フェイトトリップ ~才能の統べる世界~

ルカ

第12話 神の激情


 みなさんこんにちは、サニィです。

 このまえのおたんじょうびにふぶきさんからもらった“ピアノ”のことなんですが、つぎのひにおしえてもらいました!ピアノってたのしいですね!

 まどうしょもよんでみました!けど、、なんてかいてあるのかわかりませんでした、、

 もっともっとおべんきょーして、ぜっったい、まほーつかいになりますよ!


   2018年  3月16日  金曜日  早朝


 サニィ達がいる世界は、人間、エルフ、ドワーフ、魔族等々…様々な種の入り混じる“現世界”。そんな現世界より遥か遠い次元に、八百万の神々が集う“神界”という世界がある。基本、全ての神は此処に存在、生活し、仕事や道楽を行っている。例外として、現世界や天界、魔界等、別の世界線を拠点にする者も存在する。
 先日、サニィの誕生日にて、ルカのプレゼント材料調達の餌食となった神も、此処、神界に居た。
 レーニャら“属性神”の男上司、一度寝たら中々起きない、「気象を操る神」こと龍神が今日、三ヶ月ぶりに目覚めた。
 龍神は数ヶ月に一度目覚め、数ヶ月分の仕事をこなすのだが、起きたらまず始めにすることがある。それは“自慢の角”の手入れである。通常、人形ひとがたで生活している龍神。高身長な龍神の顔の大きさ程もある一本角はかなり目立つ。異変にはすぐに気がついた。

「わ、、、私の角が…無い…!?」

 龍神は神の中でもかなりの切れ者で有名。最初こそ動揺していたものの、すぐに思考を切り替え、どう突き止めたのかは定かではないが、角を奪った犯人を特定した。

「……ルカ…お前か!!!」

 怒りの表情を露わにした龍神。五色の衣と茶色い長髪を靡かせ、背中に龍の翼を開くと宙へ飛び上がり、神界を跡にした。目指すは勿論、

「ルカ…許さん…許さんぞ!!!!」

 ルカの居城だ。


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      ~ドムレカ城~


 まだ日も昇って間もない頃、ルカが城内に住む者全員を会議室に集めた。

「よ~し、皆集まった?」

 ルカは全員集まったことを確認すると、口早に言った。

「龍神が来る。」

 唐突すぎる。前置きぐらいは欲しいところだ。

「ルカ、大体事情はわかっちゃあいるが、もうちょい詳しく話せねぇのか?」

 アトは多少呆れながらそう言った。

「すんごく怒った龍神が喧嘩売りに来るんだよ。だから相手よろしくー。」

 ルカは特に焦るでもなくそう言うと、その場から立ち去ろうとした。

「いや待て、どこ行くんだよ?」

 ルカの腕を掴み、引き止めるアト。

「どこって、逃げるんだけど。」

「はぁ!??」

 ルカの余りに自分勝手な言動に、かなりの苛立ちを見せるアト。後方で様子を見ていたスカンやソティアらもどよめき始める。

「お前が逃げて良いわけねぇだろ!お前が撒いた種だぞ!!」

 ルカの胸ぐらを掴み、叱咤するアト。

「いやぁ~、龍神と戦いたいというのは山々なんだけど、諸事情で神と戦えないんだ。」

 ルカはどこか申しわけなさそうな顔をしてそう言った。今回ばかりは本当なのだろうか。アトはため息をこぼすとルカの胸ぐらから手を離し、皆のいる後方に振り返った。

「皆よく聞け!」

 アトの声に、皆が反応する。

「ルカ・アネシスからの依頼だ!龍神を撃退してほしいだってよ!」

 すると皆の中で一人、誰かが挙手をした。

「龍神様はよぉ、私らの上司なんだが、その辺は無視していんだよなぁ?」

 レーニャだ。酒瓶を片手にふらついている。既に酔っているようだ。

「お前らで決めろ。俺が決めていいことじゃねぇ。」

「じゃあ殺してもいいのか?」

 レーニャはアトが答えると同時にそう聞いた。何処からどう見ても顔つきが変わっている。酔いが覚めるのはここまで速いものなのだろうか。

「…さあな。でもまあ、龍神はそう簡単には死なねぇだろ。」

 アトはレーニャにそう言うと、改めて皆の方を向いた。

「兎も角、龍神が来たら俺達全員で撃退しようぜ!いいな!!」

「おーー!!」

 アトの掛け声のもと、皆が一斉に拳を掲げた。それに乗じて、特に何も理解していないサニィと雪も、拳を掲げた。


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     ~城下町の門の前~

 皆が会議室を出てから間もない頃、ソティアは早くも門番の仕事を始めていた。

(龍神ね~。律儀に門から入ってくるかしら?こうやって門前で構えてても仕方ない気がするのよ。ルカに対して怒ってるんだし、城にいきなり攻め入ってくるに決まってるわね。)

