エルフさんが通ります

るーるー

用意して欲しいものとやってほしいこと

「リ、リリカさん、こんな小汚いところになんの御用で?」


 大の大人がビクビクしながら私に席を勧めてくるのはなかなかに見ていて笑える光景ですね。
 今、私の目の前にいるやたらとガタイのいい男が王都の三大犯罪組織、フレディゴのボスとは誰も思わないでしょう。
 私は勧められたソファーに座りフードを取りボスの顔が見えるようにします。テーブルを挟み私の対面にボスが怯えながら座ります。
 うわぁ、なんですかこのソファー! フカフカですよ!
 やっぱり良い物っていうのは違いますね。どうやってお金を手に入れているかは別ですが。


「ボス、姉御ハ依頼ガアルソウデス」
「依頼?」


 ビクビクと、していたボスにキツネが話しかけるとボスは怪訝な顔をしてきます。


「失礼ですが暴力という力ならばリリカさん一人で十分なんでは?」
「そこですぐに暴力=仕事に結びつけるのはさすが裏社会だと感心しましたよ」
「俺らはそれが仕事ですんで」


 まぁ、力のない組織っていうのも弱そうですからね。


「でも、最近では頭も使わないと儲からないんじゃないんです?」
「ははは、痛いところを。最近は騎士団がやたらと動き回ってますのでこちらとしても商売をし辛いのが現状です」
「犯罪組織も大変ですね〜 で売り物は薬? 人?」
「どちらも扱っていますが最近はどちらもさっぱりですよ」


 ほほう、好都合ですね。
 仕事がない犯罪組織というのはいいように利用できそうです。


「なら、私の依頼に乗る気はありますか?」
「内容によりますね」


 先程までのオドオドとしていた様子は全く見せずに堂々とした態度で接してきます。こういうのが悪役、というものなんでしょうかね。


「報酬はこれ」


 私は魔法のカバン《マジックバック》に手を入れると昼間に謁見の間にて貰った皮袋をテーブルに置きます。結構な重さでしたので置いた瞬間中の硬貨が小気味のいい音を鳴らします。
 置いた拍子に復路から黄金の輝きが零れ落ち、それを見たキツネとボスの息を飲む音が聞こえてきました。


「……ど、どんな依頼で?」


 金額からかなり無茶な依頼を頼まれると考えたのかボスは脂汗をかきながら尋ねてきます。
 ふむ、断るという選択肢はないようですね。


「内容は大まかに言うと準備して欲しいものとやって欲しいことの二つ」
「トイウト?」


 キツネも興味を持ったのか尋ねてきましたね。
 私はこっそりとほくそ笑みます。


『……もう、絶対悪いことだよね』


 観光ですよ。普段入れない場所のね。


「まずはやって欲しいことから言いましょう。特定の日付、時間にこの犯罪組織フレディゴに街中で暴れて欲しいというのが一つです。報酬には当然、口止め料も入っていますよ?」
「暴れて捕まるまでが仕事というわけですか」
「ええ、楽な仕事でしょう?」


 暴れるだけで報酬である金貨が手に入る。
 逃げ切っても捕まっても報酬が手に入る仕事というのはなかなかないと思いますけどね。


「人を殺すのはどうするんでしょう? 殺ればかなり派手になりますが」
「あ〜 それは無しで。あ、地図ありますか? あとペン」


 私が地図を要求するとキツネがすぐにパラディアンの街が記された地図を持ってきてテーブルに広げます。
 受け取ったペンで私は地図上にバツ印を幾つか書き入れて行きます。


「このバツ印は?」
「ああ、潰していい建物ね。ここのは殺っちゃっていいです。こいつら悪どいことやってるからね。潰してもいいよ? 多分それなりに溜め込んでるから」
「ソレハソレハ」


 このバツ印はいわゆる三大犯罪組織からあぶれている連中で街の住民からもかなり煙たがられているそうですからね。いつもくーちゃん用の果物を買うおばちゃんも嘆いていましたし。この機会につぶして頂きましょう。たまには街に貢献です。


「ここを潰せば儲けも出るんでしょう?」
「ええ、そりゃもちろん」


 本当に悪い顔をしますね。まぁ、犯罪組織なんてこんなものかもしれませんが……


「それで? もう一つの用意して欲しいものとは?」


 そう、本当に必要なものはそちらなんですよ。


『リリカ、リリカも人のこと言えないくらい悪い顔してるからね?』


 おっと、ぽーかーふぇいすを心がけるんでした。
 難しいですね、今度からお面でも被ってきますかね。


「私が用意していただきたいものは、城の見取り図です」
「見取り図ですか?」
「ええ、用意できますか?」
「そりゃ、金をつかませている騎士の一人や二人はいますからすぐに手に入りますが……」
「姉御ハナニカ城カラ盗ミ出ス気デスカイ?」


 こちらの話に興味を持ってきましたね。
 ですがあれは私の獲物なんで譲る気はありませんよ。


「ええ、城の中の魔剣をいただきます」
「ほ、本気ですかい!? ありゃ王家の象徴のような剣ですよ!?」
「あとで作り直しますからいいんですよ。で、準備するのにどれくらいかかりますか?」


 さすがにそのまま使っていたらすぐにばれてしまうでしょうからね。ちゃんと考えはあります。


「二日待っていただければ。城の見取り図は手に入るでしょう」
「では二日後にまた来るとしましょう」
「ならばこちらから二日後に使いを出さしていただきます。その使いに暴れる時間を伝えてください」
「それでいきましょう」


 依頼という名の商談は終りました。
 私は名残惜しみながらもフカフカのソファから立ち上がり再びガフードを被り顔を隠します。


「ああ、もし、この計画がよそからばれるようなことがあれば判ってますね?」


 軽く、本当に軽く殺気を向けると途端に顔を蒼くしブンブンと音が鳴るように首を振っています。大丈夫でしょうか裏社会。


「あ、あとですね」
「ま、なだなにか?」


 怯えすぎですよ。犯罪組織。


「顔が隠せて且つユーモアのある仮面を用意して置いてください」


 ニタァと口元に笑みを浮かべそう告げます。


『うん、リリカも悪役だよね!』


 くーちゃんには何故か納得されました。

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