エルフさんが通ります

るーるー

斬りたい時に斬りたい物がない

「ふんふんふーん」
「あなたが鼻歌を歌うなんて不気味ですね。その新しい武器がそんなに気に入ったのですか?」


 鼻歌を歌う私とマリーは周りに誰もいない街道を歩きます。
 なぜ徒歩かというと王都行きの馬車がなかったからです。こういうときはかなり不便ですよね。次来るのは明日とのことでしたので私は急がないので歩くことにしたのです。マリーも同様。
 そういえば街を出るときにロゼットたちが手に縄をかけられていましたけどやっぱりあの筋肉増強剤も人里では違法的な薬だったんですね。前回とは違う薬だったので捕まらないかと思いましたがロゼットが捕まったということはダメだったんでしょう。今後も実検が必要ですね。他人で。


「え、わかりますか?」
「そりゃさっきらから鞘から刀身を覗かしてニヤついていたら誰でもわかりますよ。そうしてると年相応の子供のようですし」


 そう、私はさっきから腰にぶら下げた新たな武器『旋風』をいじっていて楽しくて仕方ないのです。
 念願の冒険者らしい武器ですからね! 胸が踊りますよ。
 とっとと試し切りがしてみたいですね。
 だからさっきから魔物を探しているんですけどこういう時に限って全くいないんですよね。空気の読めない魔物やつらですね。今こそ無駄な生命力を発揮して襲ってきてほしいものですよ。
 というか、普段の私はそんなに年相応に見えないのでしょうか?


「キョロキョロとさっきから何を探しているんです?」


 そんなに不審ですかね? ただ試し切りがしたいだけなんですけどねぇ。


「とりあえずその鞘から刃を出したり戻したりするのやめていただけません? なかなかに怖いですよ」
『こわこわ』


 そんなにですか。しかたありません。
 腰の鞘を掴み一気に刀を抜き放ちます。抜き放たれ空を切った刀身が日に当たり碧の光を輝かします。


「抜いて歩きましょう」
「それはやめましょう! 明らかに危ない人です!」
「やです」


 手にした『旋風』の刃ではないほうで肩を叩きながら私は歩きます。鞘に戻す気は全くないですけど。
 刀を振り回しながら歩いているとマリーとくーちゃんが嫌そうな顔をしながら私から離れて行きます。離れてくれれば私も回りを気にせず『旋風』を振り回せますね。
 しかし、離れていこうとしていたくーちゃんがピタっと止まります。
 私もそんなくーちゃんを確認して刀を振り回そうとしていたのを止めます


「どうしたの? くーちゃん」


 遠くのほうを見つめていたくーちゃんに声をかけます。何かを感じとったみたいですね。


『血の臭いがするよ?』
「ほほう、血の臭いですか」


 くーちゃんがスーと指を指した方向を見ながら私は口元を歪め笑みを浮かべます。
 血の臭い、つまりは戦闘がどこかで行われているということですね。
 魔物かもしくは盗賊か・・・どちらにせよ斬るべきものがあるということですね。
 いざゆかん! 試し切りに!


「ちょっと待て!」
「ぐぇ」


 マリーが駆け出そうとした私の髪を掴み無理やり止めてきました。
 この人は何をするんですかね? なかなかに痛いからやめてほしいんですけど


「……どこに行く気です?」
「え? ちょっとそこまで試し切りに……」
「そんな買い物しに行くみたいに軽々しく」


 そんなマリーが頭を抱えることではないと思うんですけどね~


「でもマリー、もしかしたら人が襲われているかもしれないんですよ?」
「うーん」


 この人も一応、人並に罪悪感があるんですね。
 意外です。
 ですがまだ放してくれる感じではないですね。しかたありません。


「襲われているのは商人かもしれませんね。もしかしたら謝礼金がもらえるかも……」
「行きますよリリカ。もたもたしてないで金づるを助けに行きますよ」
『「変わり身はや!?」』


 一瞬にして私の髪を放したマリーはすでに私が見ていたほうに向け走り出していました。
 すごい勢いですね。そこまでお金に執着があるというのも恐ろしさを感じます。


「いくよ! くーちゃん」
『おー』


 くーちゃんの返事を聞いた私もすでに姿が見えなくなりつつあるマリーを追いかけますが、既に私の視界からきえています。あの人メチャクチャ速いですね。背中に聖剣が突き刺さっている人間の動きとは思えないんですけど。
 走りながら前を見ているとドォォォォォンという爆音が鳴り響いています。
 まずい! このままでは


「私の試し斬りの分が無くなってしまいます!」


 別の意味での危機感を感じながら私は爆心地に向かい疾走するのでした。

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