エルフさんが通ります

るーるー

潜入戦

 ガシャンガシャンと不快な音が夜の森に鳴り響きます


(うう、ちゃんと手入れくらいしておいてほしいです。錆び付いたとこが煩くて仕方ありません)


 昼間、盗賊団アジト周辺にたむろしていた男の一人、全身甲冑フルプレートの男を物音を立て様子を見に来た男を一人にしたところを私とマリーで体中にこぶしを叩き込むことで気絶さし全身甲冑フルプレートを奪い取りました。


『いいですか? 夜寝る時まで防具をつけて寝る人は稀です。ですからまずは防具の着いてない人を殺っちゃてください。まぁ、防具が手に入ったのど問題なく殺っちゃえそうですけど。混乱に乗じてわたしくしも斬り込みますわ』


「マリーは簡単に言ってくれますけどね」


 フルフェイスの中、苦言を呟きながら私は笑います。
 作戦自体はシンプルでいいものです。元々考えるのは苦手なので。


「おう、フラク。どうしたよフルフェイスまで被ってよ。まだ、街を襲うまで時間はあるぜ?」


 親しげな様子で酒瓶を持った男が私に話しかけてきました。いや、正確には甲冑フルプレートの以前の持ち主にですが。


(こいつらまた街を襲う気だったんですね)


 私は無言で腰に吊るしていた鞘の納まる『旋風』の柄を掴みます。
 その動作に酒が入ってるのか男は笑います。


「あ〜 お前獲物変えたのか? バカだなぁ〜 お前の腕じゃそんな刀振るえないだろ、金の無駄遣いだ」


 ゲラゲラと下品に笑いながら酒瓶をあおる男に私は不快感を覚えます。腹が立ちますね。
 とりあえず斬りましょうか。私は衝動をを我慢することなく解き放ち『旋風』を振るいます。
 振り下ろされた『旋風』は防具も何も着けていない男を何の抵抗もなく頭から股間にかけて一刀の元に両断し、そのまま『旋風』は振り下ろされ大地に突き刺さります。


「耳障りですよ? その声」


 フルフェイスの下では殺意に目を爛々と輝かした私がぼそりと宣言します。あ、もう聞こえませんね。
 刀が大地に突き刺さった音が大きく響き渡ったせいで周囲のテントからいく人もの男が顔を出してきます。


「なんだあいつは!」
「見張りは何をしてやがったんだ」
「おい、あれビナスじゃないのか」


 動揺している敵を待つことなど私はせずに、しかし、急がずにゆっくりと歩みを進めます。
 それにしてもこの鎧、一番軽そうだと思ったけど重すぎますね。動きづらすぎますね。
 しかし今は数を減らすのが一番重要です。とりあえずは手近にいた男に対して無造作に『旋風』を右から左に片手で薙ぐように振るう。それだけで無防備に立っていた男の上半身と下半身は知らぬ間に別れを告げます。相変わらずの切れ味ですね。
 周囲に血の匂いが充満し始めたことでようやく盗賊団は敵襲を受けていることに気付いてくれたみたいですね。


「て、敵襲ぅぅぅぅ!」


 悲鳴に近い声がアジトに響き渡るが私はその時既に三人目の犠牲者を生産し終わった所です。


「囲め! 相手は一人! それに重量武器だ連続で攻撃はしてこれねぇ」


 その言葉通りに前後から挟み撃ちをしてきた男を私は迎え撃ってきます。とりあえず正面の敵を真上から振り下ろした『旋風』であっさりと両断、すぐさま渾身の力を込め後ろの敵に向かい体を回すようにしてフルスイングします。刀の刃の部分ではなく腹部分が当たったことにより鈍い音と何かが砕ける音を断続的に響かせながら男をテントに向かい吹き飛ばします。


「あ、あぶない、折れなくてよかったです」


 とっさに使ったため刃で斬れなかったの腹で殴りましたが、この細い刀身でよく折れませんでした。もし折れてたら泣いてしまうかもしれません。


「しかし動きにくいです」


 少し動くだけでギシギシといいますしやっぱり重いです。


「脱ぎますか、くーちゃーん!」
『はいはーい』


 私の呼びかけにくーちゃんがあっさりと現れます。退屈していたようですね。


「くーちゃん、鎧斬って」
『任せて!』


 そう頼むと胸を張りながらくーちゃんが軽く手を振ります。するとそよ風が発生し鎧に当たります。やがてそよ風が止まると私が着込んでいた鎧がバラバラと音を立てて地面に落ちるとただのガラクタに成り下がりました。
 ふぅ、これですっきりしました。


「これで動きやすくなりましたね」
『リリカ、服、服着ないと』


 そうでした。エルフの服を着たままでは全身甲冑フルプレートは着込めなかったので下着で着てたんでした。


「……着るヒマはなさそうですね」


 視線の先にはさまざまな武器を構えた盗賊がこちらに向かってきているところが見えました。


「まずは数を削って安全を確保してからです!」


 私が初めて自分から踏み込みます。ガシャンガシャンと言う音を鳴らしていた鎧はもう無いため先程よりスムーズにそして滑るようにして武器を構える男の懐に入り込み一閃します。
 確実に殺すための一撃が慈悲もなく首筋に叩き込まれ飛び出た血が雨を降らし大地を赤く染め上げます。
 刀を振り切った姿勢の私の隙を逃さずに別の男が手にした斧を私目掛けて振り下ろしてきます、が、男の腕は振り下ろすことなく空を舞いました。


「ああぁぁぁ! うでがぁぁぁ!」


 先程の私がすくい上げるように放った一撃は男の武器の持つ腕を軽々と切断。さらにそのまま袈裟斬りに放つことで命を断ち斬りました。
 私が踏み込み刀が閃くたびに手が、腕が、足が血が周囲に飛び散ります。私にも盗賊の攻撃が掠り、傷が増えていきますがそんなことことでは私の殺戮は止まりません。なんだか楽しくなってきましたね。
 右へ刀を振るえばは骨すら叩き斬り相手に恐怖を植え付けた。
 左へ刀を振るえば首が飛び、いたるところで血の雨を降らした。
 刀を出鱈目にかつ適当に振るいながら私は前進していきます。


「だ、だめだ、あんな化け物! 勝てるわけがねぇ!」
「し、死神!」
「失礼な! どこからどう見ても美少女のエルフですよ!」
『美少女は自分でそんな事を言わないと思うな~』


 くーちゃん、冷静ですね。
 そんなことを言う奴が出始め一人が武器を捨て背中を見せ逃げ出し始めるのにさして時間はかかりませんでした。そして恐怖で支配されたその場にはすでに私に立ち向かうという考えを持つものはいなくなりつつあっります。背中を見せ逃げ出す輩一人、二人、三人となった時点で盗賊団はただの烏合の衆となり瓦解しつつあります。


『わぁぁぁぁぁぁぁ!』


 悲鳴を上げながら逃げる盗賊を私は追いません。逃げたところで後ろからはマリーが来ているはずですからね。
 しかし、


「……服、どうしましょうかね」


 返り血で血まみれになった自分の体を見下ろしながらどうやって血を落とそうか私は考えるのでした。

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