フェイトトリップ ~才能の統べる世界~
第9話 初雪
みなさんこんにちは、サニィです。
きょうはことしはじめてゆきがふりました!ドムレカにきてはじめてでもあります!
そういえばゆきのひにゆきとあそぶ、ってへんなかんじがしますね!
2018年  2月20日  火曜日  朝
朝、サニィは寒くて目が覚めた。
「ん~、、さむい、、」
ゴシゴシと目を擦り、ふと雪を見た。涎を垂らして気持ちよさそうに寝ている。そう、この日サニィは、初めて雪より早く起きたのだ。そして、早く起きた方は寝てる方を起こさなければならない。
「ゆき~、、おきて~、、」
揺さぶるが、起きない。そういえば雪はサニィを起こす時、どのくらいの間揺さぶっているのだろうか。
サニィは雪を揺さぶりながら、部屋に等間隔に並ぶ窓の中で、ベッドの上にある窓から外を眺めた。ふわりふわりと降り注ぎ、窓枠から見切れる幾多の雪が、サニィの目に留まった。
「…ゆきだ!」
サニィは急いで雪を起こした。
「ゆき!ゆきだよ!ゆき!」
この文章を見ると、イントネーションがいかに大事かがわかる。「ゆき」が氷華 雪のことを指しているのか、はたまた降り注ぐ雪のことを指しているのか、どちらか全くわからない。
そんなことはさておき、雪(氷華の方)が起きた。
「んあ、、?サニィ、、?、、サニィ!?」
死人が蘇った時のような驚き方で飛び起きた雪。サニィが城に来てもうすぐ1ヶ月。初めてサニィが早く起きたことにそこまで驚くとは。
「ゆきおはよー!」
「あ、うん。おはよう。サニィ今日起きるの早いね。」
「ふふ~ん、でしょー?」
サニィにしては珍しく、両手を腰に当て、胸を張って威張っている。ザニとは違って微笑ましい。
「それとねゆき!ゆきがふってるよ!」
「え?」
雪は窓から外を見た。ふわりふわりと降り注ぐ雪が、雪の目にも留まった。
「おお~!本当だ~!!」
雪は窓に張り付きながらそう言った。
「今年初めてだよね?」
「あ、ほんとだね!」
今年は極端に雪の日が少なく、今日が初雪となった。
「朝ご飯食べたら遊ぼっか!」
そう言ってベッドに座る雪。
「あー、それわたしがいおうとしたー!」
「ああ、ごめんごめん、!」
笑いながら怒るサニィに、雪は手を合わせて軽く謝った。
洗面所で顔を洗い、食堂に急いだ。
今日の朝食は5種類のパンと温かいコーンポタージュだった。
「あったか~い、、」
「あつぁ!…あっつぁ!!」
サニィは温かい、雪は熱すぎると感じるコーンポタージュ。種族の違いでかなりの差が出てくる世界だ。コーンポタージュ一つ取っても変わってくる。
「おはよー、お二人さん。」
ザニがサニィと雪の間から話しかけてきた。少しニヤニヤしてるのが気持ち悪い。
「おはよーございます!」
サニィはザニのにやけ顔が気持ち悪いとは思っていないようだ。元気良く返事をした。
「おはよ。」
反抗期なのだろうか、素っ気ない態度の雪。その態度の理由がザニの一言でなんとなくわかった気がする。
「今日は雪が振ってるねー。雪が。ねー。」
わざわざ「雪」を強調してくる辺り、雪からすれば嫌みにしか聞こえない。
雪は立ち上がると同時にザニにラリアットを放った。容易く回避するザニ。そのザニを雪は睨みつけた。
「うっさい!この名前付けたのお父さんでしょ!」
雪という名はザニが付けたようだ。
「いやまぁ、将来は吹雪のような立派な大人になってほしいというね。そういうね。うん。」
腕を組んで目を瞑り、何度も頷きながら名前に込めた願いを語るザニ。
「なら吹雪でいいじゃん!吹雪で!」
雪は赤面して怒っている。
「いや、吹雪は雪のお母さんじゃん?お母さんと同姓同名で見た目も同じってもうドッペルg」
「ザニ・ハント。」
名前を吹雪にすれば良かった、という雪の意見に笑顔で反論していたザニの肩に、後ろからポン、と手が置かれた。自然とザニの顔が強張る。
「少し同行願えますか?」
言うまでもなかろう。閻魔様、怒り心頭だ。
「…やだ。」
涙目でそっぽを向くザニ。そのザニを引きずってツカツカと扉へ向かう理子。
「いや、待って理子、僕拒否ったよ!?ねぇ!?拒否ったよ!?謝ればいいの!?ねぇ!ちょ、ゆ、雪!来年こそいじらないから!ごめーん!!」