 ソティアはそんな事を考えながら、空を見上げて突っ立っていた。

「おはよう。門番の者。」

 頑固たる響き。ソティアが声のした方向を見るとそこには、五色の衣を纏った気難しい顔をした男が立っていた。根本辺りから先が無い角が額に生えている。

(間違い無い。龍神ね。)

 即座に感づいたソティア。

「おはようございます!どういったご用件でしょうか?」

 ソティアはひとまず、商人や旅人と同然に振る舞ってみた。にしても営業スマイルが素晴らしい。

「国王の一人に用があってだな。悪いが、門を潜らせてはくれないだろうか。」

 男は優しい笑顔と言葉遣いでそう告げるが、その顔の奥には激しい怒りが見える。

「ではその前にお名前とお仕事、そして役職名をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 ソティアはこの男が龍神であることに確証を得るべく、そう質問した。

「“ウェザード・サレムニー”という者だ。役職名は“龍神”、現世界の天候を管理する仕事を行っている。」

 ビンゴだ。

「“龍神”様でしたか。申し訳ありませんが、お引き取り願えないでしょうか。」

 まずは交渉に持ち込むソティア。

「それは無理だ。」

 迷い無く断った龍神。

「ですが、国王はあなた様にお会いしたくないとのことですし、やはりお引き取り願いたいのですが…。」

「ルカが会いたいかではない。私が会わねばならぬのだ。」

 龍神は先ほどより強い口調でそう言った。
その顔にも、曇りが見え始める。

「どうしても帰らない、と。」

 龍神返事を待たずして、ソティアが奇襲の回し蹴りを放つ。風のようにしなやかに、鉛のように重い一撃。龍神は最小限の動きで、それを回避した。

「ほう、力ずくで、ということか。」

 含み笑いを浮かべる龍神。

「はい。龍神を撃退しろという依頼なので。」

 回し蹴りを振り抜いた直後、すぐさま構えたソティア。ソティアの構えは“流彩の構え”と呼ばれている。体は右を向き、足を左右に開いて重心を右足に置く。低い姿勢で目は前方の相手を捉える。左手は開手のまま目線の先、相手と被らない位置に。右手は拳を作り、脇を締めて腹の横へ。体の左側を使って受け流し、右側で攻める。ソティアが幾十年間愛用している構えだ。

「いいだろう。貴様ら、ルカの味方共の誰かが、私を一度でも戦闘不能にまで追い込めば、大人しく帰ってやろう。」

 自信ありげにそう言う龍神。

「言いましたね。言っておきますが、私は中々手強いですよ!」

「そうか。それは楽しみだ。」

 日本晴れの天気の下、一時の静寂が流れる。季節が過ぎるのは早い。まだ肌寒い春分の風が、ソティアの感覚を鈍らせる。
 初めに動いたのは龍神。周囲に壁のような火炎を作り出し、両手を左右に広げるようにして飛び散らせた。後方に飛び退いて軽く回避したソティアは、着地と同時に踏み込み、龍神に鋭く蹴りかかった。龍神は後方に飛び退くと同時に、身丈ほどの大きさの火球を作り出し、ソティアに投げつけた。それをソティアは空中で体を捻らせて回避し、体制を整えるために着地しようとしたのだったが、それが罠だった。

「んな、!?」

 地割れだ。それもかなり大きい。門前の草木大地と共に、ソティアは呆気なく飲み込まれた。と思われたが、亀裂の内側の壁を蹴り上げ、飛び上がって脱出。そのまま龍神に蹴りかかろうとするも、目の前には巨大な火の壁。炎々たる炎を、ソティアは腕を廻して軽々払いのけた。

「龍神様ともあろうお方がその程度?」

 腕を廻した流れで先ほどの構えに戻るソティア。強がってはいるものの、両腕に軽い火傷を負った上、龍神の予想以上の実力に冷や汗をかいている。だが震えてはいない。この門の先、すぐ近くに居るであろうサニィと雪の二人を思うと、震えてなどいられない。

