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月兎。

第2部 15話

「ただいま!いやぁ、色々と疲れたよ!まったくもう、次々と無理難題押し付けられちゃって……。どうだった、ダンジョンは?儲かったかい?」

騒がしくも楽しげに、用事が出来たと言って出掛けていたクリスが、久しぶりに帰って来た。

それは私が昼食を食べ終えて、そろそろ一仕事しようかと思っていた時だった。

「お帰り。いやぁ、そこそこは儲かったけどね。でも、暫くダンジョンは良いや。冒険に出る楽しさを味わうというより、どっちかって言うと怖かった。
まぁ、怖い目にあったのは、大体は一緒に付いて来たコイツの所為なんだけどね。コラッ、結局帰りもあんたの所為でアンデッドに集られたんだから。悪いと思ったらそこを退いて、今から仕事するんだよ。これ以上邪魔するなら痛い目に合わすよ」

鍛冶スキルの使用には火を使う。
なので、ジッポ作りの為に手軽に火を使える暖炉前を使いたいのだが、暖炉の前は自分の特等席だと勝手に決めているアクシズが、ソファーにガッシリとしがみつき、現在激しい抵抗を見せていた。

「なんだよ、やる気か?お互い素手の状態なら、超高いステータスに近接格闘スキルまで持ってる男の俺に分があるぞ。暖炉の前は俺の聖域。これを侵す者には天罰がぁああああああああッ!!」

言う事聞かないアクシズにニッコリと笑いかけ後ろから抱き着き、抱き着いた所全体にフリーズと言う名の天罰をくれてやると、アクシズは悲鳴を上げて、しがみついていたソファーから転がり落ちる。
私はそれをスルーして材料を抱え、空いた暖炉の前に陣取った。

「あーあー……。キミも相変わらず無茶するなぁ。アクシズさん大丈夫?」

自分の体を抱き締めてプルプルしているアクシズにクリスが近寄り、体全体に付着した霜を払っている。

広間の中央では、ダクネスとめぐるんがこの世界のチェスにも将棋にも似たボードゲームに興じている。

「フフ、我が軍勢の力を見よ。このマスにオーク兵をテレポート」
「めぐるん、ウィザードの使い方が厭らしいぞ。……このマスにクルセイダーを移動し、王手だ」
「テレポート」

日本とは違い、魔法の概念があるこの世界ではチェスみたいな遊びのルールも若干違う。
めぐるんと一度やってみたが、敵の王様に盤外へテレポートされた時点で、もう二度とやらないと心に決めた。

と、体を抱き締めて震えていたアクシズが、何を思ったかバッと立ち上がり、懐から自分の冒険者カードを取り出して私に向けて突きつける。

「おいカズナこれを見ろ、レベルの欄を!今俺は、この中で一番の高レベルなんだぞ?もうベテランと呼ばれても可笑しくないレベルなんだぞ?レベル三十未満のひよっ子の分際で烏滸おこがましい!ほら、分かったら格上の俺に暖炉の前を譲れ!」

突き出してきたカードを見ると、確かにレベルが跳ね上がっていた。
表示レベルは三十六。
考えてみれば、魔王の幹部ベルディアに、先日のダンジョンでの大量のアンデッド。
更には、最後にリッチーまで浄化したのだ。
アクシズの成長を喜ぶと同時に、レベルを追い抜かれた事で、ちょっと悔しさも……。

……あれ?

「……ねぇアクシズ。あんた、レベルは上がってるんだけどさ。ステータスが、最初見た時から一切伸びてないのは何故?」
「馬鹿だなカズナ。俺を誰だと思ってるんだ?ステータスなんて最初からカンストしてるに決まってるだろ。
最初から、ステータスはカンスト。初期スキルポイントも、宴会芸スキルとアークプリーストの全魔法を習得出来る程の量を最初から保持。そこらの一般冒険者と俺を、一緒にする事が間違ってんだよ」

私は思わずアクシズのカードを取り落とした。そのままガクリと絨毯に膝をつく。
そんな私を見てアクシズが勝ち誇った様に笑みを浮かべているが、それどころではない。

……つまりコイツはどれだけレベルを上げても、これ以上知力が上がらない訳だ。
私はカードを拾い上げ、アクシズに返すと暖炉の前を譲ってやった。

「おや?なんだよ、随分素直じゃねぇか。……なぁ、なんで泣いてんの?そんなにレベル抜かれたのショックだった?
……な、なぁ、なんでそんな肩ポンポンして俺に優しくするんだ?なんでそんな可哀想な人を見る目で俺を見るんだ?」

私は暖炉の前にアクシズを座らせると、今日はもう、とても仕事をする気分では無くなってしまった為、気分転換に街にでも繰り出す事にした。




街の中は雪が積もり、寒さの為か人もあまり出歩いてはいない。この世界の住人達の常識では、冬は引き篭もるもの。
凶暴なモンスターしか活動しないこんな時期に、鎧を着こんでクエストに出掛けていけるのは日本から来たチート持ち連中ぐらいのものだ。
そしてこんな寒い中、街中をふらついているのは私の様な暇人か……。

