神官マオは鈍器で女神の教えを広げたい

るーるー

人の話を聞かない人

 特に名前などない平原。
 オフタクの街から帰らずの森の間に広がる平原の事である。
 稀に帰らずの森からモンスターや獣がやってくる事以外は特に危険がないと言われる様な場所であり、冒険者を目指す初心者が色々と学ぶ場所でもある。


「で、なんの依頼受けたんだよ」
「なんであなたに言わないといけないんですか?」


 そんな平原の中でセリムからの質問をマオはバッサリと拒否の態度と台詞で切り捨てた。
 マオとしてはここまで一緒に来たのは、マオの受けた依頼とセリムが向かおうとしていた場所が一緒だったからであり、別に仲間だとかそんな関係ではないのだ。


「え、俺たちパーティの仲間だろ?」
「え……」


 しかし、そう思っていたのはマオだけの様でセリムの方はちゃっかりと仲間意識でいた様だった。


(神官とかパーティにいたら俺はもっと活躍できるからな! 回復魔法は大事だぜ!)


 とても楽観的な考えでいるセリムであった。


(あまり人のことを悪くいうのは女神様の教え的によくありませんがこの方はトラブルの元になりそうな予感がヒシヒシとします)


 対してマオはセリムを仲間にするのは否定的であった。
 マオの神官としての勘が囁くのだ。


 こいつはなにかやらかすぞ! と。
 もしも彼女を知る第三者がいたのならばこう述べただろう。


 どの口が言うのかと!


「じゃ、パーティの初めての共同作業といこうぜ!」
「えぇ、マオは薬草集めのクエストを受けただけなんですけど……」
「俺のゴブリン狩りと一緒にやればいいじゃん!」


 マオとしては一応は傷つかないようにやんわりと断ったつもりだったのだがセリムには通じなかった!


「いや、だからマオはあなたとパーティを組む気はないんですって」


 今度ははっきりとわかるように拒否してみた。
 すると先程まで迷惑にもグイグイ来ていたセリムは一度静かになると腕を組み考えるような姿勢を取った。


「わかった」
「わかってもらえましたか」


 頷いたセリムにマオは安堵のため息をついた。


「つまり俺の実力が知りたいんだな?」
「は?」


 なぜか断言してきたセリムにマオは間抜けな声を上げた。
 セリムは全くわかっていなかった。


「俺の実力がわからないから信頼して背中を預けられないってことだろ?」
「いや、あなた前衛、マオは後衛。背中を預けるのはあなたですよね?」
「じゃあ、俺の実力を見てくれ!」
「マオの話を聞いてくれませんか⁉︎」


 叫んでもセリムはマオの話など聞かず、それどころか荷物を持つようにマオを脇に抱えると腰からナイフを取り出し掲げながら爆走を開始。


「ちょ、離し、て……」
「俺はいずれは勇者になる男だ! そんな俺とパーティを組めるというのがどれだけ幸運かを教えてやるぜ!」


 マオが途切れ途切れに発した声は人の話を聞かない人間であるセリムには全く届くことはなかった。


「う…… おぇ……」


 セリムは舗装されていない道無き道を駆けるため、一歩足を踏み出すたびに衝撃が抱えられているマオへと響き、そのたびにマオの顔色が青く、そして白く変化していた。


 そしてセリムはつい先日までマオがサバイバル生活をしていた帰らずの森へとマオを抱えたままの状態で突撃していくのであった。

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