フェイトトリップ ~才能の統べる世界~

ルカ

第20話 いよいよ明日!

 みなさんこんにちは、サニィです。

 きょうは4月9日!です!いよいよ!明日が学校です!たのしみでたのしみでたのしみでたのしみです!

 あ、“漢字”をすこしおぼえました!


   2018年  4月9日  月曜日  朝


「学校だよー!!雪ー!学校だよー!!」

 サニィは、布団の中でうずくまっている雪を、目一杯揺さぶった。

「さ、サニィ、あと五分、、あと五分寝かせて、、」

 お花見をした日から今日まで、異様にテンションの上がったサニィに振り回された雪は、かなりお疲れのようだ。

「ねーねー雪!学校だよ!明日!」

「明日じゃん、、今日関係ないじゃん、、」

「あるもん!ねえあるからおきてー!」

 サニィは、雪の掛け布団を強引に奪った。

「うぅぅ~、、」

「雪!学校だよ!」

 喜色満面の笑みを浮かべるサニィ。

「うん…明日ね…」

 雪は枕に顔を埋めて泣いていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「明日だね!学校!」

 サニィと雪の二人は、いつものように洗面所で身嗜みを整え、いつものように食堂へ向かっていた。違いと言えば、サニィのテンションが一週間前よりも格段に高い事だ。
 サニィが城に来た日から今日まで、いろいろ有りすぎて訳が分からなくなってきているが、サニィは魔法使いになりたい訳であって、学校に行って勉強すれば魔法使いになれると思っている。なので、サニィは学校に行く日を物凄く楽しみにしていたのだ。

「サニィお花見の後からずっと学校学校言ってるね…」

 雪は呆れた顔をしていた。

「だってアトさんのおはなしがたのしかったんだもん!」

「それも一週間前から言ってるね…」

「昨日もアトさんとおはなししてきたんだよ!」

「お、それは初耳!」

 久々の新しい話題に、雪は興味を持ったようだ。

「何話したの?」

「えっとね、漢字をおしえてもらったよ!」

 サニィは自慢げにそう言った。

「あ~!だからサニィの台詞に漢字が混ざってるのか!」

「?」

 訝しげな顔をして首を傾げたサニィ。そんなサニィを見た雪は、苦笑いしながら会話を続けた。

「ま、まあ、いいや。ところで、どんな漢字覚えたの?」

 雪の質問に、サニィは虚空を見上げつつ指を折りながら応えた。

「えっとね、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十…あと…月、火、水、木、金、土、日…曜!…日?…それと…今日、昨日…学校!」

「おお~、結構覚えたね~!」

 雪はパチパチと軽く拍手をしながらそう言った。

「…あと雪のなまえも!」

「え、私の?」

「うん!氷…華…雪…でしょ?」

 サニィは自慢げな顔をし、指で空中に“氷華雪”と書きながらそう言った。

「はふぁ~!!」

 雪は嬉しさか何かの感情に駆られたようで、緩んだ笑顔で泣いていた。

「よく勉強したねぇ!サニィ!よくやったよー!」

 そう言って、雪はサニィの頭をポンポンと撫でた。サニィは、満更でもなさそうだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「……」

「……」

 食堂に着いた二人。その笑顔は、食卓に漫然と置かれた忌々しい白き液体により、消し飛ばされていた。

「雪…」

「わかってる…でも…でもねサニィ…学校…これが毎日出るって…知ってるよね…?」

「…ん…しってる…」

「じゃあ…二人で…がんばろ…!」

「…ん…」

 二人は、一気に決め掛かった。破裂寸前の風船の様に膨らむ吐き出したいという衝動を必死に押し堪えながら、牛乳を飲み干した。

「…」

「…うぷっ…」

 二人はその後、机に倒れ込んだまま動かなかったと言う。

(二人とも…ちょっと前にもそんな感じで一話使ってたよね…?)