「ほう。中々強いな。人間にしては。」

 すると龍神は、大きく振りかぶってソティアに殴りかかった。その拳はソティア頬を掠め、虚空を舞った。ソティアも反応していなかった訳ではない。現に龍神の拳をギリギリでかわし、攻撃の体制に入ったのだから。
 ソティアは右足を左足に置き換え、左足を支点にすると右に半回転し、龍神の顎に後ろ蹴りを叩き込んだ。一般人なら顎が外れるどころか千切れるほどの威力だが、龍神の顎は外れてすらいない。ソティアは後ろ蹴りの勢いのままに支点を左足から右足に換え、龍神の膝に間接蹴りを叩き込み、龍神から起こる反作用を利用して支点を左足に変えて右足で足払いを放った。龍神の膝は砕けなかったが、足払いは成功。ソティアは足払いの直後、半回転しつつ立ち上がり、左足で龍神の顔面に後ろ蹴りを放つと、左足を振り下ろして龍神の胸部に食い込ませ、踏み込んだ。只でさえ足払いで地面から足が離れていた龍神はソティアの踏み込みに耐えきれず、身体を地面に打ちつけた。ここまでのソティアの六連撃にかかった秒数、僅か2秒。
 宙へ飛び上がったソティアは龍神にとどめを刺すべく、全体重を賭けて全力で振り下ろした右足で龍神の首に足刀を放った。確かな感触。倒れた龍神の首は潰れ、見るも無惨な状態だ。

(レーニャさん達の上司って聞いてたから、きっとすごい強いのかと思ってたけど…なーんだ。レーニャさん達のがよっぽど強いわね。期待して損したわ。)

 ソティアは龍神の死を確信し、アトに報告しようと踵を返した。

(!?)

 と、何かを感じ取って振り返ったソティアに、衝撃波が襲いかかった。まるで巨木で殴打されたような、津波に飲まれるような、そんな強い何かをソティアは感じた。

(うっそ!?)

 ソティアは反応が間に合わず仰向けに吹き飛ばされた。視界に入り、その直後に消えていく町の家々が、宙を舞う速さを物語っている。ソティアの横に回り込んできたのは、龍神。ソティア胸元に鉄槌を放ち、地に叩きつけた。地面が陥没し、周辺に亀裂が入る程の勢いで。

「あ、が、、、」

 すぐさま両腕で防御したソティアだったがダメージは深刻。立ち上がれない。
 龍神はそんなソティアに追い打ちをかけるように入念に焼き払うと、後方に聳える城に向かおうとした。

「!?」

 踵を返して立ち去ろうとしたその時、殺気が龍神を襲った。振り向くこともままならず、左腕が地に付いた。

「少し焦りましたが、全身火傷に胸骨と左腕骨が折れただけでした。特に火傷と胸骨は酷い有り様ですが、まだ足と腕が動くので、問題無いです。」

 問題無くは無いだろう。トカゲンの作った防火防酸仕様の武道着のおかげで服の下は火傷していないが、外傷から見てもその痛さが伝わってくるほどの怪我だ。
 龍神は切断された左腕を見て動揺していた。いや、後の結果から見るに、これは動揺していたふりだったのだろう。

「“斬鉄拳”…武術を極める中で剣術に憧れ、編み出した技です。昔は鉄が精一杯でしたが、今では竜の鱗も断ち切れます!」

 そう言うとソティアは、斬鉄拳なる技で龍神に斬りかかった。龍神の左腕から噴き出る血が、早くも止まっていることには目もくれず。

「ふむ、面白いな。」

 龍神が左手で放った鉄拳は、見事にソティアの鳩尾を捉えた。

「ごはっ!(左腕!?)、がぁっ!!」

 拳をもろに受けたソティアは、後方に吹っ飛ぶと思いきや、龍神に向かってくるくる回りながら飛びついた。これはソティアがよく使う技術、“受け流し”を活用した芸当だ。意表を突かれた龍神は反応出来ず、ソティアの手で喉もとをかっ斬られた。

