エルフさんが通ります

るーるー

初クエスト!

「さあ、ゴブリンを狩りに行くわよ!」
『行こう行こう』
「え、陣形とか得意な分野の説明とかしないんですか?」


 私とくーちゃんがヤル気満々で歩きだそうとしたところをアレスが声を掛け止める。
 私は少し悩み振り返ります。


「あなた、魔法使い、私、弓使い、OK?」
『OK!』
「よし、行くぞ!」
「待ってください! それ確認ですらありませんから!」


 グダグダと細かい。いい子ちゃんですか?
 ゲンナリしながらアレスの方に振り向きます。


「はい、じゃ、優等生のアレス君。手早く決めて。三十秒で」
「え、そんないきなり言われても……」
「一、ニ、三十! 行くよ!」
「まって! 明らかに凄い飛ばしましたよね⁉︎」
「女は度胸!」
『胸』
「違うよ?」
「そうですよ! ボクは男ですよ!」


 歩き出そうとした私が歩みを止め、くーちゃんと共に振り返ります。


「『男!?』」


 この容姿でで男とか犯罪ですかね?
 あ、あれですね。オカマって奴ですね。納得です。


「あのへんな解釈してませんか? ねぇ!」


 私が無視して歩き始めます。すると渋々といった感じででしょう。アレスが付いてくるのがわかります。
 ティスタニアの南門から千アメルほど離れると軽装備をした人の姿が目立つようになってきた。おそらく同じ同業者、冒険者なんだろう。数人で緑色の子供みたいな魔物(多分ゴブリン)を囲み、剣や槍で攻撃していました。


「おお! あれが魔物! 初めて見た!」
「あの、リリカさん」


 私が初めて魔物を見て感激しているのに水を刺すようにアレスが声をかけてきます。


「なに?」
「そろそろ森も近くなってきましたし、本格的に作戦立てませんか?」
「作戦?」


 作戦か〜 見えたら射る。これじゃだめかなんだろうか。里ではこれが普通だったんだけど。


「見えたら射るじゃだめなの?」
「いえ、それでも確かにいいんですが、それはあくまで前衛がいる場合ですよ」
「ゼンエイ?」


 ゼンエイってなんだろ?


「……もしかして前衛わからないんですか?」


 おそるおそる聞いてきたアレスに対し私はコクコクと頷く。そんな私を見たアレスは唖然とした後に深いため息をついた。


「前衛というのはようは戦士職です。魔物の前に立ちふさがり、後衛職、ボクやリリカさんのような魔法使いや弓使いを守りながら闘う職のことです」
『ほうほう』
「わかりましたか? くーちゃん?」
「あなたも是非理解してくださいよ⁉︎ リリカさん!」
「わかってるわよ。つまりこのまま行けば魔物にボコボコにされると言うわけでしょう?」
「そうです! だから作戦を立てましょう」
「で、どんな?」
「それを今から考えるんじゃないですか!」


 その時の私の表情を一言で表すならば、


「面倒ね」
「思っても言わないでください!」


 しまった。口にだしてたか。私、嘘がつけないんです。


『さっき、普通についてたよ?』


 バレましたか。しかし、心の声を読むとはくーちゃんは侮れませんね。


「……全部声に出てることに気づいてないんですか?」
『多感な時期?』
「で、どうするの?」
「……正直なところボクとリリカさんは会ったばかりですし、まともに連携なんて取れると思えないんですよ」


 その通りでしょうね。出会ってまだ一時間。それで連携が取れたら訓練なんていらないでしょうしね。


「だから今回は互いの力量を知ると言うことで遠距離からの軽くやるというのはどうでしょう?」
「そうね。それでいいわ」


 依頼内容はゴブリンの討伐。何匹という指定はないですし。一匹でもいいわけです。


「では森に近づいて遠距離から攻撃しましょう」
「おー」
『おー』


 くーちゃんと共に私は拳を空に向かい突き出すのであった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 平原地帯と森に入る丁度境界線上にやってきた私、くーちゃん、アレスはじっと待っていた。