 二人の姿を見たザニは、食パンを貪りながらそんな事を考えていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あら、あんた達まだいたの?」

「はっ!?」

 吹雪の声に、サニィははっとした。どうやら気を失っていたようだ。

「牛乳飲んだぐらいでそんななってたの?」

 吹雪はテーブルを拭きながら、嘲笑的にそう言った。

「“ぎゅーにゅーのんだぐらい”、じゃないですよ!あれはたべものじゃないです!」

 ガタッと立ち上がってそう言ったサニィ。目がマジだ。

「はいはい。でもまあ、学校の練習とでも思っておきなさい。学校はもう少し量が多いわよ。」

「え゛、」

 サニィの表情は、氷点下まで凍りついた。

「あ、そうそう。あんた達明日から学校でしょ?」

「はっ!そーでした!!」

 サニィの目に、光が戻った。いや、戻りすぎた。

「忘れ物が無いように、今の内に準備しといたら?」

 サニィは満面の笑みで、大きく頷きながら、大きな声で、

「はい!!!」

 返事をした。お陰で雪も、ビクッと目を覚ました。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「でもランドセルってどこにあるのかな?」

「本当、どこに隠したんだか。」

 ランドセルを手に入れた当初、二人は枕元に大事に置いていた。しかし、ある日気がつくと、無くなっていた。ルカに聞いたところ、「どこでしょーう?探してごらーん?」と。二人はその日一日中探したが、ランドセルは見つからなかった。そして結局諦めていた。
 
「どうやってさがすー?」

「そうだねー。どうしよっか。」

 二人は暫く、その場で考えた。先に案を思い付いたのはサニィだった。

「あ!ザニさんの“せんりがん”でさがしてもらおーよ!」

「あ~!その手があったか!」

 その場から動かずに離れた所を観察出来るスキル《千里眼》。ザニはそのスキル(正確には同じような事が出来るスキル)を保有しており、精度も一般を遥かに凌駕している。そのザニに、千里眼を使ってランドセルを探して貰おうという案だ。6歳のサニィにしては、中々の案だろう。

