魔女メルセデスは爆破しかできない
魔女は師匠と再会する
「きぼちわるぃ」
「まだ十分しか経っていませんよマスター」
魔女の夜会の会場である七色の魔女の屋敷に入って十分。すでにメルセデスの顔は真っ青だった。別に人を萎縮させるような魔力が放たれてるわけや人が理解できないような意味のわからないオブジェなどがあったわけではなく単純に人に酔ったのだ。
「ですがマスターの気持ちもわからないでもありません。なにせ辺り一面が人まみれですし」
顔を青くするメルセデスの背中をさすりながらアィヴィはため息を漏らす。なにせ視界には魔女魔女魔女。
至る所に魔女がおり、それぞれが談笑を楽しんでいるのだから。
「師匠の屋敷は中の時空を歪めてるから軽く国くらいの大きさはあるからね」
「屋敷一つで国の大きさとは、凄いというか呆れるしかないんですが……」
「師匠曰く実験の失敗作らしいよ」
「規模がおかしいです」
アィヴィに肩を貸してもらいながらメルセデスは人の少ない方へと移動していく。
移動している間にも時折、話をしていた魔女の何人かがメルセデスの紅いマントに気がつくと目を見開きながらヒソヒソと会話をするという光景が幾度もあった。
「マスターは有名人なんでしょうか?」
魔女達の視線に気づいたらしいアィヴィは少しばかり顔色が良くなったメルセデスに尋ねた。
それを聞いてメルセデスは露骨に顔を歪めた。
「それローブのせいだから」
「ローブ? それなら他の魔女の方々も着られているではありませんか?」
「ローブはそうだけど色だよ、色」
「色ですか?」
アィヴィが疑問符を浮かべながら再度集まっている魔女達の方を眺める。
たしかにメルセデスの言うようにローブの色が違っていた。
この場にいる大半の魔女は黒のローブを身につけていた。他の色のローブを身につけいる魔女もいることはいるのだがそちらは極少数といったものだ。
「確かに色付きのローブを身につけている方は少ないですね」
「魔女のローブは基本的に黒。これは伝統みたいなものらしいんだけどね。例外があるんだよ」
例外? と聞き返すアィヴィにメルセデスは苦笑を浮かべながら頷き返す。
「ちなみにだけど毎年色の違うローブを纏う魔女は増えるんだよ?」
「なぜでしょうか?」
あっさりと考えることをやめ、アィヴィは白旗を振る。
「単純にいうとね、卒業した時の各学科のトップに色付きのローブが与えられるんだよ」
「トップですか」
「そう、魔法学でトップだったなら青のローブを。薬学でトップだったなら白のローブを。呪術でトップだったら紫のローブ、みたいな感じでね」
メルセデスの答えにアィヴィはなるほどと頷く。しかし、少ししてから疑問を感じ取ったのか僅かに首を傾げた。
「そうなるとマスターも色付きになるわけですよね? 紅いローブきてますし。でも紅いローブってマスターだけですね。なんの教科でのトップなんですか?」
アィヴィの疑問の声にメルセデスはビクリと体を震わせる。そしてそのアィヴィの質問を待っていたかのように周りの喧騒が一瞬にしてピタリと止まり、辺りは耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。
「……ボクのは実戦のトップだから」
急に静まり返った場に居心地の悪さを感じながらメルセデスは答えを述べる。その答えが周りの魔女に聞こえたようで再びその場は喧騒に包まれたわけなのだがよく聞けばその話題に上がるのはメルセデスの事なのだがまだ体調が悪いメルセデスはそれに気づかない。
「実戦の卒業試験担当は師匠なんだよ」
「弟子ということで甘くされたのですか?」
「……師匠がそんな事すると思う?」
「…… 言ってから気づきましたがマスターの師匠はそんなことで甘やかしたりしませんね」
「むしろ嬉々として自分の研究成果を実験できるって無茶なものを送り込んできたよ」
その時のことを思い出したのかメルセデスは青い顔をさらに青くする。
余程辛いことがあったのだろう。
「うぁぁ、もう、もう巨大ゴーレムは…… 巨大ゴーレムはぁぁ……」
「マスター、落ち着いてください。ここにはゴーレムはいませんから」
トラウマを刺激されたのかメルセデスは息を荒くしながら頭を抱えて座り込んだ。心なしか眼のハイライトが消えかかっているような気がしないでもない。
それを心配したアィヴィが声をかけているがこちらも軽いパニックを起こしているのか自分がゴーレムであるということを忘れているようだ。
アィヴィに肩を譲られたメルセデスの瞳にハッと意識を取り戻したかのように力が入った。
「そ、そうだ! ここには師匠はいない。ここにはあの巨大ゴーレムは……」
「あらあら、わたしを読んだかしらメーちゃん」
元気を取り戻した立ち上がったメルセデスだったが背後から声をかけられたことにより岩のように硬直。さらに音がなりそうな鈍い動作で体を動かし、背後を振り返った。
メルセデスが振り返りまず目にしたのは巨大な山だった。
いや、正確には山のような大きさのゴーレムだ。
空間を歪ませ、遥かに大きな屋敷内にも関わらずに顔を大きく逸らし、見上げなければ天辺が見えないほどにそのゴーレムはでかかった。
しかし、メルセデスが目を見開き、体を震わしたのはなにもゴーレムが巨大だったからではない。
ゴーレムの左肩、そこに座る女性を見てしまったからである。
「し、し……」
「メーちゃん、久しぶりね。ちゃんと来てくれて嬉しいわ」
見ているだけで次々に色が変わっていく長い髪を掻き上げながら、髪と同様に色が変わっていく瞳を楽しげに揺らしながら、
「し、師匠……」
メルセデスの師匠である七色の魔女、アリプルプス・レプルは妖艶に微笑むのであった。