「…ふん、断ち切るには至らんか。」

 龍神が首に手を当てると、噴き出る血は収まり、傷も綺麗さっぱり無くなった。

「ははは、、そんな、、」

 龍神の後方で横たわるソティア。

「お腹、、内臓が、、、ここまでの重傷は初めてだわ、、」

 ソティアの口からは多量の血が垂れ流ている。

「そんなに高い、治癒能力があるんじゃ、、勝てないかなぁ、、」

 遠い目をし始めたソティア。外観的な見た目よりもかなりダメージが大きいようだ。呼吸も上手く出来ていない。

「私の拳を二発受けて意識がある者など中々おらんぞ。誇らしく思え。…それに、貴様の四肢から繰り出される技には、少し肝を冷やした。天晴れだ。門番の者。」

 龍神が振り返ると、そこにソティアの姿は無かった。

「…まあよい。先を急ぐ。」

 その場を後にする龍神。その姿を、物陰から見ている者が居た。

「あいつが龍神、、」

 レオナだ。傍らにはぐったりとしたソティアがいる。

「ソティアさん、死なせはしませんよ!」

 レオナはソティアを背負うと、城へ向かって走った。

    ~ドムレカ城 王室~

 王室にはルカを除いた国王四人が集まっていた。

「戦況はどうだ?ザニ。」

 龍神撃退作戦、全体指揮を担うのはアト。

「ソティアがやられた。龍神からの過度なダメージで倒れたってよりは、息が出来なかっただけだと思うけど。」

 ザニはお得意の千里眼を使って戦況を観察する役目のようだ。

「今レオナが運んできてくれてるから、多分死にはしないかな。」

「そりゃ安心した。トカゲン、治療頼むぜ。」

「うん。任せといて。」

 トカゲンはレオナと組んで医療班に就いているらしい。既に万全の体制を整えて持ち場に着いている。トカゲンの技術と魔法を組み合わせた治療は、殆どの怪我を綺麗に治すことが出来る。切り落とされた腕も、破裂した内臓も、元通りに出来るのだ。

