神官マオは鈍器で女神の教えを広げたい

るーるー

関わり合いたくない奴トップ3

「女神の教えに背く者には罰を」


 マオは聖書を振り切ったままの姿勢のままで静かにそう呟いた。


「やりやがったよ……」


 どこから聞こえる声は同じ場所で酒を飲んでいた同業者である冒険者のものだ。


「あの狂神官バーサクヒーラまだ黒だろ?」
「ちげえよ! 今日の下着は白だよ!」
「下着の話じゃねえよ!」
「いま殴りつけた奴って確か青のランクじゃなかったか?」
「馬鹿野郎! 狂神官バーサクヒーラさんにランクなんて関係ないんだよ! あの人はランクが上の奴でも容赦なくぶっ飛ばすんだぞ!」
「今この街で悪い事をしている人間が関わり合いたくない奴トップ3に絡んでいくなんてなんて命知らずな……」


 普通は女性が襲われていたり、恐喝などの弱いものいじめを見かけたら助けたりする彼らであるのだが絡まれているのがマオだと認識した瞬間から助けるという行動は頭から除外されていた。


 なにせマオに加勢などした日には加勢した冒険者側が弱いものいじめをしている側に加担したことになるのは火を見るより明らかだからだ。


「やっぱりやりやがったよ」
「あ、セリム。換金は終わったのですか?」


 予想していた通りの結末になったのを頭を掻き、確認しながらやってきたセリムにマオは聖書を再び鎖で肩に下げながらセリムへと声を掛けた。
 彼、セリムもマオと組むようになってしばらく経ち、マオの引き起こす騒動にようやく慣れつつあるのか最初の頃のように大きな声を上げる事は少なくなっていた。


 人間とはどんな環境でも慣れるのである。


「殺してないよね?」
「女神様が罪を許しているなら彼は死ぬ事はありませんよ?」
「いや、ぶっ飛ばしたのお前だからな」
「それよりもセリム、あなたが手にしているのはなんでしょうか?」


 マオの視線はセリムの手に握られている羊皮紙へと注がれていた。


「ん、ああ。最近ゴブリンとかばっかり狩ってるだろ?」
「マオは無益な殺生はしません。薬草集め以外は特にしてませんが?」


 だってマオは神官だから! と言わんばかりにマオはさも自分が関係ないかのようにドヤ顔を浮かべる。


「…… 先日「豚肉が食べたいですね!」とか抜かしてオークの群を撲殺した奴はどいつだ?」
「……人は生きる上で何かの犠牲の上に成り立っているのですよ?」


 マオはセリムのじっとりとした視線から顔を背けて先程とはまるで違う事を言っていた。よく見れば額に小さな汗が浮かんでいるようにも見えなくはない。


「はあ、まぁ、ゴブリン狩りをしてるわけなんだがどうも弓を使う奴がちらほらいるみたいでな」
「近づいてフライパンでぶったたけばいいじゃないですか? それか避ければいいだけじゃないですか?」


 マオが名案と言わんばかりに手を叩きセリムへと進言する。


「お前じゃあるまいし…… 撃たれてからよけるなんて普通は無理なんだからな!」
「あれ? マオ呆れられてますか?」


 話が進まないとばかりにセリムは顔を左右へと振る。


「で、その手にある物は?」
「…… パーティメンバー募集のチラシだよ」
「すいません、エールジョッキで!」
「聞けよ!」


 マオは自分から尋ねたくせにすぐに興味がなくなったのか手を挙げて注文をし、セリムの話をまるで聞く姿勢が見られないのであった。

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