エルフさんが通ります
エルフ式魔法戦闘訓練(地獄式)一日目
アレスを荒縄で縛り上げ引き摺り回すこと三時間。
現在は私たちは以前ミノタウロスが逃げ帰った森に来ていた。ティスタニアの人たちはこの森の事をムトゥの森と呼んでいるらしい。
「ムトゥってなんなんだろね?」
『確か中位精霊にそんな名前の精霊がいたよ?』
「ほう、つまり精霊にあやかって名前を付けたんですね。納得」
一休みの意味を込めて木陰で休む私とくーちゃんはそんな会話をしています。アレスはというと、
「がはだぁ……」
身体中傷だらけで横たわっています。当然縛られたままです。
いい加減に起こして特訓を始めるとしましょう。
「おら、起きろです」
「がはぁ!」
今だにウンウン唸っていたアレスの腹に向かい容赦無く足蹴りをします。まぁ、魔力強化もしてないのでさほど痛くないでしょう。
「げほげほっ、こ、ここは?」
顔を涎や鼻水、涙で汚しながらも周囲を観察し始めるアレス。やがてその視線が私に止まると凄まじい勢いで後ろにあとずさりました。
「リ、リリカさん! なんですか! この状況は!」
「うん、今からエルフ式魔法戦闘訓練を実施しようかと思ってね」
「エルフ式? ボクは人間ですよ⁉︎」
「大丈夫、死ななければ人間の中では最上位になれるよ?」
「そんな死ぬような訓練なんてしてたまるか!」
叫んだアレスは魔法使いとは思えない跳躍を見せ立ち上がると私に背を向けて逃げ出した。そんなアレスを私とくーちゃんは呆然と眺めていた。足も縛っておくべきでしたね。
『あの人方向わかってるのかな?』
「どうだろ?」
かなり混乱してるみたいだしおそらくは方向を確認しているわけではなさそうかな。
とりあえず追いかけよう。
私とくーちゃんも木に乗り移ると跳躍。木から木へて次々と乗り移って行く。森で生きるエルフにとってはこれくらいはお手の物なのだ。
「思ったより速い」
『だね』
結構な速度を出しているはずなのにアレスの姿が今だに見えない。縛ってるはずなのに、魔法使いのはずなのに。どこにそんな力が。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「『あ、いた』」
森の中をアレスの絶叫が響き渡る。それに私とくーちゃんはすぐさま反応すると声の響くほうに向かい木々の移動を開始する。
やがて物音が大きくなるほうへと移動していくと粗末な武器で武装したゴブリンの群れに追いかけられているアレスの姿が目に入った。
私とくーちゃんはアレスの進む方向への木々へ乗り移りながら近づいていくとアレスもどうやら私達に気づいたようで縋るような瞳でみて来ていた。
「り、リリカさん! 助けてください!」
うわぁ、思ったよりも必死な表情を浮かべてますね。かなり笑えてしまいます。
「じゃ、エルフ式訓練始めるよ」
「話を聞いてくださいよ!」
「とりあえず走ってみようか? あ、あんまり奥には行かないでね? くーちゃんも危ないよって言ってるからね」
『危ないよ?』
「い、今まさに生命の危機なんですけど!」
『shyaaaaaaaaaaaa!』
私達が会話をしているとゴブリンが雄叫びを上げながら武器を構え、アレスに向かい突撃をし始めた。
「わぁぁぁぁぁぁ!」
アレスは更に走る速度を上げながら叫んでいた。
そんなアレスの姿を見ながら私は満足気に微笑んだ。
『生きるか死ぬかの戦いをした者こそが真の成長をするのじゃ! by長老』
この調子で走り回させておけば戦いではないけども根性とゴブリンに対する耐性は付くだろうしね。
『でもかなり追いつかれてるよ?』
「はや⁉︎」
なんて体力がない。予想以上の軟弱さだ。
しょうがない。縄だけ解くとしますか。解いたら流石に魔法を使うと思うし。
弓を構え、木々を避けるためにあえて山なりに飛ぶように放つ。
そうであっても矢は寸分の狂いなくアレスの身を縛っていた縄だけを断ち切った。
しかし、アレスは私の想像を超える鈍臭さだった。縄を切られた衝撃で転けたのだ。
「なんでそこで転けるのぉ⁉︎」
『のぉ!』