「レオナの足の速さなら、もうすぐ来るんじゃないかな?」

 と、トカゲンが言った瞬間、王座の扉が勢い良く開いた。

「師匠!只今戻りました!」

 レオナだ。

「お疲れ様。ソティアを此処に。」

 トカゲンは目の前に用意した台を指した。

「はい。」

 レオナは気を失っているソティアを、慎重に台の上に置いた。

「主な負傷箇所は胸部、腹部、左腕の三カ所、全身の火傷、特に胸部は深刻です。」

「ありがとうレオナ。参考にするよ。」

 トカゲンが目に留まらぬ速さで治療を始めたのを確認したレオナは、アトの下へ歩み寄った。

「アトさん。」

「なんだ?レオナ。」

 アトは背を向けたまま首だけ振り向いて返事をした。

「なぜ私は龍神に手を出してはいけないのですか?」

 不満げな顔でそう聞くレオナ。

「私の剣のスピードなら、奇襲での撃退も可能でしたよ。」

「レオナの龍神に対するその判断は、ソティアと戦っていた様子を見てのことか?」

「…はい。」

 レオナは訝しげな顔をして頷いた。

「残念だが、あいつはまだ実力のほんの少ししか出してねぇぜ。」

 それを聞いたレオナは驚愕していた。

「と、言いますと、、ソティアさんは足下にも及んでいなかったと言うことですか…?」

「ああ、そうだな。」

 冷静に応えるアト。

「まずい!!!」

 千里眼で龍神の動向を探っていたザニが、突然叫んだ。

「何があった!?」

 慌てて状況を聞くアト。

「り、龍神が…サニィたちと接触した!」

   ~ドムレカ城下町 大通り~

「やあ、氷華 雪、だったかな?」

 サニィと雪はいつものように外を歩いていた。目的地があるわけでもなく、ただぶらぶらと。丁度大通りに出たところで、龍神と出会った。

「あ、あなたは、、」

 望まぬ出会いに絶句している雪。雪は前に数度、龍神と会ったことがあり、怒るとかなり好戦的になることも知っていた。だからこそ絶句しているのだ。

「右の子は知らぬな。名を申せ。」

 サニィを見てそう言う龍神。

「わ、わたしですか、?」

 周りを見渡した後、自分を指してそう聞くサニィ。

「ああ。貴様だ。」

「わ、わたしはサニィ・ローズラーです!」

 サニィは龍神の気迫に怯えつつも、胸を張って応えた。

「サニィ・ローズラーか…覚えたぞ。」

 龍神は全く笑わない。それほど頭に血が上っているのだろうか。その気迫に、サニィはもうすぐ泣きそうだ。

「ところで氷華。貴様も、私に戦いを臨むのか?」

「い、いやいや、そんなまさか!とんでもない、、!」

 必死に笑顔を作りながらながらそう応える雪。

「そうか…ならば用はない。氷結神の名を引き継ぐ時を、楽しみにしておくぞ。」

 そう言って立ち去ろうとした刹那、龍神は燃え盛る火球をサニィへ放った。

「何故だろうな。貴様は此処で消しておかねばならん気がする。」

 目の前に迫る火球。只呆然と立ち尽くすサニィを、雪は目一杯押し倒した。直後、後方で火柱が燃え盛った。

「なにやってんのサニィ!?せめて逃げなさいよ!?」

 必死の形相でそう言っている雪の身体は、少し小さくなっている。

「あ、ご、ごめん、ゆき、、」

 はっとしたサニィは、遂に泣き始めた。

「いいから、そこの物陰に隠れてて!」

 雪はぐずぐず泣いているサニィを、すぐそばの木箱の裏に押し込んだ。

「氷華…貴様のその行為は、私への反抗と取って問題ないな?」

 龍神の眉間に、鋭い皺が寄った。

「え、、えぇえぇそうですよそうですよ?わ、私もそろそろ全力をぶつける相手が欲しかったところなんですよ、あはははは、、」

 龍神を煽る雪。だが、怖じ気づいて全身がガクガク震えている。

「そうか。ならば、死なない程度に殺してやろう。」

 その瞬間、龍神の指先から放たれた電撃が、雪を襲った。

「あっぶな!?」

 ギリギリで身をのけぞった雪。そのすぐ上を、電撃が通り過ぎた。

「流石に吹雪の娘だ。電撃を読みでかわすとは。」

「ははは、喰らったら死にそうだったから避けたまでですよ、、」

 雪は苦笑するしかなかった。

「ならば、威力を落としてやろう。」

 龍神は先ほどよりも沢山の電撃を雪の周りに蜘蛛の巣のように張り巡らせ、その中心に巨大な電撃を走らせた。その電撃は、固く鋭い巨大な何かに当たり、霧散した。
 電撃の巣の中から飛び出す半透明の水色、氷塊だ。その天辺が勢い良く割れ、中から飛び出した雪は、無数の氷柱のようなものを龍神に投げつけた。よく見るとナイフのような形状だ。当然、軽く回避する龍神。だがその足元には、

「!?」

 いつの間にか展開された魔法陣。龍神はそれに気づかず、上に乗ってしまった。

氷塊魔法アイスビター!」

 宙に浮いた雪が魔法陣に、落下しつつ右手を翳したその瞬間、龍神を固い氷塊が包み込んだ。

「いって!」

 雪は着地に失敗した。

「は~、焦った~、死ぬかと思った~、」

 雪が安堵のため息を零した次の瞬間、氷塊が弾け飛び、その中から更に大きな氷塊が雪目掛けて飛んできた。
 雪はその氷塊に気づくこともなく、まともに受けると、後方の巨大な氷塊を突き破り、サニィのいる木箱の横に倒れた。

「ゆき!?」

 突然飛んできた雪に驚くサニィ。

「さ、サニィ、あいつ、、やばいわ、、」

 口から溢れ出た血を手の甲で拭いながら、なんとか立ち上がった雪。
 龍神はそんな雪に、慈悲もなくもう一度氷塊を投げつけた。先ほどよりも勢い良く。

「この能力スキル…サニィにはあんまり見せたくなかったんだけどな…」

 そう呟いた雪に襲いかかる氷塊。四方に飛び散る……氷塊。噴煙を散らしながら、砕け散った。

「ゆき!?」

 サニィの目には、雪が氷塊に潰されたようにしか見えなかった。が、噴煙が晴れるとそこには雪が立っており、その左手には盾を構えていた。…いや違う、雪の左手から盾が生えていた。

「ゆ、ゆき、!?そのて…だいじょーぶ、なの!?」

 雪の左手から生えた盾は、うねりを伴いながら変形し、元の左手に戻った。
 サニィは魔法の如き異様な光景に、困惑しつつも目を輝かせていた。

「オリジナルスキル《左腕変異レフトミューテーション》。左腕を自在に変形、膨張、縮小、硬質化、流動化させることが出来る能力。お母さんのスキルとお父さんのスキルが変な風に入り混じって出来たスキルなんだって。だからいろいろ中途半端な能力なんだろうね。」

