エルフさんが通ります

るーるー

黒い人たち

 
 破壊され、逃亡した賊を追いかけ誰もいなくなった謁見の間。
 厳密には串刺しにされた首なしだけが転がっていた。
 首なしの身体にはいく本もの剣、槍が突き刺さっており身動き一つ取らなかった。


「がっかりです。わざわざ人工魔剣まで使いましたのに」
「まったくです」


 コツコツと音を立てながら謁見の間に二人が入ってくる。


「とりあえずはサンプルとして持って帰りましょう『アリエル』」
「はい、『お嬢様』」


『アリエル』と呼ばれた者が一歩前にで、無造作に腕を伸ばし首なしの足を掴み持ちあげる。


「……疲れますので引きずっても?」
「構わないわ」


『アリエル』と呼ばれた物に首なしを押し付け『お嬢様』はスタスタと先を歩いていく。
『アリエル』も無言で原型のなくなっている首なしの足を掴み引きずりながら『お嬢様』の後を追う。


 ズルズルズルズル


「全く、残念です。三年もの歳月を使って狂わせた王がこんなにもあっさりとやられるなんて」


『お嬢様』が首なしを足蹴にしながら悪態をつく。蹴りが叩き込まれるたびに首なしの身体の一部がなくなっていくが蹴っている『お嬢様』は気にも留めていなかった。


 ズルズルズルズル


「来月にはこの国を足切りにして他国を切り崩す予定でしたのにまた一から予定の組み直しですわ」
「お嬢様の言う通りです」


『アリエル』が答え、『お嬢様』は満足そうに頷く。
 『お嬢様』は足を止め、転がっていた漆黒の剣を拾い上げ首を傾げる。


「所詮は人工物、天然物の魔剣には及びませんわね」


 拾い上げた剣には幾つもの小さな傷がついていた。本物の魔剣ならあの程度の戦闘で傷が付くということはあり得ない。それを『お嬢様』は理解していた。


「ですがなかなかいい戦いではなかったですか?」
「まぁ、いい戦いだったわ。でもこれじゃあね」


 そう冷笑を浮かべながら首なしを再びけりつける。


「あの仮面とはいい勝負だったわ。でもその後に騎士達に包囲されて潰されちゃうようじゃ使い物にならないわ。狂い方が足りなかったのかしら? まぁ、あの方達がイレギュラーすぎたのか」


 『お嬢様』は足を止め思考する。前者ならまだ許せるが後者ならば今後いろいろと邪魔になるだろう。


「まあ、今は捨て置いていいのではないでしょうか? 殺らなければいけなくなれば殺ればばいいだけだと考えますし、いざとなれば私が出ます」
「そうね。あなたが出ればすぐに終わるでしょう」
「そう言って頂けると光栄です。『お嬢様』」


 ほっとけばそのうち野垂れ死ぬ。それが冒険者という職業だというのは『お嬢様』は理解していた。彼女はそう考え終えると黒剣を手元で遊びながら再度歩み始める。


「『お嬢様』、次はどちらに向かわれますか?」
「そうね。『アリエル』、とりあえずは……」


 穴の空いた壁から見える城下に視線を落とし笑みを浮かべる。


「北かしらね」


 ズルズルズルズル


『アリエル』が首なしを引きずる音だけが響き、そこに重なるように『お嬢様』の愉快そうな笑い声が鳴り響くのでした。周囲に黒い花弁を散らしながら。



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