私が頭を抱え、叫んだ瞬間とゴブリンが剣を振り上げアレスを切り刻むべく降り上げたのはほぼ同時だった。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 重力魔法ィィィィィィ!」
アレスが声を上げながら右手を前に突き出し叫んだ。
するとゴブリンの体を黒い靄のような物が包み込み、次の瞬間、バキィ! っいう音を上げながら先頭で斬りかかろうとしていたゴブリンの腕が地面に縫い付けられかのように叩きつけられた。いや、腕だけではなくすでに立っていることすら出来ないのかゴブリンは地面にうつ伏せに倒れこむようになっていた。
「これは……」
『なんか上からすごい力がかかってる!』
くーちゃんの言う通りゴブリン達は見えない手のひらで上から押さえつけられているかのように地面から起き上がることも出来ないようだ。その証拠に他のゴブリン達の体も地面にめり込んでいるようだった。
『kisyaaa……』
「ひぃ! 重力魔法!」
小さく呻き声を上げたゴブリンにびびりきっていたアレスは再度、重力魔法を発動。さらにゴブリンの体が地面にめり込んで行く。
『gya!』
「ひぃ!重力魔法!重力魔法!重力魔法!重力魔法!重力魔法!重力魔法!」
アレスが魔法を発動させるたびにゴブリン達が小さく声を上げ、さらには何かが砕けるような音が響き渡る。しかも地面はひたすらに陥没し続け、先ほどまでは草が生い茂っていた地面が崖のようになっていた。
「……地形を変化さすほどの魔法は初めてみましたよ」
『わたしもできるもん』
別にそこは競わなくてもいいと思うんですが。
もしくーちゃんが大規模魔法なんかを使う感じで弓に魔力込められたら私が魔力枯渇で死んでしまいますし。
「あれだけの魔法が連続行使できるということはかなりの魔力貯蔵量なんでしょう」
普通の人間なら死んでしまうかもしれませんしね。
これは思わぬ拾い物をしたかもしれません。
私はゴブリンの脅威から逃げ切りへたり込んだアレスを見ながらそう思うのでした。
現在は私たちは以前ミノタウロスが逃げ帰った森に来ていた。ティスタニアの人たちはこの森の事をムトゥの森と呼んでいるらしい。
「ムトゥってなんなんだろね?」
『確か中位精霊にそんな名前の精霊がいたよ?』
「ほう、つまり精霊にあやかって名前を付けたんですね。納得」
一休みの意味を込めて木陰で休む私とくーちゃんはそんな会話をしています。アレスはというと、
「がはだぁ……」
身体中傷だらけで横たわっています。当然縛られたままです。
いい加減に起こして特訓を始めるとしましょう。
「おら、起きろです」
「がはぁ!」
今だにウンウン唸っていたアレスの腹に向かい容赦無く足蹴りをします。まぁ、魔力強化もしてないのでさほど痛くないでしょう。
「げほげほっ、こ、ここは?」
顔を涎や鼻水、涙で汚しながらも周囲を観察し始めるアレス。やがてその視線が私に止まると凄まじい勢いで後ろにあとずさりました。
「リ、リリカさん! なんですか! この状況は!」
「うん、今からエルフ式魔法戦闘訓練を実施しようかと思ってね」
「エルフ式? ボクは人間ですよ⁉︎」
「大丈夫、死ななければ人間の中では最上位になれるよ?」
「そんな死ぬような訓練なんてしてたまるか!」
叫んだアレスは魔法使いとは思えない跳躍を見せ立ち上がると私に背を向けて逃げ出した。そんなアレスを私とくーちゃんは呆然と眺めていた。足も縛っておくべきでしたね。
『あの人方向わかってるのかな?』
「どうだろ?」
かなり混乱してるみたいだしおそらくは方向を確認しているわけではなさそうかな。
とりあえず追いかけよう。
私とくーちゃんも木に乗り移ると跳躍。木から木へて次々と乗り移って行く。森で生きるエルフにとってはこれくらいはお手の物なのだ。
「思ったより速い」
『だね』
結構な速度を出しているはずなのにアレスの姿が今だに見えない。縛ってるはずなのに、魔法使いのはずなのに。どこにそんな力が。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「『あ、いた』」
