この素晴らしい世界にTSを!
第2部 11話
白一色の鎧兜。
それは味気ない色ながらも、戦国鎧特有の華やかさは、僅かにも損なわれてはいなかった。
将軍の名に相応しく、決め細やかな意匠を凝らされた陣羽織。
白い冷気を発する刀は、態々寄って見なくとも、恐るべき切れ味を秘めているであろう事は、一目で分かる。
冬将軍が八双の構えを取る。
そして日の下に白刃を煌めかせ、一番近くに居たダクネスに斬りかかった!
「くッ!?」
ダクネスが、それを大剣で受けようとするが……。
キンッと甲高い音を立て、ベルディアの猛攻にも耐えた大剣が、アッサリと真ん中で叩き斬られた。
「ああッ!?わ、私の剣が…ッ!?」
冬将軍と、それと戦うダクネスから距離を取り、
「冬将軍。国から高額賞金を掛けられている特別指定モンスターの一体だ。精霊は元々決まった実体を持たない。そして精霊は、出会った人達の無意識に思い描く思念を受け、その姿へと実体化するんだ。
火の精霊は、全てを飲み込み焼き尽くす炎の貪欲さから、凶暴そうな火トカゲに。水の精霊と言えば、清らかでカッコ良く知的で美しい水の女神を連想して、美しい乙女の姿に。
でも、冬は街の人間どころか、冒険者達ですら出歩かない。……そう、日本から送られたチート持ち連中以外はな」
アクシズが雪精を詰めた小瓶を握り、冬将軍について教えてくれる。
目の前の冬将軍は、息吹を行なう様に、総面の口からコオオオッと白い冷気を放っていた。
私は剣を折られたダクネスの隣に立ち、目の前の冬将軍に油断なく剣を構え。
「……つまりコイツは、日本からこの世界に来た何処かのアホが、冬と言えば冬将軍みたいなノリで連想したから生まれたの?
なんて迷惑な話なんだよ、どうすんのこれ。冬の精霊なんてどう戦えば良いのッ!?」
ハッキリ言って、目の前のモンスターにまるで勝てる気がしない。
一見人型の鎧武者だが、それが精霊が実体化した物だって言うのなら、状態異常に陥る事はないだろう。
頼みの綱のめぐるんも、今日はもう魔法が使えない。
アクシズが、手の小瓶の蓋を開け、中に閉じ込めていた雪精を解放する。
「カズナ、聞け!冬将軍は寛大だ!きちんと礼を尽くして謝れば、見逃してくれる!」
アクシズはそう言って、白い雪が積もる雪原に、そのまま素早くひれ伏した。
「土下座だ!土下座するんだ!ほら、お前らも武器を捨てて早くしろ!謝れ!カズナも早く、謝れッ!!」
ペタリと頭を雪に付け、プライドなど其処らに落として来たらしい元なんとか様は、それは見事な土下座を行なった。
ふと見ればめぐるんも綺麗な土下座を行なっている。
この何の迷いも無く土下座する二人を見ていると、いっそ清々しさすら感じられた。
冬将軍はと言えば、確かに土下座した二人には目もくれなくなった。
その分、私とダクネスにその視線が向けられる。
私も慌てて土下座を……。
ふと、私の隣で未だ立ったままのダクネスを見る。
「……ちょっと何やってんの、早くあんたも頭下げなさい!」
隣では、悔しそうに冬将軍を睨み付け、斬り飛ばされた大剣の一部を捨て、立ち尽くすダクネスの姿がある。
「くっ……!私にだって、貴族の息子であるというプライドがある!誰も見ていないとは言え、父や私を慕ってくれる領民がいる以上、怖いからと、モンスターに簡単に頭を下げる訳には……」
面倒くさい事を言い出したダクネスの頭を、私は両手で握っていた剣から左手だけを手放して引っ掴み、そのまま無理やり頭を下げさせた。
「いつもはモンスターにホイホイ着いて行こうとするあんたが、何でこんな時だけしょうもないプライド発揮すんの!
