神官マオは鈍器で女神の教えを広げたい

るーるー

お風呂でトラウマ

「ぎゃぁぁぁぁ! 痛い! 痛いですぅ!」


 テテに連れられたお風呂場の中でマオの悲鳴が響きわたっていた。


 お風呂場と言っても巨人族用の巨大なお風呂場になど入れられてはマオは容易く溺れてあの世行きになっていたことだろう。
 それはテテも理解していたようでちゃんと小さな方にマオを放り込んでいた。


 具体的には巨人族の料理用の鍋の中に。


「ほら暴れるんじゃないよ」


 鍋の中に放り込んだマオをテテはまるで野菜を洗うかのように結構な強さで擦っていた。
 そのため素っ裸で鍋に放り込まれたマオは悲鳴を上げているのだ。
 本来なら汚れが落ちていきつつあるマオは美少女と呼べる裸体をさらしているのだが、入っているのが鍋、さらには横にはついでに洗おうとしていたのか野菜がぷかぷかと浮かんでいる状態のため全く色っぽさがみられないのだ。


 悲鳴を上げている間にもマオの身体は洗われていき、汚れが落ちていくとそこにはぐったりとした残念系美少女の姿があった。


「ほらよ」
「うう…… お嫁にいけない…… お風呂怖い……」


 野菜の水を切るかのように軽く布で拭かれているマオはメソメソと泣いて呟いていた。
 テテにとっては軽く拭いているだけなのだが、マオにとってはそれは左右に振り回されるかのような衝撃なのだがテテはそれに気づかない。


 ようやく水洗いという拷問から解放されたマオは布一枚を身体に巻いた状態であった。
 巨人族の家具のスケールは人族とは桁違いにデカイのでマオの座ることの出来る椅子などはない。そのためテーブルの上にマオは座り込んでいるのであった。


「テテおばさん! マオはお腹が減ってたんですよ! 食事をしようとしてたのに」
「はいよ!」


 布に包まりながらも抗議の声を上げたマオの声はテテの大きな声によって掻き消され、さらには地震が起きたかのような衝撃によりマオはテーブルから僅かに浮かび上がり悲鳴をあげる羽目となった。


「ひゃぁぁ!」


 テーブルの上へと放り投げられたのは巨大な皿であった。
 しかも巨大な、山のような大きさ…… とまではいかないが人族であるマオにとっては見上げなければならない程に盛られた肉だった。


「食べないから小さいままなんだよ人族は!」
「マオの知る限り人はそんなに食べれませんよ!」


 マオの叫びなどテテは華麗にスルー。
 マオの方も空腹がそれなりに限界だったこともあり仕方なしに肉の山へと手を伸ばした。


(マオ、成長期だけどこの一ヶ月肉しか食べてないから不安です)


 自分の体の成長を気にするマオ。特に胸が……


 神殿を出てからの一ヶ月、食べたのはモンスターと獣の肉ばかり、さらに言うなら一応は野菜と呼んでいいのか怪しい草類を食べてはいたのだがそれで栄養が確保できていると考えるほどマオは楽観的ではなかった。


「うごぇ⁉︎」


 皿の上の肉を口に入れた瞬間、マオは口の中に頬張った物を勢いよく吹き出した。
 あまりの不味さに。


「あー、やっぱりゴブリンの肉は不味かったか。味覚があまりない巨人族でも不味いと感じるくらいだからなぁ」
「そんなものをマオに食べさせたのですか⁉︎」


 いつの間にか椅子に座り食べているマオを見下ろしていたテテがわかっていたかのように呟いた。


 一般的に獣やモンスターの肉は大半が食べれるのだがゴブリンだけは別である。
 どう料理しても美味しくならないという最低の食材であり、殺しても売れない、食えない、使えないと言われるモンスターでそのくせ一匹いると百匹いると言われている。


「この前狩ったやつの肉があったから出してみたんだけどダメだったみたいだね」
「うう、初めて食べたけど無理です」


 涙を滲ませ、嗚咽を零しながらマオはテテを見上げる。
 一ヶ月ものサバイバル生活を送り、野盗すら軽々と退けたマオですらゴブリンの肉の前にはなす術がなく、お風呂とゴブリン肉がトラウマになるのであった。



コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品