メイドと武器商人

るーるー

メイドと武闘派?

「それで何の用だ」


 私からの無言の圧力から解放された安堵かどうかわかりませんユーゲルグが大きく息を吐きます。
 さすがに幹部の方ともなると話がわかる方のようです。是非、その調子で部下を教育していってほしいものですね。


「欲しいものは……」
「ちょっとまてやコラァ!」


 ご主人様の言葉を遮るように大きな声が挙げられます。それをご主人様はやや不機嫌そうに、幹部のみなさんは見ていてかわいそうになるほどに顔を青くしながら、私は殺意を込めて睨みつけます。
 声を荒らげたのはやたらと派手な金のスーツを着た男のようです。他の幹部の皆様と同様に柔らかそうなソファーに座っていましたが、そこから立ち上がり、私とご主人様に隠そうともせずになかなかに無礼な視線を向けてきてくれます。というかくちゃくちゃとガムを噛みながらこちらを見てくるとは不敬すぎませんか?


「ボス! なんでこんなガキやメイドの言いなりになってんすか! 」
「口を慎めジャルダン! 貴様のような小物でも鉄の戦乙女の噂くらい聞いたことがあるだろう!」


 ユーゲルクが制止を促しましすがジャルダンと呼ばれた金ピカスーツはガムを噛み、ポケットに手を突っ込みながら私の方へと歩み寄ってきます。


「はっ! ボス。冗談はよしてくださいよ。鉄の戦乙女と言えば隣国、パンテルスンとの戦いでたった一人で三万もの兵を皆殺しにしたという猛者ですぜ? こんなやわな奴がそうだとは俺には信じられねえ!」


 正確には二万八千なんですがね。
 事実は常に誇張されるものです。まぁ、三万でも大した差はありませんが。


「あれは?」


 ご主人様が私に近づいてくるジャルダンを指差しながらユーゲルクへと尋ねます。
 するとユーゲルクは滝のように流れ出る額の汗をぬぐいながら申し訳なさそうな顔をしています。


「あれは一応、以前、私ところで吸収した武闘派の組ですが見ての通りはねっかえりが多く……」
「ふーん」
「んだぁこら! やるのかおらぁ! あぁぁん⁉︎」


 唾を飛ばしながら私に絡んでくるゴミをご主人様は煩わしげに見ています。
 そしてその害虫から視線を私へと移してきます。


「あれぶっとばしていいよ」
「はい!」
「なに抜かしてんだかぺぇ⁉︎」


 ご主人様の命令に嬉々として反応した私は全力ではありませんがそれなりの力を込めた拳を容赦なく腹へとぶち込むと吐き出していた言葉を無理やり止めます。
 よろよろと腹を押さえたまま後ろへと下がったクズを許すことなどありえません。さらに私は一歩踏み出し今度は後頭部へ向けて蹴りを食らわしてやります。防御なんてできる状況ではなかったジャルダンの頭になんの抵抗もなく私の美脚は突き刺さるとジャルダンの体は回転しながら飛んでいき大きな音を立てて壁へとぶつかり、やがてピクリとも動かなくなりました。


「入れる組織間違えたんじゃない? 武闘派に全く見えないよ?」
「鉄の戦乙女と同列にかんがえられては困るんだがな。ははは」


 苦笑か恐怖かわからないような乾いた笑い声が響きます。


「それで要件なんだけどね」
「人を探してると聞こえたが?」


 金ピカスーツをのしたことで開いたソファーにご主人様は座り込みますが体が小さいせいか埋もれていきます。
 慌てて立ち上がったご主人様ですが今度は警戒するように浅く腰掛けるしたようです。慌てるご主人様というのも愛らしいものです。


「そうそう、ついこの間にね襲撃にあったんだよ。メルエムアンの屋敷にいた時のことだよ」


 あっけらかんに言い放ったご主人様の言葉に部屋の中にいる幹部の皆様の空気が一瞬凍りつきます。そして弾けたかのように声を荒らげ始めます。


「だ、だれがそんな馬鹿げたことを⁉︎」
「ブラモンディアスに手を出すなとあれほど闇ギルドで徹底しておいたはずだろうが!」
「また新参組か! いくらでも湧いてくるわね!」
「ブクブクブク……」


 これだけでご主人様がいかに恐れられているかがわかるような口ぶりです。一人に至っては白目を剥いて失神、さらには泡まで吹いていますしね。
 この様子から以前の襲撃に彼らが関与していないこともわかりましたね。


「まぁ、それはどうでもいいんだけどさ」
「どうでもよくないぞフルーティ! 誓っても我々闇ギルドは関わっていない案件だ!」


 ユーゲルクが額に玉のような汗を浮かべながらに告げてきます。
 まぁ、ご主人様が動けば確かに闇ギルドと言えども笑顔で蹂躙されるのは目に見えてわかりますからね。
 仮に無関係でないにしても無関係と言っておかないとご主人様の思いつきで潰されかねませんし。


どうでもいいんだよ・・・・・・・・・ユーゲルク。むしろ今回の件に関しては感謝すらしてるんだよ?」


 いい人材が手に入りそうで、とご主人様は笑います。
 その笑顔は無邪気なものですが、ある程度の付き合いがある私にはこう見えたわけです。


 いいオモチャが手に入りそうだしと。





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