「でもザニさんどこにいるのかな?」

「さあ?どこだろ。」

 こうして二人は、ザニ、もといランドセルを探しに出掛けた。
 まず向かったのは王室。いつもならここの玉座に座って不満げな顔で算盤を弾いている。

「とーちゃく!」

「えーと、お父さんは…」

 二人は辺りを見渡した。が、ザニは疎か誰もいない。

「だれもいないね。」

「おっかしいなー、どこいるんだろ?」

 二人はザニの居そうな場所を考えた。が、そもそも城の中以外で城の皆に会うこと自体が少ない。皆がいつもどこにいるかも、当然知らない。

「ん~、、サニィ、誰がどこにいるかわかる?」

「えっと…ソティアさんならもんのまえにずっといるし…ん~、、」

 サニィが頑張って絞り出した情報は、これだけだった。

「とりあえず…ソティアさんのとこ行ってみる?」

「うん…そーしよ!」

 二人は気を取り直して、ランドセル探しを続行した。次に向かったのは、ソティアの居る城下町の門だ。

「あ、ソティアさんいた!ソティアさーん!」

「あ、ちょ、待って待って!」

 サニィはソティアを見つけると、雪を置いて駆け寄り、ソティアの足下に抱きついた。

「あははは、サニィどうかしたの?」

 ソティアはサニィをそっと引き剥がしながらそう言った。

「えーと、ザニさんがどこにいるかしりませんか?」

 ニコニコした笑顔でそう聞くサニィ。その頃、雪が追いついた。

「ザニ?知らないわよ。」

「そーでしたか…」

 サニィはがっくりと肩を落とした。

「雪も来てたのね。」

「はい。サニィと一緒にランドセル探してるんですよ。」

「あ~、ランドセルね。」

「しってるんですか!?」

 サニィの目に光が戻った。

「いや、知らない。」

 その光は、三秒と保たなかった。

「まあそうがっかりしないの。ほら、雪が遠距離通信魔法使ってザニと連絡とればいいんじゃない?」

 “遠距離通信魔法”。前にルカが使っていた魔法だ。それを、雪が使えるというのだろうか。答えは、

「使えたら使ってますよ、、」

 使えないようだ。

「え~、、どーする?雪?」

「どうしよっかね…」

 二人が腕を組んで考えていると、ソティアが案を持ち掛けて来た。

「レオナさんにでも聞いてみたら?私居場所知ってるわよ。」

「ほんとですか!?」

 学校を明日に控えている所為だろうか。先ほどからサニィの感情の起伏がいつもより激しい気がする。

「どこにいるんですか!?」

「えっとね、冒険者ギルドの隣の訓練場、わかるかしら?」

「はい!わかります!」

「それは良かった。さっき「師匠に稽古付けて貰ってきます!」とか行って走ってったわよ。」

「そうですか!ありがとーございます!」

 サニィは深々と頭を下げると、雪の腕を掴んだ。

「雪!はやくいこ!」

「ふぅわぁ!うん!」

 腕を引かれる雪の顔は、やけに嬉しそうだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ルカのクエストを見学した日、ザニと共に訪れた冒険者ギルド。その後も、度々近くを通っていた。冒険者ギルドはドムレカにある建造物の中でも、“ドムレカ城”“ドムレカ魔法学校”“闘技場”に次ぐ巨大建造物なので、道標としては大活躍なのだ。
 ところで二人は、そんな冒険者ギルドの隣にある訓練場に着いたわけだが、早くも不安を抱えていた。

「うわわ…」

「うわぁ…」

 普段は、沢山の冒険者達が剣術や魔法の練習をするこの広場。しかし今は二人の剣士の戦いを、周りの冒険者が固唾を飲んで見守っていた。
 そう。レオナとトカゲンが、結構ガチの手合わせをし始めたようだ。二人とも、刃を抜いて睨み合っている。レオナに関しては、腰の刀と肩の刀両方を抜いて構えている。

(どーしよー、、こえかけられない、、)

 段々と周りに人の輪ができ始めていたその時、レオナがトカゲンに切りかかった。その太刀筋は、完全にトカゲンの首を捉えていた。それに合わせ、トカゲンも剣を構える。降りかかる刃は、有らぬ方向からトカゲンに襲いかかった。

「!?」

 レオナの刃はトカゲンに剣に弾かれる寸前、軌道をガクッと下に落としてトカゲンの脇腹を襲った。トカゲンも流石の反射神経で回避したが、かなり驚いた様子だった。

「いや~、結構練習したんじゃない?あそこまで角を立たせて曲げる人間、初めて見たよ。」

「流石は師匠ですね…渾身のタイミングだったんですが、、」

「確かに、あれならそこらの冒険者ぐらい、余裕で斬れる。ただ、」

 トカゲンはゆったりと剣を構え直し、レオナを睨み付けた。

「相手は僕だ。もっと殺しに来なきゃ。」

「…わかりました。」

 そう言うとレオナは刀を鞘に仕舞い、左膝を着くと、腰に仕舞った刀に手を掛けた。

「…これが…人間の最速です!」

 前のめりに踏み込んだレオナ。その姿は、その場にいた全員の目から消えた。たった一人、トカゲンを除いては。
 刃の重なる音。余りの音の大きさに、周囲の目が瞬時に集まった。そこには、レオナの首に刃をあてがるトカゲンと、トカゲンの剣で刀を跳ね飛ばされたレオナの姿があった。

「速いには速いけど、使い時がありそうだね。」

 そう言ってトカゲンは、剣を鞘に収めた。

「私としたことが早合点でした…こんなスピードでは、師匠には当たりませんね。」

 どうやらレオナは、物凄い速さでトカゲンに居合い切りを放とうとしたようだ。しかし当然のように見切られ、逆に首を飛ばされそうになってしまった。

「まだまだ修行が足りませんね…」

 そう言って刀を仕舞うレオナに、トカゲンは優しく微笑みながら言った。

「いや、人間としては強すぎるくらいだよ。レオナは。」

「そう言ってもらえて…光栄です…!」

 レオナはしくしくと、嬉し涙をこぼした。一部始終を見ていた観衆達は、二人に拍手喝采を浴びせていた。

(…き、聞きづら!!)