理子によって食堂から引きずり出される直前、申し訳程度に謝ったザニ。雪はため息をついて椅子に座った。
「ゆ、ゆきだいじょーぶ?」
「まったく、、雪の日はいつもあれなんだから、イライラする、、」
髪をわしゃわしゃしながらそう言い、パンを咥える雪。
「わたしゆきのなまえすきだよ?かわいいから!」
笑顔でそう言うサニィ。雪は咥えていたパンを噛み千切って飲み込んだ。
「私もサニィみたいな名前が良かったなぁ。晴れっていいじゃん?いじりにくいし。」
「ゆきがいいよー。」
「サニィがいいよー。」
いつの間にか雪も笑っていたことに、サニィは安心した。
朝食後、二人は城の外に飛び出した。
「うわぁ~//きれ~//」
地面、屋根、空。辺り一面に広がる銀世界。もう既に遊んでいる子供たちの姿も見える。今、町の中は子供たちの楽園だ。
「お、もう雪だるまあるね~、早いなー。」
城の扉の横に「へいいちろう」と描かれた雪だるまが置いてあった。サニィはその場に駆け寄り、じーっと見ていた。
「その雪だるまはですね、先ほどこちらに来ていた男の子が作ったんですよ。」
門番の兵士がそう言う。確かに、乱雑で粗悪な雪だるまを見れば、男の子が作ったものだとよくわかる。しかし何か引っかかるものがあるのか、雪は訝しげな表情を浮かべた。
「なんでここで作ったのかな?」
門番の兵士は微笑みながら、男の子が言っていた事を教えてくれた。
「家の周りの雪は足跡とかで汚いから、なんて言ってましたが、本当でしょうかね?」
「へ~、どうなんだろ?」
すると、先ほどから雪だるまをじーっと見ていたサニィが、雪の腕を軽く引っ張ってきた。
「ねーねーゆきー!わたしたちもゆきだるまつくろー!」
「うん、いいよ!(かわえぇわぁ~、)」
二人はとりあえず、城の扉から数メートル離れた所で、別々の物を作ることにした。
「おっきいほうがかちねー!」
「この雪様に勝負を挑むとは、中々良い度胸だ!」
勝った方に何か商品があるわけでもないが、優越感ぐらいは手に入るだろう。
「ぜったいまけないよー!だってせかいいちおっきいのつくるんだもん!」
「な!?それは手強い…!」
最初は手で丸め、次に転がし、だんだんと雪玉を大きくしていった。
「う~、、おも~い、、」
丸めた雪玉を圧縮して小さくしている雪の横で、サニィは自分の背丈ほどの雪玉を押し転がそうとしていた。
「サニィ手伝おっか?」
「ゆきは、、てきだから、、だいじょーぶ、うう~、、」
雪玉に全体重を乗っけて押し転がそうとしているサニィ。雪玉はぴくりともしない。
(かわえぇわぁ、、)
サニィの必死な姿を、雪は作業の手を止めて見ていた。
サニィは疲れたのか、諦めて別の雪玉を作り始めた。頭の部分だろう。それを確認した雪は、急いでサニィより少し小さいぐらいの雪玉を作った。
「あたまがちいさいんだっけ?」
「うん、そだね。」
二人とも、先ほどこちら作った胴体より少し小さい頭を作り終えた。あとは頭を胴体の上に乗っけるだけだ。
「う~、、あ~、、、おもい~、、」
雪玉を両手でがしっと掴み、立ち上がる要領で持ち上げようとするサニィ。雪玉は、恐らく一ミリも浮いていない。
「サニィ、手伝おうか?」
「ゆきてきだもん、、んあ~、、」
サニィは頭、胴体、それぞれがサニィの背丈ほどの雪玉だ。サニィ一人で持ち上げるのは無理だろう。すると、門番の兵士がサニィに近づき、声をかけた。
「私が持ち上げましょうか?私は敵でもありませんし、」
「あ、おねがいします!」
息を切らしたサニィを横目に、兵士はひょいっと雪玉を持ち上げ、もう片方の雪玉の上に乗っけた。
「これでよろしいでしょうか?」
「はい!ありがとーございます!」
サニィは嬉しそうにお辞儀をした。
「あ、踏み台でも持ってきましょうか?」
「? なんで?」
小首を傾げるサニィ。
「石をならべて顔を作ったりしますでしょ?サニィさんの手が届くか怪しいですし、顔まで私が手伝うわけにもいかないので、」
「それなら、よろしくおねがいします!」
サニィはまたもや嬉しそうにお辞儀をした。
「はい。すぐに持ってきますね。」
兵士は城の中へ入っていった。
「さ~てと、後は木の枝っと、、」
