魔女メルセデスは爆破しかできない

るーるー

魔女さん宅の防衛力

「ふー」


 アィヴィの作った朝食、といっても卵を焼いただけの物を食べた後にメルセデスは一息つく。アィヴィはというとメルセデスが食べ終えた皿を洗い中である。


「お金がない」


 この数日の間メルセデスがやったことといえば 食う、寝る、井戸を作る、の三つであった。
 水を入れ確保するためにも井戸を作るのは急務であっったがそこはメルセデス。自作の爆裂ポーションを穴に放り込み爆破。地脈とか水脈とか一切関係なしに吹き飛ばし続けるという暴挙を敢行。運良く水脈を吹き飛ばしなんとか井戸を確保したのだ。
 つまるところお金に繋がりそうなことは一切していないのだ。


「そろそろ貯蓄もなくなるしお金が入ることをしないとまずいかな」


 先に挙げた三つ以外、井戸などは初日に作り終えたため正直な話メルセデスは寝ると食うしかしていなかった。食うですらアィヴィが準備していたことを考えると実質彼女は寝ることしかしていない。
 基本的に魔女という存在は研究をしたり調合をしたりということが多く出不精な者が多いが、人見知り、怖がりのメルセデスは群を抜いての魔女界の中でも群を抜いての引きこもりなのだ。


「よし、働きます!」
「マスター、アィヴィはマスターがニートをやめてくれるととても助かる」
「に、ニートじゃないよ!」


 洗い物を終えたらしいアィヴィがメルセデスに見えるように顔を出すとハンカチで目元を拭く素振りをみせる。ちなみにアィヴィはゴーレムなので涙などでない。ゴーレムもたまにはお茶目な素振りをみせるのである。
 ソファーから立ち上がり軽く伸びをした後にメルセデスは壁に掛けてあるローブを羽織り、腰にベルトを巻いていく。そのあとにベルトに自衛手段のフラスコと杖を差し込み準備完了であった。


「マスターが外出中に部屋を掃除したいから二時間は帰ってこないで」
「き、汚くないよ⁉︎」
「部屋が汚い人はみんなそう言う。でもそろそろお金がなくなるから真面目に魔女ぽいことしてほしい」
「魔女だから! ボク一応魔女だからね!」


 メルセデスの必死の物言いもアィヴィははいはいと手を振るだけで流し、水の入ったバケツとモップを手にしてメルセデスの汚部屋へと姿を消した。


「……よし」


 そんなアィヴィを見送り、頰を軽く叩き気合いを入れたメルセデスは外へと出る。


 キュィィィィィィン!


 外に出ると同時に甲高い音が鳴り響く。次いで響く爆裂音、そして出来上がるクレーター。仄かに肉の焼けたような匂いを乗せた風がメルセデスの頰を撫でるように周囲を漂う。


「いい天気だなぁ」


 そんな普通の魔女の工房ではありえない惨状を作り上げた当の魔女はというと全く気にかけていなかった。
 魔女メルセデスの工房の屋根には岩を削り人型を模したものが置いてあった。それはアィヴィと同様のゴーレムであるのだがアィヴィが限りなく人に近い造型であるのに対して屋根の上のそれは無骨、というか門番とかに使えそうなくらいの大きさで人間らしさがなかった。
 屋根の上にいるそのゴーレムはというと何かを投げつけたような姿勢で固まっていたがやがてゆっくりと元の姿勢に戻るとしゃがみこみフラスコを手に取ると直立不動の姿勢で停止した。
 これぞ魔女メルセデス工房の自動迎撃装置、メルセデスお手製の爆裂ポーションを工房に一定距離近づいた輩に投げつけるゴーレム、アィヴィ作の爆裂ゴーレムくんであった。


「……周り穴だらけだし」


 爆裂ゴーレムくんが投げたメルセデス作の爆裂ポーションが投擲された場所は木々をなぎ倒し、触れたものを跡形もなく消し飛ばしていた。
 工房を作り始めた頃は頻繁にモンスターや動物が近づいてきていたのだが一定距離に入ると爆裂ポーションで迎撃で仲間が跡形もなく吹き飛ばされるのを見たモンスターや動物たちは学習し近づかなくなっていた。


「もうちょっと弱い威力のやつに変えたら肉が手に入るんじゃ……」


 そんなことを考えているとまだ吹き飛ばされていない草むらから音が聞こえ、メルセデスの意識は自然とそちらに向けられた。


「ん?」


 体ごとそちらに向いた瞬間、草むらから鳴る音が大きくなり、巨大な塊がメルセデスに向かい飛びかった。
 この時メルセデスは分かっていなかったがメルセデスに向かい飛びかかったのはジャイアントウルフと呼ばれるモンスターである。その牙は鉄すら噛み砕くと言われる凶悪なモンスターである。
そのモンスターがまさに今無防備に立っていたメルセデスに向かいヨダレを垂らしながら牙を剥いたのだ。
 ジャイアントウルフがメルセデスに向かい飛びかかりその細い首に噛み付くまでの所要時間は僅か三秒ほど。普通なら回避することもできない。そう、普通の場所・・・・・では。


 メルセデスはジャイアントウルフに反応していなかったが爆裂ゴーレムくんは反応していた。ジャイアントウルフが脚に力を入れ飛びかかろうとしていた段階で既に爆裂ポーションで満たされていたフラスコをすでに大きく振りかぶっていた。
 爆裂ゴーレムくんがアィヴィから命じられたのは二つ。
 一つは人ではなく敵意を持って工房の周りをうろついた場合のそれの排除。
 そしてもう一つがマスターメルセデスに牙を剥いた者の殲滅であった。


 爆裂ゴーレムくんは二つ目の命令を忠実に実行するべく全力でフラスコを投げつけた。
 爆裂ゴーレムくんの全力で投げつけられたフラスコは風を切り裂き、唸りをあげながらも壊れることなく直進し、メルセデスへと齧りつこうと開いていたジャイアントウルフの口の中にすっぽりと入り込むと腹の中で爆発。
 ジャイアントウルフは体の中から爆破され血を撒き散らしてお亡くなりになるのだった。


 そんなことが起こっているとは知らないメルセデスが認識したのは生臭い匂い、そして爆発音と衝撃、さらには自分に飛びかかる真っ赤な液体だった。


「ぶひゃあ⁉︎」


 いきなり全身に飛びかかってきた液体に間抜けな悲鳴をあげながら尻餅をついたメルセデス。赤い液体のせいで目の前が真っ赤になっているためなにが起こったか全く分かっていなかった。


「な、なに? なにがおこったの?」


 目の前には肉の焦げる臭いとおそらくは大量の血。メルセデスには全く理解が及ばない。何より爆裂ゴーレムくんは喋らないし既に新たなフラスコを手にしたまま直立不動の姿勢に戻っていた。


「…… とりあえず服変えないと」


 血の雫を至る所から垂らしているメルセデスはげんなりしながら再び工房内に戻るのであった。

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