エルフさんが通ります

るーるー

悪党もバカと紙一重なんでしょうか?

「それで、どこに向かうのかな? 『お嬢様』」


 あれから酒場を出た私達三人はアリエルの使った魔法。すでに失われたはずの古代魔法転移魔法で見知らぬ場所に来ていました。
 ぱっと見た感じでは何処かのお屋敷のようですが。
 あと話をしていて気付いたのですがどうも『お嬢様』『アリエル』というのは素性をバラさないようにするために使っている名前のようですね。


「ふふ、着いて来ていただければわかりますわ。ところでリリカ様はなんとお呼びすればいいです?」
「あなた達のような呼び名のことですか?」
「察しが早くて助かりますわ」


 歩くのを止めこちらに振り返るとにこやかに微笑んで来ます。男ならイチコロでしょうね。
 しかし、呼び名ですかふーむ。


「なにかいいのはありますか? くーちゃん」
『ん? なんでもいいんじゃないの?』


 周囲を興味深そうに見ているくーちゃんはとても愛がないリアクションをしてくれますね。しかし、困りますね。


「なんでもいいんですか?」
「ええ、同じ名前でなければなんでもよろしいですわ」
「だったら『美少女』でお願いします」


『「「……」」』


 沈黙がいたいですが?


「だめですか?」
「い、いえ、大丈夫です! いきましょう『自称美少女』で!」
「いえ、『美少女』なんてすが……」


 なぜか聞く耳を持たないお嬢様。しかし、アリエルはというと気にした様子もなくお嬢様に続き歩いていきます。


「くーちゃん、私おかしなこと言いましたかね?」


 美少女のどこがいけないんでしょう?


美 少 女自意識過剰?』
「その読み方は酷いとしか言いようがありませんね」


 ま、いいです。これから私は『美少女』と名乗りましょう。いやぁ、真実とはいえなかなかにいいネーミングだと我ながら思いますよ。


「それではリリカさん」
「ん?」


 歩みを止めた『お嬢様』が私に振り返ってくる。彼女ね背後には大きな扉がありますね。


「この扉を開いたら後戻りできませんよ?」
「今まで後戻りしたいと思ったことありませんので不要な心配ですね」


 今まででさえやりたいことしかやってこなかったのです。今後もその生き方を変えるつもりはありません。


「愚問でしたわね。いきましょう」


 そう告げると扉が自然と開かれ光が差し込んできます。眩しさに目を細めますがすぐに慣れました。


「これは?」


 私達の眼前には様々な服装、様々な種族が食事や飲み物を飲みながら談笑していますね。


「黒の軍勢のパーティですわ」


 お金持ちばかりねパーティなんでしょうか?


「お嬢様、私はこれで」


 考え込んでいるとアリエルが一礼してきました。


「そうね。お父様に連絡しといて頂戴」
「了解しました」


 再び礼をするとアリエルはどこかに去っていきます。
 お父様? 誰でしょうかね?


『うまぁ!』


 くーちゃんはというとすでに食べ物のほうに関心どころか食べてますし。


「お父様がお会いになるまですこしお待ちくださいね」
「それはいいけど、お嬢様は呼びにくいね」


 名前がお嬢様ではないでしょうが人前では明らかに浮きます。


「ああ、そういうことてしたら呼ばれる時はシェリーで結構ですわ。ただ、ここにいる間はお嬢様でお願いしますわね美少女」
「了解しました。お嬢様」


 一応は芝居がかった演技で一礼をするとシェリーは楽しそうに笑います。こうして見ると年相応ですね。


「これはこれは黒薔薇のお嬢様ではありませんか!」
「……道化師様ですか」


 大きな声で話しかけられたからか振り返ったシェリーでしたが明らかに嫌そうな顔ですね。例えるなら嫌いな食べ物だけを皿によそわれたらこんな顔をするかもしれません。


「騎士の国では残念でしたなぁ、人造魔剣の実験がしっぱしたそうで」


 明らかにバカにしたていった様子でこちらに向かってくる道化師という名のデブ。かなり不愉快ですね。


「ええ、こちらもかなりの時間をついやしたんですけど残念でしたわ」


 全く残念そうじゃない声を出しながらシェリーはいかにも悩んでますという表情を作りながら言葉を返しています。でも明らかに口元はわらってますし、困ってないんでしょうねぇ。
 それを困っていると受け取ったのか道化師デブが身を乗り出すようにしてきました。


「でしたら! 僕の駒をお貸ししましょうか⁉︎」


 シェリーの手を掴み、明らかにシェリーの目ではなく胸元に注視しながら述べてくる道化師デブ。下心丸出しである意味清々しいですが不快なことに変わりないんですがね。


「いえ、その必要はありませんわ。道化師様」


 やんわりと言った様子で掴まれた手を払いのけ、私の後ろに隠れるシェリー。道化師デブが明らかに敵意のある光を宿した目で私を見てきてるんですけど。


「お嬢様、そちらの方は?」


 怒りを抑えながら尋ねてきてるのがバレバレですね。
 そんな怒りに震えている道化師デブを口元を歪め笑ながらシェリーは告げます。


「こちらの方は私の新たな同志となっていただいた方です」
「こんにちは、『美少女』てす」


 にこやかに挨拶をしましたが道化師デブは忌々しいと言わんばかりの瞳を向けてきます。


「ほう、黒薔薇の」
「となるとかなりの腕では」
「彼の方のメガネに叶うとは」


 周囲がざわざわとしていますが道化師デブだけはこちらに瞳を向け続けています。


「なにか御用で? 道化師デブ
「き、きさまぁ!」
「あら美少女、そんなことを言ってはいけませんわ」


 ニヤニヤと楽しそうにしながらシェリーが私を止めてきます。目と行動が一致していませんね。


「たとえ真実でもね」
「きさまぁ⁉︎」


 ああ、シェリー。あなたは本当に同種だと確信しましたよ。
 口からでる台詞がいちいち小物くさい道化師デブはぎゃあぎゃあわめいています。面倒ですし斬っちゃおうかな。そう考えると腰の妖刀の柄を掴み引き抜こうとするとシェリーに手で止められました。


「道化師様、ここは決闘で決めませんか?」
「決闘だと?」
「はい、決闘です。あなたが勝てば私達をご自由にしていただいて結構ですわ。あなたが負けたら其れ相応の対価を払っていただきますが」


 そうシェリーが告げた瞬間に道化師ブタの目の色が変わります。値踏みするように私とシェリーの体を気持ちの悪い視線で見てきます。


「いいだろう、その決闘受けてやる!」


 道化師ブタが決闘を受けるのを宣言すると周囲がワッと盛り上がります。
 そんな中、私とシェリーだけが口元を歪め笑っていました。


『おなかいっぱい』


 食べ過ぎたくーちゃんは周囲の騒ぎなど気にせずテーブルの上で転んでいました。和みますねぇ。

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