森の中をアレスの絶叫が響き渡る。それに私とくーちゃんはすぐさま反応すると声の響くほうに向かい木々の移動を開始する。
やがて物音が大きくなるほうへと移動していくと粗末な武器で武装したゴブリンの群れに追いかけられているアレスの姿が目に入った。
私とくーちゃんはアレスの進む方向への木々へ乗り移りながら近づいていくとアレスもどうやら私達に気づいたようで縋るような瞳でみて来ていた。
「り、リリカさん! 助けてください!」
うわぁ、思ったよりも必死な表情を浮かべてますね。かなり笑えてしまいます。
「じゃ、エルフ式訓練始めるよ」
「話を聞いてくださいよ!」
「とりあえず走ってみようか? あ、あんまり奥には行かないでね? くーちゃんも危ないよって言ってるからね」
『危ないよ?』
「い、今まさに生命の危機なんですけど!」
『shyaaaaaaaaaaaa!』
私達が会話をしているとゴブリンが雄叫びを上げながら武器を構え、アレスに向かい突撃をし始めた。
「わぁぁぁぁぁぁ!」
アレスは更に走る速度を上げながら叫んでいた。
そんなアレスの姿を見ながら私は満足気に微笑んだ。
『生きるか死ぬかの戦いをした者こそが真の成長をするのじゃ! by長老』
この調子で走り回させておけば戦いではないけども根性とゴブリンに対する耐性は付くだろうしね。
『でもかなり追いつかれてるよ?』
「はや⁉︎」
なんて体力がない。予想以上の軟弱さだ。
しょうがない。縄だけ解くとしますか。解いたら流石に魔法を使うと思うし。
弓を構え、木々を避けるためにあえて山なりに飛ぶように放つ。
そうであっても矢は寸分の狂いなくアレスの身を縛っていた縄だけを断ち切った。
しかし、アレスは私の想像を超える鈍臭さだった。縄を切られた衝撃で転けたのだ。
「なんでそこで転けるのぉ⁉︎」
『のぉ!』
私が頭を抱え、叫んだ瞬間とゴブリンが剣を振り上げアレスを切り刻むべく降り上げたのはほぼ同時だった。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 重力魔法ィィィィィィ!」
アレスが声を上げながら右手を前に突き出し叫んだ。
するとゴブリンの体を黒い靄のような物が包み込み、次の瞬間、バキィ! っいう音を上げながら先頭で斬りかかろうとしていたゴブリンの腕が地面に縫い付けられかのように叩きつけられた。いや、腕だけではなくすでに立っていることすら出来ないのかゴブリンは地面にうつ伏せに倒れこむようになっていた。
「これは……」
『なんか上からすごい力がかかってる!』
くーちゃんの言う通りゴブリン達は見えない手のひらで上から押さえつけられているかのように地面から起き上がることも出来ないようだ。その証拠に他のゴブリン達の体も地面にめり込んでいるようだった。
『kisyaaa……』
「ひぃ! 重力魔法!」
小さく呻き声を上げたゴブリンにびびりきっていたアレスは再度、重力魔法を発動。さらにゴブリンの体が地面にめり込んで行く。
『gya!』
「ひぃ!重力魔法!重力魔法!重力魔法!重力魔法!重力魔法!重力魔法!」
アレスが魔法を発動させるたびにゴブリン達が小さく声を上げ、さらには何かが砕けるような音が響き渡る。しかも地面はひたすらに陥没し続け、先ほどまでは草が生い茂っていた地面が崖のようになっていた。
「……地形を変化さすほどの魔法は初めてみましたよ」
『わたしもできるもん』
別にそこは競わなくてもいいと思うんですが。
もしくーちゃんが大規模魔法なんかを使う感じで弓に魔力込められたら私が魔力枯渇で死んでしまいますし。
「あれだけの魔法が連続行使できるということはかなりの魔力貯蔵量なんでしょう」
普通の人間なら死んでしまうかもしれませんしね。
これは思わぬ拾い物をしたかもしれません。
私はゴブリンの脅威から逃げ切りへたり込んだアレスを見ながらそう思うのでした。
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