死は刹那なり

Leiren Storathijs

死を呼ぶ卵

「いやぁ、今日も良い天気だな!」
「父ちゃん!今日も手伝うぜ!」
「ははは……いつも助かるな」



この街は、農業と交易が盛んな街。取れる野菜はどれも新鮮で、植物もなかなか枯れる事が無い。



街の管理者も温厚な性格で、度々くる王国関連者や貴族とはトラブルが起きた事は一度もない。



「いやはや、此処で手に入る者はどれも最高の物のみ!いつも感謝しているよ」
「いえいえ、こちらこそ毎度ありがとうございます」



その街には、一本の大きな木があり、その木は、大地の恵みを受けているのか、一年中絶対に一枚の葉さえも枯れる事が無いと言う。



「いつ見てもこの木は立派だねぇ……」
「ハッハッハ……いつまでも元気に生きる木を見て、生涯を過ごせるとは、これ以上に幸せな事は無い……」



そんなある日、とある家の子供が一つの物を家に持ち帰ってきた。絶対に枯れる事が無いと言われ続けていた木の一枚の枯葉だ。



「おいお前、どこでこれを?」
「あのでっかい木の下に落ちてたー」



その時は、遂に木に寿命が来たのだと思っていた。



それから一週間後、子供は毎日の様に、枯葉を家に持ち帰って来た。



その子供の父は何かが変だと思い、街の管理者にそれを伝えた。しかし管理者はこう言う。



「木にだって何千年も経てば寿命がやってくる。大地の恵みが全ての葉に行き渡らず、稀に枯れた葉が落ちてくる事はある」



だがやはり、父の嫌な予感は刻一刻と深刻な方へと進んでいた。


ある日、巨木広場に人集りが出来る。



そうあの木が、一つ前の日ならまだその景観を崩さず生きていたのが、その日になると完全に枯れ、葉一枚さえも残っていなかった。



「一体どう言う事なんじゃ……昨日まではあんなに元気にしていたでは無いか……!」
「不吉だ……これから何が起こると言うんだ……」



この巨木が枯れた話は瞬く間に世界に広がり、とある一つの王国では、研究者達が、議論で騒ぐ。



「まさか、大地の恵みが停止したのか?」
「いや、それはあり得ん。もし大地の恵みが終わったらここの木や花も枯れている筈だ」
「ならあのを木を中心に大地の恵みが弱まっていると考えたら……」
「そんな馬鹿な話があるか!そもそも何が原因と言うのだ!」
「駄目だ……様子を見るしか無いのか……」



研究者たちは、一週間の様子見を決めた。しかし、その一週間で枯れた巨木の村は崩壊する。



それにいち早く気付いた王国政府は、村の人々を避難させ、今や魔物の棲家となったその巨木と周辺は不毛の地となっている。



『世界よ滅べ。世の死は間近なり』



不毛の地となった村は、その日一日で全てが腐り果て、急速に腐敗が進む。



『卵が孵化する時、全ては終わりを迎える』



腐敗が急速に進む中、その世界の中心に一つの卵が音もなく産み落とされる。卵は赤黒い石柱で、禍々しいオーラを放つ事無く、ただそこに佇む。



その卵に最も最初に気付いたのは、王国で必死に研究していた研究者だった。地響きも無く落ちてきた卵と言えど、その巨大さ故、研究室の窓から見える得体の知れない物を見た研究者達は、すぐに調査を始める。



「次は何だこれは……」
「これが今回の巨木が枯れた原因だと言うのか……?」



卵は硬い岩に似た外殻に包まれており、手触りは、滑らかさは無く角ばっている。見た目だけだと鉱石にも見えるので、軽くハンマーで叩くが一切削れる事は無い。



熱を通したり、電気を浴びせたり、水を掛けても特に変化は無い。色々な方法で調査をするが一向に進まず、研究者達は頭を悩ませる。



「分からない……一切の衝撃も性質も反応も無くては、一体何なのだこれは……」
「しかしこれは、巨木が枯れた瞬間に現れた物だ。これが今回の原因と考えるしか無いだろう」



そう悩んでいると、そこに政府の者達が四輪で高さ十メートル、幅15メートル程の大砲を乗せた兵器を持ってやって来る。



「これより我々は原因と思われる正体不明物体の破壊を実行する。危険なので直ちに研究者と今回の作成無関係者は此処を離れよ」



正体不明だからこそ破壊より調査を先と考える研究者は政府に反発する。



「な、何を言っているんだ!危険なのは君達だ!まだ何も分かっていない物を破壊しようとは、それで爆発でも起きたらどうするのだ!」



しかしそんな反発も分かっていたかの様に政府は無視し、破壊作戦を進める。



「粒子砲発射準備が整いました!」
「よし……。我々の警告を無視するならば、貴様らも破壊作戦の一部にしてやろう。人の命と研究、どちらが大事なのだ?」
「わ、分かった今すぐ此処を離れる!」



研究者が政府の言う通りにその場を離れると政府はおもむろに破壊作戦を開始する。



「粒子砲、発射せよ!」



政府が粒子砲の発射を命令すると、兵器は機械音を鳴らしながら、青白い光が砲口に集まり、光が小さな球体になった所で、激しい閃光と共に巨大なビームが発射される。



ビームは光を反射、爆発しながら卵の外殻に激突する。しかし、粒子砲の発射が終え、場が落ち着くと、その瞬間を見ていた政府と研究者は何も言葉が出ず驚愕した。



卵の外殻には、傷一つすら付いていなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品