 更に聞きづらい状況に、サニィも雪も、苦笑するしか無かった。

「ねー雪、どーしよー?」

「うーん…他を当たる?」

 苦しい選択だ。

「でも、どこにいるかわかんないよー?」

 城の皆がどこにいるのかを完全に把握し切れていない状態では、他を当たることはリスクが高い。だが、先ほどの状況から空気を読んでそうするしかないのだろうか。

「お二人は何をしてるのですか?」

 図らずも、レオナから話し掛けて来てくれた。

「レオナさん!ありがとーございます!」

 思わず歓喜の笑顔で頭を下げたサニィ。レオナも雪も驚いた様子だった。

「な、何で?サニィ!?」

 サニィは頭を上げてニコニコしながら応えた。

「だってうれしーでしょ!」

「うぅぅ、、はい、!」

 どうやら雪は、サニィのニコニコした顔に弱いようだ。

「嬉しいんですか?よくわかりませんが。」

「うれしーですよ!レオナさんにききたいことがあったんですから!」

「?私にですか?」

 レオナは訝しげな顔で首を傾げた。

「はい!ザニさんがどこにいるかしりませんか?」

「ザニさんですか…知りませんね…」

「そーですか、、」

 先ほどまでの笑顔はどこへやら、がっくりと肩を落としたサニィ。その様子を見たレオナは、慌てて情報を補足した。

「ああ、ええと、今日は友人と飲みに行くーなんて言ってましたよ!」

「ほんとですか!?」

 サニィの目に輝きが戻った。

「どこにいるかは…知りませんが…」

「だいじょーぶです!あとはがんばってさがします!ありがとーございました!」

 頭をぺこっと下げたサニィ。

「雪!いこ!」

 雪の腕を引っ張って、訓練場を後にした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 
 飲みに行くと言えば酒場、ということで二人はその後、町中の酒場を探し回った。キツい酒の臭いにクラクラしながらも、夕方頃には全件回った。だがしかし、ザニはどこにもいなかった。

「うぅ~、、雪、、あたまいたい、、」

「私も、、頭痛い、、」

「ザニさんいなかったね、、」

「どこいるんだろうね、、お父さんいないと千里眼が…あ!」

 突然、何かを思い出したかのように大声を出した雪。その声に驚いたサニィを、雪は気まずそうな目で見て口を開いた。

「ごめんサニィ。そういえば私“千里眼”使えた。」

 確かにザニの実の娘でもあるし、使えても不自然ではない。ただ、ここまでの努力が水の泡になるような発言に、サニィは唖然としていた。

「え?つかえるの?」

「うん。左目閉じたら使える。」

「…じゃあ、おねがいします!」

 サニィは今までのランドセル探しでの苦労を思い出し、涙目になりながら雪に頼んだ。

「じゃあちょこっと探すね。」

 そう言うと雪は、左目を閉じた。

「!??」

 何が見えたのか定かではないが、その顔から察するに、かなり衝撃的な光景なのだろう。

「みえたー?」

「ちょ、ちょっと待ってね…おー!あったあった!」

「ほんと!?」

「ちょっと取ってくるね!」

 そう言うと雪は、地面に左手を突き刺した。

「ゆ、雪!?なにしてるの!?」

 友人がいきなり地面に左手を突き刺したら、驚かないはずは無いだろう。当然、サニィも驚愕していた。

「ランドセルが地面の中にあるんだよ。ちょっと待ってねもう少し…そら来た!」

 雪は地面に突き刺した左手を、ズボッと引き抜いた。その手には、二つのランドセルを持っていた。不思議な事にランドセルは、二つとも汚れが付いていなかった。

「ゆ、雪すごい!ランドセルみつけた!!」

 サニィは目を丸くして驚いていた。そして、すぐにランドセルを手に取った。

「これわたしのだー!!!」

 名札も付いていなければ名前を書いてすらいないランドセル。だが、サニィは手に取った瞬間、これが自分のランドセルだと確信した。

「じゃあ余った方が私のか!」

 雪はそう言って、ランドセルを背負った。

「ゆ、雪…」

「ど、どうしたの?サニィ?」

 サニィはランドセルを背負ってプルプル震えていた。

「学校が!さらに!すっっごくたのしみになってきた!!!」

 サニィのテンションは、そろそろ爆発しそうな程に上がっているようだ。先ほどの震えも、武者震いなのだろう。

「雪!学校ってたのしーかな!?」

「…うん。楽しいよ!きっと!」

 雪が笑顔でそう応えると、サニィも、にこやかな笑顔を見せた。二人は、城に向かって大通りを歩き始めた。

「あっしたは学校!あっしたは学校~!」

 サニィに関しては、スキップで城に向かっていた。その姿を雪は、和やかな目で見ていた。
 振り返ったサニィの顔は、それはそれは幸せそうな顔だった。まるで、これから自分の夢が叶うかのような。

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