魔女メルセデスは爆破しかできない

るーるー

魔女の師匠はにこやかに怒る

「し、師匠」


 メルセデスがどこか怯えたようにしてアリプルプス・レプルを見上げる。そんな彼女をニヤニヤと笑いながら見下ろしていたアリプルプスは「とう」という軽い掛け声と共に巨大ゴーレムから飛び降りた。


 杖もなしに飛び降りたために周りから悲鳴のようなものが上がる。
 しかし、メルセデスは微塵も心配していない。というのもアリプルプスが笑みを浮かべたままだからだ。
 そしてアリプルプスが落下し風を受けているにも関わらずに虹色のローブははためくこともない。
 床に直撃する瞬間にアリプルプスの足元に幾重にも魔法陣の様なものが浮かび上がると勢いよく落下していたアリプルプスが宙で停止。少ししてから床へと着地する。


「なにあの魔法……」
「落下してたのに服が全く捲れないなんて!」
「魔法大技書の最新版にも乗ってないわよ」


 周りの魔女たちが騒めく。
 アリプルプスはというと周りの反応にご満悦なようで笑みを浮かべていた。所謂ドヤ顔というやつであった。


「また新しい魔法ですか?」


 そんな師匠にげんなりしたようにメルセデスは尋ねる。
 いや、尋ねないと自慢したがりのアリプルプスは話を進めようとしないというのがよくわかっているからだろう。


「そうよ! 高いとこから登場するときにパンツとか見えたらダサいと思ったから作ったのよ。昨日」
「昨日ですか……」


 メルセデス、アィヴィだけでなく周りの魔女達も絶句する。
 本来なら魔法というのはそんなに容易く作れるものではない。
 一般的に魔法というのは新たに作られるものよりも昔から使われている魔法が僅かに改良されたものが開発され新しい物として認められるのが魔女の中での常識になりつつあるからだ。


 当然、魔法を新たに作るということは魔力の扱いに長ける魔女であっても偉業と呼ばれるほどに凄いことなのだ。


 そんな偉業を思いつきで成し遂げてしまう師匠であるアリプルプスにメルセデスは本当に疲れたようにため息を、かなり重めのため息をついた。


「師匠はもう少し自重とかしたほうがいいとボクは思うんですけど?」
「あら? あなたがそんなことを言うの? 魔女の中の異端児が?」


 大げさに手を振り上げながらアリプルプスは裏切られた! と言わんばかりに頬を膨らましてメルセデスを睨む。


「師匠、年を考えて行動してください。そういうあざとい行為は師匠のように7,000歳を超えた方がしてるのを見ると弟子としてはとても辛いものがあります」


(((あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!)))


 メルセデスの正論とも言えるような物言いに周りで二人の会話に聞き耳を立てていた魔女たちは心の中で同時に悲鳴をあげる。


「乙女はいつまでも乙女なのよ! メーちゃんはまだまだお子様ね。というかこの私の前でやっちゃいけないことがあるということを私の元から離れて忘れちゃったかなぁ?」


 若干、額に青筋を浮かべながら笑みを返して来たアリプルプスから発された押しつぶさんとばかりの魔力の波にメルセデスは言いすぎたと言わんばかりに顔を青くする。


 アリプルプスにはやってはいけないことが二つある。
 その二つをやった者はアリプルプスにより死より恐ろしい制裁を受ける羽目となる。


 一つはアリプルプスの実験の邪魔をすること。
 これは昔邪魔をした魔女がいたのだが彼女は笑いながらまだ作りかけだった魔法をアリプルプスに掛けられ牛に姿を変えさせられ、その日アリプルプスの食卓にステーキとして並んだ。
 ちなみにメルセデスは知らずに食べさせられてしっかりお腹に収めたのちに知らされ後で吐いた。


 そして二つ目、それはアリプルプスの実年齢をおおよそであっても口にしないということである。
 これは意外と多くの魔女が知っているのだが誰も口にしない。


 その昔、アリプルプスを雇っていた国の国王が実年齢を知り「ババアじゃん!」と告げてしまい、三年に渡りその国は大雨に見舞われた。
 それだけならば魔女を怒らしたわりに大したことは(農家などには大損害だが)ない被害と言えるだろう。せいぜい嫌がらせ止まりである。


 だがアリプルプスはただの嫌がらせですますような魔女ではなかった。
 アリプルプスはその国と他の国の国境に国を囲むようにして高さ20メートルは超えるであろう出口のない壁を作り上げた上でその国の領土のみにひたすらに集中豪雨を降らしたのである。


 それを三年間。国の人たちが助けを求めたにも関わらず雨は止むことがなかったという。


 結果、内地にあったはずのその国は内地でありながら水没し、滅びる羽目となったのだった。


 そんなアリプルプスの怒りの魔力に呼応するようにしてアリプルプスの背後に静かに控えていた山のように巨大なゴーレムがゆっくりと体を動かし、軽くメルセデスを潰せそうな巨腕をゆっくりと振りかぶる。


「ひっ」


 悲鳴をあげたのはメルセデスだけではなく周りの魔女たちもだったのだろう。
 山ほどの巨大ゴーレムから放たれる一撃ならばメルセデスはおろか周りの魔女すら跡形もなく消し飛ばすことも容易いだろう。


 そしては巨腕が振り抜かれる。
 そこに弟子に対する思いやりのような手加減など一切感じれない必殺の一撃。
 空気が震え、削り取るように巨大ゴーレムの拳が腰を抜かしたメルセデスへと迫り、


「なぜ腰を抜かしているのです? マスター」


 淡々とした声を上げたアィヴィがメルセデスの前へと滑り込み、巨大な拳を受け止めたのであった。


 自分より遥かに大きな拳を片手で。

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