世界の破壊を阻止せよ[運命を握るのは幼女?!]

千桜

ワルツ3

「エンゲル・ローゼ嬢。」
 呼び掛けるとヴァィオリンを弾く姿勢のまま、ゆっくりと半身を左側に向けた。
 
 彼女はパッと笑顔になり、駆け寄ってきた。
 憂いを含んだ音色の主とは思えない程 子どもらしく、無邪気に。
 その間、ヴァィオリンが雑に揺れないように抱き抱えるあたり、名のある城に住まえる
のも納得の気品だと思う。
 
 その細やかな所作全てが見るものを惹き付ける、畏敬の念さえも抱ける空気が彼女を包み込んでいる。

 威圧感は無く、むしろ観衆全てが自然とYESと言い付いて行きたくなる、女神のように穏やかで人々を導く天性の魔力がある。

 常に纏う空気が柔らかく、決して下品に威張り散らさないー良い意味で王室らしさが無いのだ。
 エンゲル・ローゼ嬢のみならず、シュトルツ城全体が。

 本当にこの方にだけは頭をあげることが出来ないだろう。まあ、そのつもりは毛頭無いが。

 「新しい曲を作ったのよ。聴いて下さる?」

 言うが早く、演奏を始められた。スッと瞳を伏せた一瞬に全ての思考を奪われた。

 腰を掛けて演奏された方が良いですよ。とか、寒くないですか。とか、そんな気遣いの言葉が頭から吹き飛ぶ程に。

 誰がご覧になったとしても同じような衝動に駆られるのだろうか?
 動く度、細い金糸をサラサラさせ、時折合う彼女の視線をずっと見ていたい。この満たされた空間に彼女と浸っていたい。

 邪念を振り払うのを忘れ、呆けていたら、出発の時間が差し迫っていることに気付いた。
 
 「見事な演奏をお聴きさせて頂けて光栄でございます。」

 月並みな言葉しか言えないのが歯痒いが、照れつつも満足げな表情にこちらも照れてしまった。

 勿論、表には出さないが。
 (頬が紅くなったりしていないよな?)
 ドクドクと打つ脈を感じながら、鏡で確認出来ない分、騎士としての姿に自信が無くなった。

 それ程に心を乱される相手なのだと、まだ彼には自覚が無いのだが。

 エンゲル・ローゼ嬢にお部屋へと気を付けて戻るよう促し、強靭な群れが列を為す大広間へと駆け出した。 
 

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