「まだ十分しか経っていませんよマスター」
魔女の夜会の会場である七色の魔女の屋敷に入って十分。すでにメルセデスの顔は真っ青だった。別に人を萎縮させるような魔力が放たれてるわけや人が理解できないような意味のわからないオブジェなどがあったわけではなく単純に人に酔ったのだ。
「ですがマスターの気持ちもわからないでもありません。なにせ辺り一面が人まみれですし」
顔を青くするメルセデスの背中をさすりながらアィヴィはため息を漏らす。なにせ視界には魔女魔女魔女。
至る所に魔女がおり、それぞれが談笑を楽しんでいるのだから。
「師匠の屋敷は中の時空を歪めてるから軽く国くらいの大きさはあるからね」
「屋敷一つで国の大きさとは、凄いというか呆れるしかないんですが……」
「師匠曰く実験の失敗作らしいよ」
「規模がおかしいです」
アィヴィに肩を貸してもらいながらメルセデスは人の少ない方へと移動していく。
移動している間にも時折、話をしていた魔女の何人かがメルセデスの紅いマントに気がつくと目を見開きながらヒソヒソと会話をするという光景が幾度もあった。
「マスターは有名人なんでしょうか?」
魔女達の視線に気づいたらしいアィヴィは少しばかり顔色が良くなったメルセデスに尋ねた。
それを聞いてメルセデスは露骨に顔を歪めた。
「それローブのせいだから」
「ローブ? それなら他の魔女の方々も着られているではありませんか?」
「ローブはそうだけど色だよ、色」
「色ですか?」
アィヴィが疑問符を浮かべながら再度集まっている魔女達の方を眺める。
たしかにメルセデスの言うようにローブの色が違っていた。
この場にいる大半の魔女は黒のローブを身につけていた。他の色のローブを身につけいる魔女もいることはいるのだがそちらは極少数といったものだ。
「確かに色付きのローブを身につけている方は少ないですね」
「魔女のローブは基本的に黒。これは伝統みたいなものらしいんだけどね。例外があるんだよ」
例外? と聞き返すアィヴィにメルセデスは苦笑を浮かべながら頷き返す。
「ちなみにだけど毎年色の違うローブを纏う魔女は増えるんだよ?」
「なぜでしょうか?」
あっさりと考えることをやめ、アィヴィは白旗を振る。
「単純にいうとね、卒業した時の各学科のトップに色付きのローブが与えられるんだよ」
「トップですか」
「そう、魔法学でトップだったなら青のローブを。薬学でトップだったなら白のローブを。呪術でトップだったら紫のローブ、みたいな感じでね」
メルセデスの答えにアィヴィはなるほどと頷く。しかし、少ししてから疑問を感じ取ったのか僅かに首を傾げた。
「そうなるとマスターも色付きになるわけですよね? 紅いローブきてますし。でも紅いローブってマスターだけですね。なんの教科でのトップなんですか?」
アィヴィの疑問の声にメルセデスはビクリと体を震わせる。そしてそのアィヴィの質問を待っていたかのように周りの喧騒が一瞬にしてピタリと止まり、辺りは耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。
「……ボクのは実戦のトップだから」
急に静まり返った場に居心地の悪さを感じながらメルセデスは答えを述べる。その答えが周りの魔女に聞こえたようで再びその場は喧騒に包まれたわけなのだがよく聞けばその話題に上がるのはメルセデスの事なのだがまだ体調が悪いメルセデスはそれに気づかない。
「実戦の卒業試験担当は師匠なんだよ」
「弟子ということで甘くされたのですか?」
「……師匠がそんな事すると思う?」
「…… 言ってから気づきましたがマスターの師匠はそんなことで甘やかしたりしませんね」
「むしろ嬉々として自分の研究成果を実験できるって無茶なものを送り込んできたよ」
その時のことを思い出したのかメルセデスは青い顔をさらに青くする。
余程辛いことがあったのだろう。
「うぁぁ、もう、もう巨大ゴーレムは…… 巨大ゴーレムはぁぁ……」
「マスター、落ち着いてください。ここにはゴーレムはいませんから」
トラウマを刺激されたのかメルセデスは息を荒くしながら頭を抱えて座り込んだ。心なしか眼のハイライトが消えかかっているような気がしないでもない。
それを心配したアィヴィが声をかけているがこちらも軽いパニックを起こしているのか自分がゴーレムであるということを忘れているようだ。
アィヴィに肩を譲られたメルセデスの瞳にハッと意識を取り戻したかのように力が入った。
「そ、そうだ! ここには師匠はいない。ここにはあの巨大ゴーレムは……」
「あらあら、わたしを読んだかしらメーちゃん」
元気を取り戻した立ち上がったメルセデスだったが背後から声をかけられたことにより岩のように硬直。さらに音がなりそうな鈍い動作で体を動かし、背後を振り返った。
メルセデスが振り返りまず目にしたのは巨大な山だった。
いや、正確には山のような大きさのゴーレムだ。
空間を歪ませ、遥かに大きな屋敷内にも関わらずに顔を大きく逸らし、見上げなければ天辺が見えないほどにそのゴーレムはでかかった。
しかし、メルセデスが目を見開き、体を震わしたのはなにもゴーレムが巨大だったからではない。
ゴーレムの左肩、そこに座る女性を見てしまったからである。
「し、し……」
「メーちゃん、久しぶりね。ちゃんと来てくれて嬉しいわ」
見ているだけで次々に色が変わっていく長い髪を掻き上げながら、髪と同様に色が変わっていく瞳を楽しげに揺らしながら、
「し、師匠……」
メルセデスの師匠である七色の魔女、アリプルプス・レプルは妖艶に微笑むのであった。
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