 そう言って雪は左腕をうねらせた。何ともいえない動きだ。二本の鞭のように変形したと思えば、三俣の槍に変形したりもする。

「どお?サニィ。気持ち悪いかな?」

 雪は苦笑いしながらサニィにそう聞いた。

「ううん、ぜんぜん!つよそうだしかっこいいよ、それ!!」

 サニィは目を輝かせてそう言った。

「そりゃあ良かった。」

 雪はサニィに微笑むと、うねらせていた左腕をしゅるりと元に戻した。

「ほほう。そのような能力を保有しているとは、想定外だな。」

 龍神は一応感心はしているようだ。

能力スキルフル活用で臨みますよ!」

「それは楽しみだ。」

 意気込む雪に含み笑いを浮かべた龍神。雪は一時の間も開けず、攻撃に移った。
 雪は空高く跳躍すると、無数の触手のように変形させた左腕の先端を硬質化させ、龍神に向けて大きく振りかざした。龍神は繊細な動きでそれを回避し、雪の枝分かれした左腕は、石畳を砕き、土煙を上げながら地面に突き刺ささった。
 着地した雪はまたも硬質化させた左腕の触手を龍神に向けて振りかざした。が、龍神はまたも容易くそれを回避した。それでも懲りずに同じ攻撃を繰り返す雪。

「攻撃方法が単調だ。そのようでは到底私には当たらんぞ。それとも、貴様はそのような攻撃しか出来んのか?」

 雪の攻撃を回避しながら雪を煽る龍神。

「そんなわけ無いですよ!!」

 雪は左腕の触手攻撃に加えて、右手での氷塊を使ったナイフ攻撃を追加した。

「それはもう見た。」

 直線的に放たれる無数の氷製のナイフを手で弾き、その一つをパシッと掴んだ。勿論、触手を避けながら。

「どうせ投げるならこれほど速くだ。」

 龍神はそう言うと、手に掴んだ氷製のナイフを雪目掛けて投げた。手首のみを使用して。
 その氷製のナイフは、雪が気づいた頃には雪の腹に刺さってめり込んでいた。

「え?」

 動揺し、自分の腹に刺さった氷製のナイフを見つめて固まった雪は、左腕の触手の動きを止め、じわじわと元の左腕の形に戻した。

(今…龍神はナイフを投げたの…?全く目に見えなかった…ちゃんと見ていた筈なのに…まるで見えてなかった…?)

「今のが視認出来ないのであれば、以後私の攻撃にも反応は出来んぞ。」

 その言葉を聞いた雪は、はっとして顔を上げた。が、そこに龍神の姿は無かった。
 次の瞬間、雪は宙を舞っていた。

「!??」

 二、三軒離れた住居の屋根に体を打ち付けた雪。何が起こったのか解らず、ひとまず立ち上がろうとしたところで気がついた。足が動かない。

「っ!!!」

 直後、腰に走った激痛に悶絶する雪。そして目の前の屋根に移る影が、戦闘がまだ終わっていないことを非情にも告げていた。
 何者かに、おそらくは龍神に背を攻撃された雪は、屋根を突き破り、住居一階の床に穴が空くほどの強さで叩きつけられた。

「ふむ…中々タフだな。まだ事切れんか。」

 龍神は屋根に空いた穴から雪の側まで降りてきていた。後ろには突然の出来事に驚いて腰を抜かした住人がいた。

「ん?この家の者か?」

 住人は声も出さずに何度も頷いた。

「邪魔をしたな。すぐに出る。」

 そう言うと龍神は、倒れ込んで悶えている雪の首根っこを掴み、閉まっているドアに向けて投げた。突然の如くドアは外れ、雪は住居の外に投げ出された。

「そろそろ楽にしてやろう。なに、死んでも私が閻魔に了承を得て連れ戻す。だから安心しろ。」

 その言葉を聞いた雪は、弱々しい声で龍神に聞いた。

「私を片付けたとして、、その後サニィは、、どうするの、、」

「殺す。」

 即答だった。

「そう、、なら、あんたが死ね、、!」

 雪は倒れたまま、左腕を触手に変えて龍神に振りかざした。その触手を腕で弾く龍神。

「威力が弱い。この程度ならリスクも無いな。」

 触手を元の左腕に戻す雪。近づく龍神。

「お前は逸材だ。だからこそ服従させる。さあ、覚悟しろ。」

 その瞬間、龍神の頬に拳がめり込んだ。龍神はその拳に10mは押し飛ばされるも、何とか着地し、拳の正体をその目に捉えた。

「よお龍神様~探したぜ~。城の裏から攻めてくると思って待ってりゃ来ねぇじゃねぇか。いや~サニィが呼んできてくれて助かった。」

 レーニャだ。指をバキバキ鳴らして顎を突き出している。そして後ろには、ガクガク震えて涙目のサニィがボロボロになった雪を見つめていた。

「日頃の恨み晴らしてやんよ。」


                つづく

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