エルフさんが通ります

るーるー

えぐい戦い方をみせましょう

 夜の森に次から次へと閃光が走り、それが消えると同時に周辺に破壊音、爆発音が止まることなく響き続けます。
 標的シュバルツは今だ健在です。チョロチョロとネズミのように逃げ回っています。
 初めのうちは斧槍で弾いたり叩き落したりして迎撃してこちらに対して距離を詰めようとしていましたが今や逃げることで必死のようですね。だって撃つ銀矢の数ドンドン増やしてますし。よく見ると数本の武器がシュバルツに刺さってますしダメージは確実に与えています。


『またかわしたよ?』
「ええ、ですが動きが鈍くなってきています」


 もともとはくーちゃんの風魔法が付与された銀矢で攻め続ければすぐに終るかと思いましたが意外に粘ってきます。 ……怒りに我を忘れて攻撃が単調になったことも否定できませんが。


「あんまり長引いても面倒です。一気に勝負をつけますよ」
『でもこれ以上は銀矢多く撃てないんじゃないの?』


 確かにくーちゃんの言うとおりです。一射に十本。
 それが私に一度に撃てる銀矢の最大本数です。そしてすでに銀矢は一度に十本撃っています。これ以上大量には一度に撃てません。


「考えはちゃんとあります。むしろ本来ならこちらがエルフの戦い方なんですけどね」
『? どういうこと?』


 疑問符を浮かべながらくーちゃんが尋ねてきます。


「エルフは基本的に魔法で戦うか、もしくは弓で戦う。これが基本です。ごく少数戦士と呼ばれる剣や槍を使う人はいますが基本は弓と魔法です」
『ふむふむ』
「そして大前提は私のように魔法で矢を強化して戦うエルフがいないということです」
『なんで? 便利なのに』
「そこはプライドの問題らしいですよ」


 頭の固い連中にいくら説明しても納得してませんでしたからね。風矢ウィンドアローで長老の家を吹き飛ばしたのがまずかってんでしょうか? それともチェリナの服を大勢の前で吹き飛ばしたこと? まあ、どっちもっ些細なことですよね。
 思考に没頭しかけたのを振り払い私は魔法のカバンマジックバックに手を入れると目当てのものを取り出します。


『それなぁに?』


 相変わらず目ざといというかなんにでも関心を持ちますね、くーちゃん。


「これはですね」


 くーちゃんにもよく見えるように私は取り出した瓶を掲げます。中でタプタプと無輪先の液体が揺れています。


「エルフの里特性劇薬、名前を『苦シミ増ス』といいます」
『……すごい名前だね』
「ええ、エルフのネーミングセンスを疑うレベルのものです」
『……クーデルハイトナカトランバルティアもひどいと思うよ?』


 くーちゃんが何か言ってますが小さい声のため聞き取れませんね。


「おっとシュバルツくん、動かれちゃ困るんだよ」
 視界に動こうとしていたシュバルツが入ったため、『苦シミ増ス』をポケットにしまい私は適当な武具を全てを弓矢にオールボゥで掴み即座に放ちます。
 逃げようとしていたのかシュバルツの進路を防ぐように放たれた矢は武器に戻ると爆裂音を放ちながら進路を叩き潰していきます。
 ふふ、逃がしませんよ。
 普通の矢を取り出しつつポケットにしまった瓶の蓋を開け、『苦シミ増ス』に鏃を浸します。


『これ、触れるとどうなるの?』
「あ、触れたら死ぬほど痛いらしいんで触っちゃだめですよ?」


 好奇心から『苦シミ増ス』のほうに手を伸ばしていたくーちゃんがビクッとしながら手を引っ込めます。ま、傷が無ければ問題ないんですけどね。
 『苦シミ増ス』に浸した矢を取り出し、弓に番え夜空に向かい構えます。


『一直線に狙わないの?』
「弓なりに撃って上から落とします。こうすれば時間がかかりますし」


 一直線に狙って当たるとは思ってませんしね。
 天に穿ったのは五射。
 放ち終わるとすぐさま全てを弓矢にオールボゥで銀矢を作成。こちらは一直線にすでに身動きが取れなくなりつつあるシュバルツを狙います。なぁに、死にはしません。狙っているのは全部四肢ですからね。
 再び炸裂音が周囲に広がり自然破壊を再開します。
 シュバルツのほうを眺めると汗まみれになりながら逃げていますね。先程まで浮かんでいた余裕の表情はもう浮かべておらず必死の形相です。
 いい気味ですね。
 さぁ、止めを刺していきましょう。
 次に放った銀矢はシュバルツを直接狙わずに退路、そして行動を制限していくように射っていきます。前後左右に次々と放ち爆音を轟かせます。踏み出そうとした足元を片っ端から炸裂さしていくためシュバルツは私の予想道通りに完全にその場から身動きが取れなくなっています。


『すごい……』
「この程度で諦めるならば可愛げがあるんですがね」


 風切り音が私の耳に入り、更には視界に黒い点が見えました。しかも徐々に迫ってきます。


「これが最後の攻撃でしょうね」


 私は軽く首を傾げ、迫る黒点を回避します。数本、私の銀の髪を切り裂き• • • •ながら黒点は通過し後ろの大樹に突き刺さりました。


『ヒィ⁉︎』
「全く」


 悲鳴を上げるくーちゃんをよそに私は振り返ると大樹に突き刺さった斧槍を引き抜きながら投擲をしてきたシュバルツのほうへ向きます。
 視線の先には森林破壊され惨状と化した元盗賊団のアジトが眼に入ります。その真ん中に斧槍をこちらに投げつけたことで力が尽きたのかシュバルツが膝を付き方で息をしているのが見えました。すでに動く体力もないのか全く動こうとせずにこちらを激痛に顔をしかめながらも鋭い眼光で睨み付けて来ます。その背中には三本の矢が突き刺さってますね。


「ふむ、二本外しましたね」


 五本全て当てたと思いましたがまだまだ練習が必要のようですね。
 エルフの攻撃というのは基本的に毒を使った戦い方です。そのためかするだけでも致命傷というのは珍しい話ではありません。今回使った毒である『苦シミ増ス』はかするだけでその傷に激痛が走り続けるという拷問用の毒です。それが三本。想像を絶する痛みでしょうね。
 私は引き抜いた斧槍の柄をシュバルツに向け全てを弓矢にオールボゥにて銀矢へと変換します。


「さあ、さっきの言葉を今一度言いましょう『同じ目にあわしてやりますよ』」


 そう言い放つと同時に銀矢が唸りを上げて私の手元を飛び出します。
 風を切り、閃光と化していた銀矢はシュバルツに当たる直前で元の斧槍に戻り質量を取り戻し、彼の鳩尾に柄がめり込みます。
 その瞬間、シュバルツの顔が苦痛に歪むのが見て取れました。


「飛びなさいな」


 くーちゃんの魔法は使っていませんがあの質量の斧槍を柄といえまともに食らったシュバルツは弾けたように後ろに跳ね飛ばされ、一瞬で私の視野から消えました。続き後ろの森がバキバキとなにやら破壊音を鳴り響かせ、鳥が驚いて羽ばたいていく音が耳に入りました。


「ふー、復讐完了~ 斧の矢オバを向けなかった私の慈悲に感謝してほしいですね。私と同じように吹き飛ばしました。さ、見に行きましょうか」


 私はスキップを踏むように木から飛び降り歩き始めます。


『鬼?』


 ……なぜ疑問系なのですか? くーちゃん。

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