エルフさんが通ります

るーるー

あんまりおいしくなぁぁいでぅす

 酒場の扉を開けて中に入ります。
 それだけで外気とは全く違う暖かさが体を包み込んでくれるのでようやく緊張を解くことができます。


『リリカもようやく扉を手であけるということを覚えたね』
「まるで野蛮人みたいな言い方をしないでください」
『説明いる?』
「いいです」


 確かに初めは扉を蹴破って入ってインパクト重視でいってましたからね。


「リクエストとあれば蹴破りますが?」
『寒くなりそうだからやめて』


 再び扉を開けて外に出ようとした私のコートの裾を掴んでくーちゃんが止めてきます。私は希望になるべくは応える女なんですがね。


「いらっしゃいませー、一名様ですか?」
「精霊いますが一名です」


 そういえば精霊の単位ってなんなんでしょうか? 匹?
 ウェイトレスさんに誘導されるままにテーブルに着きます。


「御注文は?」
「つまめる物適当に、体が温まる飲み物適当に、あと果物……」
「そこも適当に?」
「いえ、マルテーィーナ伯爵が造るのに成功したというボルバという果物を」
「そこだけ指定!?」


 そんなのあったかなーとぼやきながら立ち去っていくウエイトレスさんを満足げに見送ります。
 そんな果物あるわけないじゃないですか。マルテーィーナ伯爵? 誰? みたいなレベルです。


「今後どうするか考えましょうかね」
『観光じゃないの?』
「観光なんてすぐに終わりますよ、私がここで見たいのは戦争です」


 エルフの里では戦争というか外に遠征にいくような感じでしたからね。それにも参加してないからなんとも言えないんですが。


『だから戦争が起こりそうだと聞いても来たんだね』
「人類は戦争からなにも学ばないと言われていますが私はどうなのか見てませんし、もしかしたら学んでる人もいるかもしれませんよ?」
『リリカみたいなエルフもいるんだしね』


 褒め言葉として受け取っておきましょう。
 そう考えて微笑んでいると頭に軽い衝撃が走りました。頭をさすり後ろを振り返るとトレーを持ったウェイトレスさんが立っていました。
あ、この表情はばれましたか。


「よくも騙したね」
「騙してません、口が勝手に動いただけです」
「たち悪いよ!」


 いや、あのトレーで叩くのやめてください。地味に痛いです。
 ひとしきり叩き終え満足したのか注文していた物がテーブルに並べられて行きます。文句は言いながらも仕事はするんですね。これがあれですか、本で読んだいわゆる社畜? ってやつですか。


「とりあえずつまめるのとあとあったまる飲み物は火酒よ。結構強いけど大丈夫?」
「飲んだことないけど大丈夫でしょう。あ、果物も適当で」
「はいはい」


 呆れたように手をひらひらとさして背を向けながらも聞いてはくれるようです。
 さてさて、舌なめずりしながらテーブルに置かれた真っ赤なお酒、火酒のボトルを傾け、なみなみとグラスに注ぎ手に取ります。


『強いのお酒?』
「さぁ?」


 手にしたグラスを一気に飲み干します。喉を通るのがわかる位の熱いですね。


「あんまりおいしくなぁぁいでぅす」
『赤⁉︎ 顔真っ赤だよ⁉︎』


 頭が少しクラクラしますがなんともありませんよ。


「もい、いっぱい。もぃいっぱいね」
『酔ってる! 絶対酔ってるよ! リリカ!』


 そんあことありません、私酔ってません。ちょっと舌足らずになってるだけです。


「みぃーつけた」
「はえ?」


 頭がいまいち動かない状態で後ろから声をかけられましたがとりあえずは振り返ります。
 後ろにはクローフード付きのコートを着込んだ人が三人。フードの下からは笑みが覗けますね。
 はて? みたことあるようなないような……


「どちらしゃまで?」


 私が言葉を発した瞬間、とても濃い魔力が周囲に充満します。くーちゃんはあわわわと震えています。


「私たちの顔を忘れたですってぇぇ? リリカ・エトロンシア!」
「ふむ」


 とりあえずグラスに再び火酒を注ぎあおります。
 うまうまですね。
 少し満足した所でもう一度、今度は怒気を露わにしている三人組に視線を戻します。


「知りませんね。私、ひとじゃとには知り合いすくにゃいんです」
「へぇ、そう」


 三人組の一番手前にいた人が一歩前に出てきます。


「だったら無理やりにでも思い出させてやるわよ!」


 何も持っていない両手を何かを握るようにして後ろに振りかぶると更に一歩、大きな音を立てながら踏み込み振り下ろしてきました。
 響くのは破壊音、私が頼んだ物は真っ二つに叩き切られたテーブルとともに宙を舞います。


「ほい、よ!」


 宙を舞っている食べ物の皿を立ち上がり掴むと飛び散っているものを拾い集め皿に盛りなおします。ついでに火酒のボトルも回収しておきます。


「食べ物は大事にしないといけましぇんよ?」
「こいつは! いつも私を馬鹿にして!」


 どこからか取り出した大剣を振り下ろしたままの姿勢で私を睨みつけてきます。
 その表紙に被っていたフードが取れ、金色の輝きをした髪が零れ落ちました。そして露わになった人ではありえない尖った耳。


「ああ、あなたはベシュ・ホンロードじゃありませんか。どうしましたこんなとこまで?」
「ようやく名前を思い出したと思ったら、いつもいつも上から目線で!」
「だって、あなた私に勝った事ないじゃないです」


 ブチっと何かが切れる音が私の耳に入りました。


「ふふふ……」


 ん、なにか面白いことでもありましたかね?


「このビッチがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 おお、殺気を隠す気もなくこちらに浴びせてきますね。ビッチってなんですか全く。
 後、変な音が響きましたね。
 周囲にやたらと魔力を放出してますし、何かつぶしたんですかね。


「調子に乗らないでくださいよ、リリカ・エトロンシア」


 テーブルを叩き切った帯剣がゆっくりと上げられ、破片がパラパラと音を立てて床に落ちます。


「図には乗ってませんよぉ? 事実を述べただけです」
「いいでしょう! 決闘です! リリカ・エトロンシア! 現エルフ族が長老の孫ベシュ・ホンロードが決闘を申し込みますわ!」
「たかだかと宣言しているところすいませんが嫌ですよ」
「何で!?」


 私の言葉に驚いているベシュの言葉が酒場中に響きました

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