エルフさんが通ります

るーるー

ベテランの実力

『どうする? 追い抜いてダンジョンいっちゃう?』
「そうですね〜」


 曖昧に答えながら頭上を見上げます。
 野営の準備も持ってきてはいますがまだ早いですしねぇ。
 太陽はまだかなり上、沈むまではまだかなりの時間がありそうですし一度ダンジョン内にいくのもありでしょう。


「最悪ダンジョン内で寝たらいいわけですし」


 そう結論付けると今まで追跡用に開けていた間隔を一気に詰めていきます。
 広場のような所に入ってようやくベテラン? パーティの皆さんが私に気づきました。


「お前!」
「なんでしょうか?」


 リーダーらしき大柄な男がいきなり睨みつけられましたが理由がわかりませんね。
 見れば他のパーティの皆さんは私には興味がなさそうです。


「後をつけてきやがったのか」
「ええ、なんで気づかないのかなぁと考えて罠かと疑いましたが、あまりにもなにもしてこないので普通に尾けさしていただきましたよ?」


 ああ、怒ってますね。
 元から怖い顔がさらに凶悪なものへと変わってますし。
 男がゆらりと立ち上がり、背中の剣に手を回しています。


「俺たちはな、遊びでダンジョンに来てるわけじゃないんだよ。生きるための金儲けに来てるんだよ」
「そうですか。私は観光と実益、あとちょっぴりの好奇心からダンジョンに入ろうかと思ってます」
「舐めるな!」


 大剣を掴んだ丸太の様な茹でが振るわれ、刃が閃かされます。
 切っ先は私の首横の少し手前で止められていました。正確には私が首と大剣のあいだに妖刀を抜いて受け止めたんですけどね。
 本気で殺す気でしたね。


「舐める気なんて微塵もありませんよ?」
「好奇心からダンジョンに入る様なやつがか?」
「正確に言えばあなた方などは興味がないので。それに私が死んだ所でべつにあなた方全く困らないでしょう?」


 なんでそんなになるのかわかりません。
 パーティメンバーが一人で入ろうとするのなら止めるべきですが私は彼等のパーティではありませんからね。止められる理由はありません。


「あ、それとも私に惚れましたか?」
「はぁ⁉︎」
「なるほど。私に惚れて危険な目にあってほしくないと。鳥籠の中の鳥でいてほしいというわけです」


 ふぅ、野蛮な冒険者すら惚れさしてしまうとはなんて罪作りな美少女なんでしょうか。
 男のパーティメンバーがひそひそと声を潜め話し始めていました。
「リーダー、ロリコンなのか?」
「かもしれない。前に酒飲んでた時に十五歳以上はババア!とかいって乱闘してたし」
「ちょ⁉︎ それじゃぁ、あたしもババアになるじゃない!」


 本人達は声をかけ小さくしてるため私と対峙しているリーダーには聞こえませんが耳のいいエルフである私には丸聞こえなわけなんですよね。


「あなたロリコンなんですか?」
「なんだと⁉︎」


 握られている大剣が私の妖刀をジリジリと押し込んできます。あれ? 本当のことを言ったのになんで怒るんですかね?


「あ、秘密でした?」


 私が言葉を発した瞬間、大剣が今まで以上の力で振り抜かれたため仕方なしに私は後ろに飛び退きます。
 馬鹿みたいな力ですね。手が痺れましたよ。


「俺はなぁ! ロリコンなんかじゃねぇ! 十五歳以上のババアには興味がないだけだ!」
「……いや、それきっと病気ですよ?」


 男のパーティの女性陣から怨みのこもった様な声をかけ向けられながらも雪を撒き散らす様に疾走してきた男が大剣を私に向かい振り下ろしてきます。さっきの一撃でも充分効きましたからね。まともに受ける気はありません。
 振り下される大剣の横腹を狙う様に妖刀を振るい無理矢理に軌道をズラしていきます。大剣は私ではなく地面に叩きつけられ、雪や土を衝撃で吹き飛ばしてしまいました。
 当たったらやばいですね。


「ちぃ!」


 当たらなかったのがイラついたのか男が大剣をひるがえし、再度私に対して振り回してきます。
 それに対して私は妖刀で受けることはせずにひたすらに軌道を変えることに集中します。
 鳴り響くのは激しい剣戟の音ではなく私が小さく振るう妖刀の音と軌道を変えられる無駄な破壊を繰り返す大剣が上げる破壊音だけです。


「やめません? 戦いからはなにも生み出せませんよ? 減るだけです。カロリーが」
「だったら俺に一太刀入れて見やがれ! へんな攻撃ばかりしてきやがって!」


 いや、私からは一切攻撃してないんですけどね? 弾いて逸らしてるだけですし、筋肉の塊となんて戦うのしんどいじゃないですか。
 しかし、このまま攻撃を受け続けるのも面倒です。


「はぁ、一発でいいんですね?」
「ああ! 当てたら認めてやる」


 べつに認められなくても全く困らないんですがね。
 そう考え、横薙ぎの攻撃を躱しきれなかったので妖刀を縦に構え防ぎます。
 重!
 衝撃とともに積もった雪と地面を削りながら大きく後ろに下がらさせられました。


「面倒ですね」


 妖刀を腰の鞘にもどし、魔法のカバンマジックバックから弓と矢を取り出します。


「くーちゃん、面倒なので全開で」
『あいさー!』
「風よ、回り捻れよ」


 番えた矢に自身の魔力とくーちゃんの魔力が注ぎ込まれていきます。同時に矢が悲鳴をあげるかの様な音を上げていますね。
 やはり鉄の矢にすればよかったかもしれません。今の弓矢もちますかね?


「あ、腕は覚悟してくださいね?」
「は? なにを言って……」
暴 風 矢ウィンドストームアロー


 風を削る様な音を鳴り響かせながら私の手元を離れた矢は一直線に大剣を構える男に突き進んでいきます。
 ただし、剣戟のでなんて生ぬるいと感じさせる様な速度でですが。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」


 ドラゴンの皮膚と拮抗するほどの威力をもつ暴 風 ウィンドストームアローです。当然反応できなかった男の肩を突き貫き大きな穴をこじ開けました。さらには後方に口を開けるダンジョン入り口に潜り込むと中から轟音が鳴り上がりました。
 弓をしまい、腰の妖刀を再び抜き放つと軽く素振りをしながら肩を押さえ痛みの声を上げ続ける男の方へと近づき、


「さっきので一撃ですが、まだやります偶然かもしれませんよ?」


 首筋に刃を当てにっこりと笑顔を浮かべて告げてあげます。
 男は汗と涙を流しながらゆっくりと首を横に振るのでした。

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