雪は顔まで完成したようだ。雪だるまの手になりそうな木の枝を探している。
それから数分ほどで、先ほどの兵士が木製の踏み台を抱えて帰ってきた。
「踏み台、持ってきましたよ。」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうに踏み台を受け取ったサニィ。が、しかし、サニィには重すぎた。
「ん~、、おも~い、、」
必死に引っ張るサニィ。
「…私が運びますね。」
それを見かねた兵士が、踏み台を雪だるまの手間まで持って行った。
「ここで、よろしいですか?」
「はい!ありがとーございます!」
サニィはまたしても嬉しそうにお辞儀をした。
「いえ、こちらこそご丁寧に。ではこれにて。」
兵士は一度敬礼をした後、持ち場である城の扉の前に戻った。
「えっと、いしころいしころ、、、」
石や木の枝は大抵、雪の下に埋まっている。石はそこら中にあったが、木の枝が中々見つからない。
「あれ~、ないな~、、ゆきー、きのえだあったー?」
「その言葉を待っていた!」
雪の手には四本の木の枝。
「サニィ、この二本あげる!」
「ほんと!?」
サニィは雪の下に駆け寄り、木の枝を受け取った。
「ありがとーゆき!」
「礼には及ばぬ!」
二人はそれぞれ自分の雪だるまに、手となる木の枝を刺し、雪だるまを完成させた。
そして、いよいよ大きさを競うことになった。
「ゆきからみせて!」
笑顔でそう言うサニィ。
「お、いいよー。私ねー。」
雪は自分の背丈ほどの雪だるまを抱えてきた。
「こちらです!」
「お~!おっきー!」
雪の雪だるまは物凄く綺麗な球体の雪玉が重ねられ、石をはめて作った顔も、どうやったらそこまで綺麗にはまるのか、というほどの出来だった。
「サニィのも見せて?」
「うん、いいよ!、わたしのほうがおっきいもん!」
胸を張って威張るサニィ。そこまで自信があるのだろうか。というか、先ほどからサニィの雪だるまは雪の目に映りまくりで、雪はもう全体像を知ってしまっている。
そんなことサニィが気づくはずもないので、雪は一度も見ていないふりをすることを決め込んだ。
「じゃじゃーん!これだよー!」
雪だるまのほうに大きく手を向けたサニィ。その手の先には、雪の雪だるまより少し大きい雪だるまがあった。
「おお~!!大きいねー!それ!サニィの勝ちじゃない!?」
雪のリアクションはまるで、サニィの雪だるまを始めて見たかのようなものだった。
「でしょー?頑張ったもん!」
雪のわざと負けてあげるという気遣いなどにはまったく気づかず、サニィは勝利の快感と優越感に浸り、満面の笑みを浮かべていた。
「ゆき!このゆきだるまあそこにおこ!」
サニィが指差したのは、「へいいちろう」と描かれた雪だるまの場所、城の扉の横だった。
「いいねぇ、私が運ぶよ。」
雪は二つの雪だるまを一つは右手、もう一つは左手の上に乗せ、異様はバランス感覚で城の扉の横まで持って行った。
「よし、、ここでいい?」
「なまえ!」
「へ?」
「なまえかこ!」
サニィが言っているのは、雪だるまに名前を描くこと。「へいいちろう」と描かれた雪だるまに影響されたのだろう。」
「ああ~、うん、描こっか!」
二人はそれぞれの雪だるまに「サニィ」、「ゆき」の名前を刻んだ。雪の雪だるまは異様に固かったので、雪は大変そうだった。
「よ~し描けた。次は何やる?」
お腹は空いてはいるものの、一応聞いてみる雪。
「ん~、、ごはんたべたい!」
「ですよね!」
二人は一度、食堂へ向かった。
「きょうはなにがあるかなー?」
お盆を両手に料理を見て回るサニィ。
「なんだろね?」
サニィの後ろについて行く雪。
セルフサービスで選ぶ昼食は、何があるかわからない。
今日は得体の知れないスープ(?)があった。
「さ、サニィこれって何?」
「わ、わかんない、、」
二人が覗き込んだ鍋の中には、緑色のスープがあった。側にあったお玉杓子でゆっくり掬うとどろっどろで、スープの水面を叩いてみると、固い。原材料が何なのか、全くわからない。
「これは…パス。」
「わたしも、、」
二人とも、苦い顔で食さないことを宣言した。
