞きたいんですけどねえ」


 くーちゃんの質問に答えれるはずもない私はベシュ達が先に進んだ第二階層への入り口へ向かい歩き始めるのでした。

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