エルフさんが通ります

るーるー

なにやら黒い陰謀の匂い

「魔王ですか」
「ああ、君も聞いたことくらいはあるんじゃないのかい?」


 ようやく椅子への頬擦りをやめた変態が椅子へと腰掛け、足を組みながら私を見て来ます。


 魔王。
 魔物の王書き魔王。
 勇者がいるんだからいるとは思っていましたが実在するんですね。


「魔王と勇者は表裏一体。光と影だ。どちらかが存在すれば片方が消失することはない」
「その魔王復活とやらが目的ですか?」


 それならその先のことを考えていないですからねか。楽しくはなさそうです。


「少なくとも我輩は違う。魔王とはあくまで象徴として君臨していただく。我輩の目的は世界征服だよ」
「世界征服……」


 口から出るとなんてカッコ悪い言葉なんですかねぇ。


「そう! 世界征服さ! そして我輩の夢である娘との結婚を世界でも白い目で見られることなく行えるように……」
「はい、そこまでです。アリエル」
「はい、お嬢様」


 なにやら頭のおかしい発言をし始めた変態の言葉を遮ったシェリーがアリエルに視線をやりながら言葉を発するとアリエルが了承。


「失礼します。変態」
「なんだね? ぺるぱぁ!」


 疑問符を浮かべている変態の顔面にすかさず拳を叩き込み、一瞬にして沈黙させました。その拳には一切の容赦が見えません。


「疑問は解けましたか? リリカさん」
「なんとなくはね。ただ疑問ができたよ」


 魔王の復活。それが黒の軍勢の最終目標らしいですが中途半端ですね。あくまで過程でありそうですが。


「さきほど派閥があるといってましたが魔王を復活さした後も派閥ごとにこうどが違うのでは?」
「ええ、派閥でいろいろと違いますわ」
「となるとシェリー、あなたの派閥はどう動くのかな?」


 魔王に従うという選択肢はお断りしたいとこですね。
 私の視線を受けてもシェリーはニコニコと笑い続けています。


「ふふふ、リリカさん? 根本から間違ってますわ」
「なに?」


 根本から? はてどこからでしょう?


「まず、私の派閥ですが三人しかいませんわ。私、アリエル、そしてリリカ、あなたです」
「……光栄ですが少ないですね」
『わたしめいるよ?』


 くーちゃんを入れても四人。
 これでは派閥ではなくグループですね。


「私は自分の気に入った人しか入れたくありませんので」
「友達いないの?」


 一瞬、ニコニコと笑っていたシェリーの顔にヒビがはいったような気がしました。心なしかひとみも揺れているようですし、この話はこれでやめておきましょう。


「お嬢様、お友達いないんです」


 アリエルが取り出したハンカチで目元を拭う素振りを魅せます。


「そ、それはいいんです」


 笑顔ではなく顔を赤くしたシェリーが話を切り、小さく咳払いをしています。


「そして私の派閥は魔王を復活させる予定はありません」
「それは黒の軍勢としてはどうなの?」


 魔王を復活させるのが目的の黒の軍勢の中で魔王を復活させないという矛盾。意味がわからないですね?


「私の派閥の目的は楽しむことです。結果的に魔王が復活してもいいんですが」


 邪悪。まさしくその言葉が一番似合う表情を浮かべてシェリーは笑います。


「世界は黒の軍勢で掻き回されるでしょう。魔王復活の大義を掲げ黒の軍勢は必要な破壊、侵略をして行くはずです。ですが……」
「それわ私達が妨害すると? 楽しむために?」


 小さく頷いたシェリーを見て私はため息を付きます。
 それは確かにたのしそうですね。
 言うならば高く高く積み上げた他人ががんばって作り上げた積み木をこちらが楽しいからというだけで潰すような物。
 その発想は嫌いじゃないです。


「リリカさんも嫌いじゃないかと思ったのですが?」
「うん、嫌いじゃないね!つまり魔王復活の邪魔をするんだ。復活させようとしている組織のお金を使って!」
「その通りです!」


 ああ、これはとても楽しいかもしれません!
 希望が打ち砕かれた人達の顔、見て見たいですし。


「喜んで契約しましょう」


 私は自分から手を出し握手を求めます。
 その手に気付いたシェリーは再び悪魔のような笑みを浮かべるとがっしりと手を掴んで来ました。


「さぁ、悪戯で世界を回しましょう」


 こうして派閥、黒薔薇の面々はニヤニヤとしながら手を取り合ったのでした。

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