もしくは私の前方で不審な動きを見せている、私の知り合いぐらいのものだろう。

私は道の往来でコソコソしながら、路地裏に佇む一軒のお店を伺っている知人に声を掛けた。

「リーン、こんな所で何やってんの?」
「うわぁッ!?」

背後から声を掛けられ、リーンが飛び跳ねた。今日のリーンは、冒険者には似つかわしくないラフな格好をしている。

「な、なんだカズナかぁ、驚かさないでよ。全く、潜伏スキル持ちはこれだから、全く……」

リーンが私を見て安心した様に言ってくる。
が、勿論私は潜伏スキルなんて使っていないのだが。

「…今日はあの三人は一緒じゃないの?」

リーンが気にした様に私の回りをチラチラ見ている。

「いや、今日は私一人だから安心して。そんなにアイツらが苦手なの?私は家に居るのも飽きたから、散歩してるんだ。リーンはこんな所で何してんの?」

私の言葉に安心したのか、リーンがホッと息を吐きながら。

「いや、まぁ……あの三人が居ないなら別に良いよ。ちょっとあのお店にね……」

そう言って、リーンは路地裏にある一軒のお店を見た。

「ねぇ、あのお店に何かあるの?さっきから気にしてるけど」

私の言葉に少し固まり、リーンは決心した様に真剣な顔をして私を見つめる。

「カズナ。私は、カズナなら信用出来る。今から言う事は、この街の女性冒険者達にとっては共通の秘密で、絶対に漏らしちゃいけない話なの。カズナの仲間の男達に、絶対に漏らさないって約束出来る?」

その重々しい雰囲気に、私は若干押されながらも頷いた。そして、周りには聞こえない様にとても静かな声で、リーンが言った。

「……カズナ。この街には、インキュバス達がコッソリ経営してる、良い夢を見させてくれるお店があるって知ってる?」
「詳しく」

私はリーンに食い込み気味で即答した。

「この街にはインキュバス達が住んでるの。多分サキュバスもいるんじゃないかな。
って言うのも、連中は人間の持つムラムラする欲望の感情、つまり女の精気を吸って生きる悪魔よ。となると当然、彼らには人間の女って存在が必要不可欠になってくるの」

ふむふむ。
私は人気の無い道の端で、熱心にリーンの言葉に耳を傾けていた。

「で、よ。当然彼らは私達から精気を吸う訳だけど……。ここの女性冒険者達とこの街に住むインキュバス達は、共存共栄の関係を築いているの。サキュバス達はどうか知らないけど。
……ほら、私達は基本馬小屋暮らしでしょ?つまり、その、色々と溜まって来るじゃない。でも、周りには他の冒険者が寝てる訳よ。ムラムラ来たって、え、えっちな事も出来ないでしょ?」
「そ、そうですね」

私はコクリと頷いた。
やましい事なんて何一つ無いけど、私の頬を一筋の汗が流れる。
疚しい事は何も無い。大事な事なので二回言った。

「かと言って、その辺に寝てる異性の冒険者に悪戯でもしようものなら。そんなもの即座に他の冒険者に気付かれて袋叩きにされるか、もしくは男の場合悪戯しようとした女の子が隠し持っていたダガーで、逆にアレを切り落とされそうになったって可笑しくない」

それを聞き、私はブルリと身震いした。他のパーティーでは、実際にそういう揉め事があるのかもしれない。恐ろしい話だ。

「で、そこでこのインキュバス達よ。彼らが、私達が寝てる間に凄いのを見させてくれる訳。
私達はスッキリ出来て、彼らは生きていける。彼らも、私達が力尽きたり冒険に支障をきたさない程度に手加減してくれる。
精気を吸い過ぎて冒険者がヤバい事になった例は無い。……どう?誰も困らない話でしょ?」

リーンのその言葉に、私は何度もコクコク頷いた。

素晴らしい。
素晴らし過ぎる。
インキュバス達もむやみに人を襲う理由が無くなり、馬小屋でモンモンとする冒険者達もいなくなる。
きっと、性犯罪の抑制にだって繋がるだろう。

そう言えば、この街は凄く治安が良い。

私の想像していた冒険者像ってのは、荒くれが多く、ガサツで喧嘩早くてお酒が好き。
ずっとそんなイメージだったのだが、この街では暴力事件も少なく、犯罪の話も特に聞かない。恐らく女性冒険者以外に、男性冒険者もサキュバスと共存共栄の関係を築いているに違いない。
誰もが常に賢者タイムでいられれば、争いなんて起こらない。
素晴らしい。
世の中って物はちゃんと上手い事成り立っているものなんだ。

そんな軽い感動を覚えていた私の様子を見て、リーンが言った。

「実はそのお店の事を教えて貰ったのって、私も最近なの。で、今日初めて、私もそこのお店に行こうと思ってね。そこにカズナに出くわしたって訳。……どう?なんなら一緒に「是非行きます」」


To be continued…

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