魔女メルセデスは爆破しかできない

るーるー

魔女は住処へと戻る

「うう、お金がなくなったぁ」


 肩をがっくりと落としたままボロボロの魔女メルセデスは木の杖に腰掛け空を飛んでいた。彼女がギルドで手にしたそれなりの大金はもはやない。
 意識を失った後で町の警備をしていた冒険者に連れられて再び冒険者ギルドに連れてこられたメルセデスはそれはもうこれでもかと言う位にたっぶりと受付嬢に説教を食らった。


 爆裂ポーションをぶら下げすぎだ、だとか、もっと危機感を持ちなさい、だとかもうすこしおしゃれにも気を使いなさい、だとか、結婚適齢期を過ぎたらきついわよ? とか色々である。後半に関しては受付嬢の愚痴のようなものだったが目が据わってたしどことなく口を挟み辛いオーラを受付嬢が醸し出していたためメルセデスは涙目ながら話を聞くしかなかった。足が痺れる座り方である正座で。


 ハゲ兄弟達を吹き飛ばしたことは多少過剰防衛ではあったようだが日頃からタチの悪いことをしていたということもありお咎めは一切なし。それどころかよくやったと感謝までされてしまうメルセデスであった。
 しかし、町の一部を灰塵と化してしまったのはまずかった。
 たまたま人があまりいない区画であったわけで人的被害はなかったわけなのだがそれでも建物が消し飛んだのは変わりなく、それなりの大金を請求されそうになったのだがそこはデザーベアーの素材の売値と相殺という破格の条件での交渉となった。


 そのためメルセデスのお財布の中身は完全に空なのである。


「お金が〜 ボクのお金が〜 生活費が〜」


 木の杖の上でメルセデスは頭を抱える。ドジっ子であるはずの彼女だがなぜか昔から杖の上から落ちることがない。他の魔女からしたら凄まじく不思議なことらしい。
 あっちにふらふら、こっちにふらふらとしながらメルセデスは森の上空を進んでいく。
 時折、ベルトにつけていたはずのフラスコが外れ、地面に投下されていきそれが森で火柱を上げていく。そのたびに森のあちこちから動物のものと思われる悲鳴が上がったりしているが頭を抱えるメルセデスは気づかない。


「はぁ、しかたないよね……」


 深々と溜息をつきながらメルセデスは改修中の工房の前へと降下を開始する。
 降下をし始めると工房の詳細が徐々に見え始めてきた。
 工房の周りには小さな光の塊がふわふわと飛び回りその塊が工房の壊れた部分に触れるたびに少しづつ修復されていっているのが見えた。


「うん、修復は順調みたいね」


 メルセデスが地面に着地しながら工房の修理具合に満足げに頷く。
 メルセデスが工房前に着地すると工房の周りを飛んでいた光の塊が群がるようにメルセデスに向かい飛んでくる。


「精霊がいると助かるねー」


 メルセデスの周りを飛び回るのは精霊である。彼らは魔力などを対価に力を貸してくれたりするのだが、楽しそうなことなら無償で力を貸してくれたりする。今メルセデスの周りで飛び回る精霊はメルセデスの魔力を対価に働いてくれている。


『ごほびー』
『ごー』
「はいはい」


 苦笑しながらメルセデスは指先を精霊達へと向けると魔力を流す。すると指先が一瞬で見えなくなるほどに精霊が群がって来る。


『うまー』
『しごとのあとのいっぱいー』
『しふくー』
『これであしたもいきられるー』


 妙に人間っぽいことを言う精霊だった。


「うん、だいたい修復もできてるしとりあえず住めるから助かったよ」
『おつかれー』
『げんちかいさーん』


 楽しそうにそう告げながら精霊たちはフラフラとあちらこちらへ飛び去っていった。そんな精霊たちを見送りながらメルセデスは「お金〜 お金〜」と呻きながら工房の中へと入っていくのであった。



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