神官マオは鈍器で女神の教えを広げたい

るーるー

白い津波

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!』


 プレンティ神殿の横のダンジョンの中に二人の悲鳴が響く。
 そこはアンデット系モンスターばかりが湧くという神官にとって修練にもってこいのダンジョンである。
 一言にアンデット系と呼ばれるモンスターだが様々な種類が存在し、このダンジョンに出てくるモンスターはおおよそ三種であった。
 スケルトン、ゾンビ、そしてレイスである。
 そのどれもが倒すのがなかなかに厄介なモンスターであり、同時にこの三種類のモンスターは非常に厄介であり、冒険者に嫌われるのである。


 そして今、セリムとエルレンティは悲鳴を上げ、そんな嫌われるモンスターが跋扈するダンジョン内を全力疾走しているところだった。


「これは無理です! どう考えてもむりですぅぅぅぅ!」
「ばか! 足を止めるな! 止めたらアレに飲み込まれて死ぬぞ!」


 エルレンティが涙を流しながら走る横で、同じように額に汗を浮かばせながら駆けていたセリムはちらりと後ろを振り返り、そして振り返ったことを後悔していた。


「くそ、いつまで走りゃいいんだよ!」


 セリムとエルレンティの後ろには真っ白な津波が押し寄せていた。いや、よく見れば津波ではないことがわかるだろう。津波はそもそも白くはないし、カラカラという軽い音を立てたりもしない。


 彼らの後ろに迫るのは骨のモンスター、スケルトンであった。
 それも尋常な数ではない。五人くらいが横並びで歩いても余裕なダンジョンの通路を圧迫するほどに詰め、さらには奥にいるスケルトンの数は数えるのが嫌になる程、後ろを振り返ったセリムの視界が白く埋め尽くされるほどの数が二人を追ってきているのだ。


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


 骨が揺れながら武器である骨を振り上げながら追ってきていた。


「はーい、みんなダッシュダッシュ」


 そんなセリムとエルレンティを追うスケルトン達の背後ではマオがまるでスケルトン達を追い立てるように聖書を振り回しながら走っていた。
 マオが振り回した聖書に当たったスケルトンは一瞬だけ輝くとすぐに砂へ変わり崩れ去った。


 仮にも神官、さらには鈍器として間違った使われ方をされているが神結晶によって作られた聖書である。
 アンデットにとっては致命的なまでのダメージを与え、神聖魔法など使う必要もない代物だった。


 本来なら恐怖心など感じないスケルトンなどのアンデット系モンスターであるが、仲間のスケルトンを消し飛ばした聖なる力にはなにかを感じたのか逃げるように前方へと駆けているのだ。
 結果。


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ


『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!』


 逃げるように前方に向かって駆けるスケルトン達は死んでいるのに浄化されまいと必死になりながらも駆ける。
 結果、そんなスケルトンに追われる羽目となった二人の背後からの圧力が増していったのだった。

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