メイドと武器商人

るーるー

メイドとナイフ

「ぐすっ、もうお嫁にいけない」


 真紅のドレスに身を包み髪型までセットされ、薄く化粧を施されたご主人様がそんなことを言っています。
 そんなご主人様を着飾ったフィルはというとご主人様の後ろでかいてもいないのに汗を拭うような素振りをしています。
 確かにフィルはいい仕事をしていました。
 今のご主人様ならばどこに出して失礼ではない淑女レディでしょう。 ええ、私がお持ち帰りしてひたすらに頬ずりをし続けたいくらいに!
 現在の場所はご主人様の所有する屋敷のお庭。母様の庭ほど広大ではありませんがかなりの広さを保有するお庭です。
 そんなお庭の一部に日焼け防止用のパラソルが幾つも広げられており、その下にご主人様がくつろいでいられるわけです。


「行きたいのですか?」


 そんな感情は全く顔に出すこともなく気になったことをご主人様へと尋ねます。
 ご主人様はお嫁に行きたいのでしょうか?


「いや、そんなに? 今のところはそんな願望はないかなぁ」


 ただ適当に言ってみただけのようです。しかし、それを聞いてホッとしました。もし、ご主人様が「この人と結婚するよ〜」などと笑顔で男性を連れてきた日には私は血の雨を降らす自信があります。いえ、仮に降らさなかったとしても私はその男の前に立ちふさがり「ご主人様がほしくば私を倒してからにせよ!」と戦いを挑んでやりますとも! 結果的には血の雨は降るわけですが。


「でもあね様、本当にその銀狐とかいうのくるの? 一応は名の知れた暗殺者なわけでしょ?」


 準備をするだけしといて疑問を持つとは…… この子フィルはちょっとでもややこしくなると考えるのを放棄するのが悪いところですね。


「くるよ〜」


 私が口を開く前にご主人様がフィルの質問へと答えます。


「それはどうしてです? フルーティ様」
「ぼくも武器商人という職業柄色々な職業の人たちと取引してきたわけだけどね」


 私とフィルの二人がご主人様の言葉に耳を傾けていると日陰になっていたはずのパラソルの下に陽の光が僅かに差し込みます。
 それに対して僅かにフィルは反応。ですがそれを超える速度を持って反応した私はパラソルを切り裂き、光を漏らす要因となった物、鈍い輝きを放つナイフ三本を手を伸ばすことでご主人様へと突き刺さる予定であった掴みとります。
 掴んだナイフはただのナイフではない奇怪な形状、さらにはナイフが滑りを帯びていることからナイフには毒が塗られているのでしょう。
 ご主人様にこんな物を投げつけてくるなんてなんたる不敬!


「暗殺者ってのは無駄にプライドが高いんだよ」


 自分が襲撃されているにも関わらず特に動じた様子も見られないご主人様はというとテーブルに広げられているお菓子を掴むと口に放り込み嬉しそうに笑います。
 ちっ! 襲撃者さえこなければご主人様メモリアルがさらに増やせる絶好の機会だというのに! 例えそれがご主人様が待ち望んでいる相手であるとしてもです!


「ちなみにフルーティ様は招待状になんて書かれたの?」
「依頼を全うできなかった殺し屋さんへって下から始まるんだけどね!」
「……よくわかった」


 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑顔で内容を報告しようとしたご主人様でしたが初めのくだりを聞いた段階でフィルは首を振ります。
 ご主人様、それ招待状ではなく侮辱する手紙、もしくは決闘状になってしまいますよ……
 しかし、そうなると今攻撃してきた暗殺者はかなりご立腹のようですね。


「じゃ、リップス。あとは頼むよ」
「はあ、わかりました」


 なんとなく今から戦う羽目となった銀狐に同情を感じてしまいましたがフィルが穴を塞ごうとしているパラソルの下から私は飛び出し、太陽の下へと姿を現すと目の前に佇む黒ずくめの服を着込み、狐のお面を被った暗殺者、銀狐と対峙するのでした。



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