メイドと武器商人

るーるー

メイドは機械人形

「ぷはー! さて、さっさと契約の話詰めようよ」


 リビングに通されたご主人様はふかふかのソファーに座り込み妹から受け取ったグラスに入ったジュースを美味しそうに飲み干します。
 これが母様から手渡されたジュースであったのであれば即座にグラスを取り上げ母様に向かい投げつけてやるところでした。
 だって母様はご主人様を細マッチョとやらにしたいらしくて屋敷に招くたびに怪しげな筋トレグッズやよくわからない効果が出そうな飲み物や薬を出してくるんですから。


「お、おかしくない? ここ私の家だよね? すっごい監視されてる感が半端ないんだけど……」


 どうやら妹達もご主人様を細マッチョにするのは嫌なようなのでその事に関しては結束。母様が妙な動きをしないように絶えず妹達が三人は付くようになり変な動きをしたら即座にぶっ飛ばすように話はつけています。
 やはりご主人様は愛らしい系で行ってほしいですね!


「で、メルエムアン。頼んでたものは?」
「え、あ! できてるわよ?」


 周りを明らかに監視している妹達の視線に自分の屋敷であるのにも関わらずビクビクとしていた母様でしたがご主人様の声に我に返ったようで軽く手を叩いて監視をしている妹達以外の妹へ指示を出していきます。その時にフィルが妹達に引き摺られていくのが目に入りましたがまだ動けないようですね。
 指示を受けた妹が姿を消してしばらくすると自分の体と同じ大きさの人形のようなものを引き摺るようにして持ってくるとそれをテーブルの上にのせます。


「以前フルーティちゃんから言われた部分。可動域の拡張と各フレームの強度も若干あがってるはずよ。あとはワィト家ではどうしようもないよ。あとはカワノとミズノでなんとかしてもらいなさい」
「ふーん」


 簡単な説明を母様が行なっている間、ご主人様はテーブルにのせられている女性型の人形のあちこちを触りなにやら確かめているようです。


 そう、あちこち・・・・を触り! ついでに私の胸や頭も撫でてほしいものです。


「どれくらいなら耐えられる?」
「出力の話? そうね。リップスの半分ってとこね」
「なんか微妙な設定じゃない?」
「そこの機械人形オートマンと同じ性能、設定を求めるのは無理という話よ」


 苦笑を浮かべながら私の方を見てきます。
 それはそうでしょう。
 機械人形オートマンは作る際に性格を設定することでスペック以上の力を発揮することができますからね。
 フィルはあくまで静かな性格で作られていたので私のように気合で乗り切るとかそういうのができずに荷物と共に倒れてしまったわけですし。


「素材にかかる料金など一切考慮せずに作られた最高の機械人形オートマンリップス。それこそが魔王もいない今の世界で最強の名前だし」
「可愛いでしょ?」


 可愛い! ご主人様が私の事可愛いって言ってくださいました!
 これはもはやご主人様と結婚前提にお付き合いをした方が良いのでしょうか!


「親のひとりとしては複雑な心境 。でもこの屋敷にいても宝の持ち腐れになりそうだしね」
「え、何言ってるんですか母様。もし私とご主人様の仲を引き裂こうなんてしようものならへし折りますよ?」
「なにを⁉︎」


 何をって骨ですね。身動きが取れないように骨という骨を完膚なきまでに叩き潰してあげます。それこそ介護が必要になるくらいに徹底的にやります。泣いてもやめてやりません。
でも、母様なら骨がへし折れても一日寝たら直りそうで怖いです。


「ま、まあいいや。それでフルーティちゃん。私への対価は?」
「もちろん持ってきてるよ。リップス」
「畏まりました」


 ご主人様に言われ、私は足元に置いてあった妹達が回収してきてくれたトランクケース三つを持ち上げるとそれを妹達がいそいそと人形を退けたテーブルへとのせます。
 そしてご主人様が手をトランクケースに当てるとそこを中心に魔法陣のような紋章がいくつも現れていき、やがて鍵が開くような音がリビングに鳴り響きます。
 トランクケースを開けはなち、ご主人様が中から取り出したのは銃。ですが今まではすっぽりと手に収まるはずだったのですが今取り出したのは銃身も長く、さらに持ち手であるグリップ部分も太く長いものです。


「これは連射できる銃。設計図によるとサブマシンガンとかいうものらしい」
「連射できる銃⁉︎」


 ご主人様が手にしているサブマシンガンとやらを見て母様の目が眼鏡越しでもわかるほどにキラリと輝きます。
 母様は研究者ですから真新しい物には目がありませんからね。しかし、よく見ると後ろに控える妹達もそわそわとした様子でご主人様の手にあるサブマシンガンを凝視しています。
 あれは多分、撃ちたいんでしょうね。
 妹達は私と違い戦闘特化の機械人形オートマンではありません。それでも騎士くらいならぶっ飛ばせるくらいの力はあるんですが。
 ですからどうしても近接に自信が持てない妹達のためにご主人様がお試しで渡したのが銃だったわけなんですがこれが妹達にバカみたいに受けたわけです。
 引き金を引けば敵が倒れる! 銃口を向けて狙いをつけるなんて機械人形オートマンたる私たちには楽勝! というのが原因らしいのですよね。


「で、テストをしてみよう。あ、メルエムアン屋敷に展開してる魔法消して」
「ん? ああ、なるほどね」


 ご主人様の提案に首を傾げていた母様でしたが僅かの間になにかに納得したように頷くと屋敷に展開されていた魔法、筋肉の宴マッスルパーティが解除され、心なしか空気が軽くなったような感覚を得ます。
 私? ええ、私ももちろん気づいています。ですが妹達は気づいてはいないようです。


「じゃ、これがサブマシンガンの力だよ」


 軽い、本当に軽い口調で告げたご主人様は手にしたサブマシンガンの銃口をリビングから玄関口の方へ繋がる扉へと向け、一瞬の躊躇いもなく引き金を引きしぼり轟音と閃光を撒き散らすのでした。


「ギャァォァァァァィ!」


 悲鳴とともに。

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