結果的に二人は季節はずれの素麺を三和、分け合って食べた。サニィは一和も食べてない気がするが、腹八分目というやつだろう。
食後に早速外で遊ぼうとした二人だったが、謎の睡魔がサニィを襲った。
「サニィー?大丈夫ー?」
「ん~、、」
廊下を歩いている最中だったが、サニィの足下が覚束ない。瞼も、無理矢理こじ開けようとしているような状態だ。
「お昼寝でもする?」
「、、あそ、、ぶ、、」
そう言った瞬間、サニィは前方に倒れ込んだ。
「うわっとと、危な!」
流石は雪。突然寝落ちしたサニィの体をすかさず支える。
「サニィ?大丈夫、って、寝た…のかな?」
サニィの瞼は完全に閉じ、スースーという寝息を立てて寝始めた。
(雪合戦でもしようと思ってたけど、、雪だるま作りで疲れちゃったかな?五才児ってのは体力が有り余ってるものだと勘違いしてたかも、、。これは夕方まで寝てそうだな。)
雪の腕を支えにスヤスヤ眠るサニィ。雪は起こさないようゆっくりとサニィを抱え、ベッドの下まで運んでいった。因みに運び方はおんぶである。
部屋の扉を開け、中に入ろうとすると、ザニの姿が目に入った。まだ理子に咎められているのだろうか。だが、ザニと理子の両者が共に向かい合う形で直立している様子を見るに、説教を受けてはいないようだ。雪はサニィを抱えたまま、扉の隙間から微かに聞こえる話し声に耳を澄ました。
『~~~の~~~~~~~~た~~~~~~、~ら~~~~~み~し~が、~ちがいなさ~~で~ね。』
『うん。だと~~~~ず~~~~~~~るよ。』
『あのま~~~きゅ~~~~~~~、~~し~て~~~~~で~。』
『うん、ぼくも~~~~~~よ。し~~~~~か~~~~~カ~~~、~お~を~~~~~~~~~~んて。』
『~~~、~~・~~~~~~~と~~~~へり~~~す~る~~く~~~~~~~うし~~る~~~~、~み~~~す~~~~の~~~ず。』
『ああそ~だ。~~~~~たーじ~~~~み~~~~ない。~~~~~う~~~~~かって…』
『!!だ~~~~~~~~~~ると…!!』
『か~~~ろ~~~~~~な~~だ。』
『そして…』
『うん。…~~~~…~~~~~~~~…』
「、誰かいますね。」
最後にはっきりと聞こえた理子の言葉。近づく足音に雪の背筋は凍りつき、今すぐどこかに身を潜めようと辺りを見渡す間も無く、部屋への扉が完全に開かれた。
「ああ、氷華 雪。どうかしましたか?」
理子だ。警戒した様子でこちらを見つめている。雪は鋭い双眸に怯むことなく、この場面であえてポーカーフェイスを装った事は、高く評価されて良いと思う。
「サニィが寝ちゃったので、ベッドに寝かせに来ました。」
「そうでしたか。邪魔をしましたね。」
雪のあまりに自然すぎる言い草に、理子は疑う素振りすら見せずに軽く微笑み、部屋の中へ通してくれた。
部屋の中に入る際も、雪はポーカーフェイスを装っていたのだが、心の中は乱れまくっていた。
(あっっぶねぇぇぇ!!え、ばれてないよね!?ばれてないよね!?なんか聞いちゃいけなそうな話を盗み聞きしてたのばれてないよね!?殆ど何て言ってんのかわかんなかったけども!、え、結局何話してたの!?一単語もわかんなかったんだけど?あ、いや、何個かわかったけどえ、何なの!?え、何なの!?いや、え?ん?…まあ、いっか。忘れよ。)
雪はベッドの前に着くと、おんぶしていたサニィをベッドの上に下ろし、毛布をかけた。サニィは全く起きていない。それを確認した雪は、小さくガッツポーズをした。そして、自分も寝ることにした。ザニと理子の会話の内容を、更にわからなくするために。それと、時間を潰すために。
次にサニィが起きたのは6時ごろだった。始めこそ目を擦ってウトウトしていたものの、日付と夕日を見るなり、雪に何故起こさなかったのかと文句を付けてきた。
ザニと理子の会話を盗み聞きした時、もしサニィが起きていたらどうなっていたのだろう。それに、もし話の内容を聞き取っていたらどうなっていたのだろう。サニィが寝ていて、雪が話の内容を聞き取れなかったのは、神からの、運命という救済なのだろうか。
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