「ねぇ、アレス」
「なんですか? リリカさん」
「私、思うんだけどなんでゴブリンを狩るだけなのに地面にうつ伏せになってるのかしら?」


 そう、地面でうつ伏せになりながらである。
 他の冒険者達がくすくすと笑いながら私達の横を通り過ぎる間もうつ伏せである。


「ゴブリンに見つからないためです」
「私達、ゴブリン狩りに来たのよね?」
「はい」
「なんで隠れるのかしら?」
「ゴブリンは臆病な魔物ですから私達を見たら逃げ出してしまうからです」
「臆病……」


 その臆病な魔物に対して隠れるというのはすでに臆病じゃないのかしら?


「大丈夫です。罠にかかった瞬間袋叩きですよ」


 いい笑顔してるけど、こんな罠じゃねぇ。
 私とアレスの前方には浅い落とし穴が作られておりどうやらそこにゴブリンを嵌める予定らしい。
 まぁ、失敗した場合はあとで一人で狩りに来よう。
 そう考えていると森の方から一斉に鳥たちが空に向かい羽ばたくのが見えた。続いて何かが倒れるような音、さらには悲鳴が聞こえてくる。


「なんか前の方が騒がしくない?」
「そう言われるとそうですね」


 アレスと共に注意しながら前方の森に警戒する。
 すると何人もの冒険者達が血相を変えながら走って来ていた。


「ミノタウロスだぁぉぁぁぁぁぁ!」


 叫びながら走る冒険者の後ろには牛の頭を持ち、屈強な戦士の身体を持った魔物が凄まじい速度で冒険者達を追いかけていた。


「おお! 噂の!」
『牛! 牛だよ! リリカ!』


 片や大絶叫、片や興味津々という真逆な声を出した冒険者達と私+くーちゃんの前に姿を現したミノタウロスは手に持つ大斧で逃げ惑う冒険者を片っ端から切り捨てていた。


「すごいよ! アレス! あの魔物、人間ゴミ屑みたいに吹き飛ばしてる!」
「なんでそんなにうれしそうなんですか⁉︎ 絶賛命の危機なんですけど⁉︎」


 興奮した私の首根っこを掴みながら走るアレスが驚愕の目を向けながら叫ぶ。
 意外と力があるね。
 私は引きずられるように運ばれているが視線は冒険者を蹴散らすミノタウロスから離さなかった。あれが魔物か〜


「ねえ! あの魔物って強いの⁉︎」
「ミノタウロスはランクDだよ! 駆け出しの冒険者が勝てるわけないじゃない!」
「そうなの?」
『そうなの?』


 ふぅむ、あれがDランクの魔物か〜 よし、
 首根っこを掴むアレスの手を振り払い、背中の弓を構える。


「ちょっと! なにやってるんですか! 早く逃げないと」
「そんな動揺しなくても、ただ一矢放つだけだよ」
「ややややややめてください! 標的がボクらに変わったらどうするんですか!」


 私が弦の調子を確かめているとアレスが腰に縋りついてきた。お前、一応男じゃないんですか?


