神官マオは鈍器で女神の教えを広げたい

るーるー

名前? 知りません

「こ、こちらが冒険者の証のアクセサリーになります」


 怯えながらマオへと黒い石の付いたペンダントを手渡す受付のお姉さん。
 マオが少年を色々と打ちのめした店。
 そこがどうやら冒険者ギルドと呼ばれる所だったらしい。


 そんなわけでとりあえず冒険者の登録をしておこうと思ったマオは自分を引き摺っていた少年をあっさりと振り払うとカウンターへとダッシュ。
 不運にも先程からマオのテーブルに料理を運んでいた女性がマオに見つかり対応する羽目となっているのだ。


「ありがとうございます」


 お礼を言いながらマオは受け取ったペンダントを物珍しそうにしばらく眺めた後、


「安っぽいですね」


 ボソリと本音を述べた。


「ま、マオさんは新人という事で冒険者のランクは黒。冒険者としてのランクとしては最下位となります。これは誰が登録されても一緒となります」


 マオの呟きが聞こえたのか受付嬢は慌てたように説明を始めた。
 マオとしては別にペンダントに対しての本音を述べただけなので、別に気にすることなくペンダントを首から下げると受付嬢の説明に耳を傾けていた。


「冒険者のランクですが黒、赤、青、白、銀、金となります。一般的な認識では青のランクの冒険者が普通レベルの冒険者と認知されております。銀や金ともなると英雄と呼ばれたりしていますね」
「なるほど」


 受付嬢の説明にマオは頷く。
 その後ろでは少年が拳を握りしめながら「俺だっていつかは金に!」などと呟いているのがマオの耳に入ってきていたりするのだが無視を決め込んでいた。


「ちなみにこの後ろの鬱陶しいのはどのランクなんでしょう?」
「おい鬱陶しいとはなんだ!鬱陶しいとは」


 無視を決め込んでいたマオであったが声に苛ついていたのか、仕方ないといった様子で少年を会話に混ぜることにしたようだ。


「というか名前で呼べよ。名前で」


 少年がそんな事を言ってきたのでマオは不思議そうに目を見開き、僅かに首を傾げて思案するような素振りを見せた。


「おい、なんだよ」


 そんなマオの様子を見て少年もまた不思議そうな表情を浮かべ、マオを見つめ返してきていた。


「いえ、マオは貴方の名前を聞いた覚えがありませんので。名前で呼べと言われても困るなぁと思っていただけです」
「え、俺名乗ってなかったっけ⁉︎」


 出会ってから数日とは言わずとも数時間は共にいた二人だったが一人称が自分の名前であるマオは兎も角、少年の方は俺としか言っていなかったためにマオは知らないのであった。


「で、貴方は誰ですか? 不審者?」


 唐突に、向けられてくる気配が冷たい物へと変わったことに少年は気付いたが焦る様子はなく、それどころか不敵な笑みを浮かべていた。


「不審者だと? ふふん、俺こそいずれ勇者と呼ばれるであろう男! セリム様だぞ」


 なぜかいつか勇者になる男(予定)セリムは胸を逸らしてマオに対して威張ってきた。


「彼はなんで自称の癖に威張ってるんですかね」


 マオが疑問に思うように自称勇者候補では、全く偉くないのだ。
 むしろ偽物扱いされてもおかしくない。


「セリムさんはあんなお調子者なんですが腕だけはありますのでね。一応はあの年齢ではかず少ない青のランクに当たりますし二つ名まである方なんです」
「あんな方がですか?」
「あんな方でもです」


 マオと受付嬢が声を潜めて話している事などつゆ知らず、セリムはひたすらに今後の自分の活躍の予定をペラペラと語っていた。
 周りにいる冒険者はというと、また始まったよ、と言わんわばかり呆れ顔で聞き流しながら依頼を受けたり酒を飲んだりとを再開していた。


「ちなみに二つ名というのは?」


 マオもセリムの話は全く聞いておらず、自分の気になる事だけを尋ねるようにしたようだ。
 受付嬢の方もマオが基本的・・・にはすぐに暴力に訴えかけるような人物ではないとわかったのか、引きつったような笑みではなく自然な表情で答えた。


「二つ名というのはその人の名前ではなく通り名という感じでしょうか? ちなみにセリムさんの二つ名二本の剣を扱うことから『双剣のセリム』ですね。この街で他に有名なのは千剣や剛腕などでしょうか」


 なんだか物騒な名前だなぁとマオは若干引きながら聞いていたのだが、周りの冒険者達はそうでもないらしく。


「俺もいつか千剣みたいに強くなりたいぜ!」
「ああ、王都の冒険者ギルドは夢だからな!」
「私だって雷刃のお姉様に踏まれたいわ!」


 一部よくわからない願望のような物もきこえたのだが、大半の冒険者達が憧れているような事を口にしていたので流石にマオも思った事を口には出さなかった。
 マオも一応は空気が読めるのだ。
 しかし、不意にマオは思い出し、それを口にした。


「でも彼はもう二振りの剣を持っていませんから双剣の二つ名はもう使えませんよね」


 マオの声が聞こえたのか今までよく喋っていたセリムの声が唐突に消失、少ししてから膝をつき、項垂れるような姿を見せたのであった。





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