「ぶっ殺せばいいじゃない」
「できるんですか⁉︎」
「無理じゃないかな〜」


 さっきから見てたら冒険者の振るうおそらくは鉄製の武器が全く通ってないしね。逆に弾かれてるし。
 アレスの表情が見ていて面白いくらいに暗くなる。


「とりあえず、一矢放つ。あとは臨機応変に」
「具体性が微塵もありませんよ!」
「くーちゃんいるから大丈夫よ」
『余裕余裕』


 精霊魔法を使えばおそらくは鉄を弾くミノタウロスの皮膚も貫けるだろうし。
 矢を番え、ミノタウロスに狙いを定める。


「風よ、回り捻れ」
『了解』


 くーちゃんの返事と共に周囲の空気が振動。瞬時に風属性が矢に付与され、矢の先端風が収束、圧縮され異質な魔力が施されてる。


「な、なんていう魔力密度……」
「……前よりすごくない?」
『成長したから頑張りました』


 くーちゃん、頑張りましたか。まぁ、くーちゃんも確かな微精霊から小精霊にレベルアップしてるしね。
 でもこれなら、


「倒せるんじゃないかな?」
『余裕!』


 胸を張りながらくーちゃんが答えます。


「じゃ、殺ります」
「死ななかったら逃げますよ」


 どうしてアレスはこう逃げ腰なのか。


風矢ウインドアロー


 構え、魔力の込められた矢を引き一気に放つ。
 解き放たれた矢は周囲の風を喰らいながら高速で回転し高音を撒き散らしながら宙を突き進む。
 そして、逃げ惑う冒険者を通り過ぎた、今は、まさに冒険者の命を取るべく大斧を振り下ろそうとしていたミノタウロスの右腕に突き刺さる。さすがに貫かないみたいだ。


「もう、いいでしょ!? 逃げますよ」


 アレスが私の肩を掴み走り出そうとしたその瞬間、甲高い音が周囲に鳴り響き、アレスも私が見ているほうへと向き直った。
 その視線の先には突き刺さった矢を中心に暴風が吹き荒れていた。


「buwoooooo!」


 ミノタウロスが突き刺さった矢を抜こうと左手を近づけようとするが近づけた左手が削れ始めていた。それと同じように右腕も削り取られるかのように小さくなって行っているようだ。


「うーん、なにが起こってるのかまったく判らないですね」
『頑張って込めた魔力が風を圧縮し過ぎたせいで矢が小型の竜巻と化してるみたいです』
「まじですか」
「buwoooooo!」


 再び咆哮をあげるミノタウロスが傷だらけの左手で右肩を抑えながら後ろに下がる。
 すでに矢の突き刺さっていた右腕は完全に消え去り、紫の血が地面を汚していた。


「あの……」


 すでに私を引っ張るのをやめたアレスが声をかけて来た。
「なに?」
「あの矢はどうなるんです?」


 アレスが指差したのは今だに空中にある私が放った弓矢だ。弓矢は魔力の球体となりつつ今だに甲高い音が鳴り響いている。
 すでにミノタウロスは森の方に逃げ出しているようだ。


「どうなるんだろね?」
『? 溜まっている魔力が全解放されますよ?』
「「え?」」


 なんの気なく言ったくーちゃんの一言に私とアレスは声を揃えて尋ね返します。


「それってどうなるんです?」
『魔力が爆発するよ?』


 くーちゃんのその言葉を聞いた瞬間、私はティスタニアの街に向かい全力疾走を開始します。


「ちょっ! リリカさん! 逃げるの早すぎでしょ⁉︎」


 後ろからアレスの声が聞こえるけどそんなの構ってられないし。
 本で読んだ知識でしかないけど魔力の爆発はまずい。しかもそれがなんらかの属性を帯びているならなおのこと。


「あの音が止まったんですけど……」
「振り返ったらだめよ。まずいわ」


 音がなくなったということは猶予がない!
 しかし、好奇心には勝てず後ろを振り向く。
 すでに矢を覆っていた魔力は光を発し始めており、凄まじい速度で膨らみつつあった。
 そしてついに弾ける。それに伴い奔流が発生する。


「わああ、まずい」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! ヤバイ! あれは絶対ヤバイやつです!」


 見るなと言ったのにアレスのやつ見たみたいですね。
 しかし、あの光の奔流がまずい。
 奔流は高速で渦巻き、ジリジリと範囲を広げながら迫る。光の奔流に触れた草花や木々を飲み込み、触れたものは削り取るかのように消えてるみたいだし。
 やかで光の奔流はあらかたの物削り取ると徐々に小さくなっていき、元の小さな魔力の球体になっていっているようだ。


「収まった?」
「みたいね」
『くるよ』
「「え」」


 くーちゃんの呟きと同時にパァン! っという破裂音が響き渡る。


「わっ!」
「ふぇ……」


 後ろを見ると先ほどまであった魔力球が完全に消失しており、目には見えないが何かが迫ってくるのがわかった。


「魔力暴……」


 言葉を最後まで言い切ることなく体に強い衝撃を受け、私の意識は暗闇に落ちて行ったのだった。

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