普段ドン引きの変態発言が多いクセにどうでもいい下ネタには恥ずかしがったり、あんたの基準は色々可笑しい!」
「や、やめろぉ!くっ、下げたくも無い頭を無理やり下げさせられ、地に顔を付けられるとかどんなご褒美だ!」
頬を赤くしながら形だけの抵抗を見せる変態の頭を、私は左手で押さえつけ、そのまま自分も頭を下げた。
チラリと冬将軍の様子を伺い見る。
すると、冬将軍は既にその刀を鞘に収めていた。私はホッとしながらも、そのまま頭を下げ続け……
アクシズが私に、鋭く叫んだ。
「カズナ、武器武器!早く手に持ってる剣を捨てろッ!!」
冷たい雪原の上に頭を付けながら、私は右手に剣を握ったままだった事を思い出す。
私は慌てていた為か、思わず腰を浮かせながら右手の剣を投げ捨てる。
当然頭が雪から離れ……。
頭を上げてしまった私の目に飛び込んできたのは、鞘に収めた刀のツバの部分、そこに左手を添えた冬将軍の姿だった。
良く見れば左手の親指が、刀のツバをそっと押し、白刃を僅かに覗かせている。
それは、俗に言う居合いの構え。
それまで空いていた冬将軍の右手が、一瞬ブレた様に見えた。
そして聞こえる、チンと言う小さな音。
それは刀を鞘に収めた音だろう。
私はそれを聞きながら、うっかり上げてしまった自分の目線が、何故か冬将軍から雪の積もる地に向けられ、そのまま目の前に白い地面が迫って来るのを………………
† † † † † † † † † † † †
「………………」
「………………」
私は呆然と突っ立った状態で、神エリスと見詰め合っていた。
そこは、以前私が初心者殺しに齧られ、殺された時に来た神殿みたいな部屋の中。
そこに相変わらず唐突に、私は突っ立っている。
目の前には、長い白銀の髪に青い瞳。
相変わらずの、人間離れした美しさをしたエリス様。
その本物の神様は、物凄く困り顔の表情で、ポリポリと指で頬を掻きながら話し掛けてきた。
「……あの、もうちょっと気を付けて生きて下さいね?以前規約を曲げて生き返らせた時、凄く苦労したのに……。
どうせ先輩が、また無茶言い出して生き返らせるんでしょうけれども、その度に苦労するのは私なので……」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。迷惑掛けてごめんなさい」
私はペコペコとエリス様に謝った。
エリス様の言う通り、多分その内、アクシズが生き返らせてくれるだろう。
「ええと……あの連中、大丈夫ですか?」
私は自分が殺された事で、アイツらが、私の敵討ちだ!と冬将軍に突っ掛かって行ったりしていないかを心配した。
しかし杞憂だったらしい。
「ああ、大丈夫ですよ。皆さん大人しくしておられます。冬将軍は、貴女を斬った後は消えてしまった様ですね。今は先輩が、貴女の体の修復をしています」
それを聞いて安心したが、それはそれで少し寂しい。
まぁ、そういう事なら待たせて貰おう。
死んでおいてなんだが、殺されたのが痛みも感じず一瞬だった所為か、それともいい加減慣れてきたのか。
私は死んだと言うのに、何故か平然と落ち着いていられた。珍しい物を見るかの様に、私は辺りをキョロキョロと見回す。
「……死んだと言うのに、今回は随分と落ち着いていますね。此処に来る人達は、大概取り乱す方が殆どなのですが……」
「まあ、日本で一回、この世界で二回。計三回目ですし」
エリス様に答えながら、私は改めて部屋を見回す。
……本当に、何も無い部屋だ。
そんなキョロキョロしている私を、エリス様が無言で見ている。私も特にやる事も無く、結局私とエリス様は無言で見つめ合う。
…………どうしよう、凄く気まずい。
何でこんな時に限ってアクシズはちゃっちゃと生き返らせてくれないの。
しかし……。
「こんな何も無い部屋でずっと居て、退屈したりはしないんですか?この世界の人口がどれ程居るのかは知りませんけど、ホイホイ人が此処に送られて来るものなんですかね?」
私の疑問にエリス様が微笑みを湛えながら答えてくれた。
「そうですね。私が担当しているのは、モンスターによって命を落としてしまった人達のみですから……。
普段はそこそこ忙しいですが、この冬の時期は皆さん外に出歩きませんから、とても喜ばしい事に、暇しておりますよ」
エリス様は、そう言って私に、優しげにニコリと笑い掛けて。
アカン、駄目だ、何これヤバい。
そうか、私の異世界入りは何かが足りないとは思っていたんだ。
足りない物。そう、メインヒーローはここに居たんだ。
私が顔を赤くして狼狽えていると、
「それに……。私もずっと此処に居る訳ではありませんしね。他の者に代わってもらって、実はコッソリ色んな所に遊びに行ってるんです。……この事は、内緒ですよ?」
そう言って、悪戯っぽく片目を瞑り、笑いかけてきた。
お、おおぅ……。
私が赤い顔でコクコク頷いていると。
《カズナー!カズナ聞こえるかー?リザレクションは掛けたから、もうコッチに帰って来れるぞ。目の前の奴に門開けてもらえ》
いつもいつも、本当に間の悪い奴の声が聞こえてきた。
……もう少し時間掛けてくれれば良かったのに。
先程とはまるで正反対の事を考えながら、私は思わず舌打ちしそうになる。
「もうちょっと後で良いよー。もっとエリス様と色々話とかしたいし。それまで私の体大事に取っといてー」
私は何も無い空間に向かって声を張り上げる。
エリス様が、えっ?と小さな声を上げ、ちょっと照れた様にはにかみ微笑んだ。
暫く、シンと静まり返り。
《ハァアアッ!?お前何言ってんだッ!?おい馬鹿言ってねぇで早くコッチ帰って来いよ、早く帰って目一杯働いて、借金返さねぇとだろッ!?》
そのアクシズの言葉に、私は現実を思い出す。
莫大な借金。
そして、冬のクエストはやはり私達には荷が重いという現実。
このまま生き返っても、大量の借金抱えたまま、この冬の間は屋敷に篭り、ちまちまジッポ作り続けるのだろうか。
そして、漸く借金を返したとしても、あの三人と共にこれからずっと……!
……私はアクシズに答えず考えた。
暫くそのまま考えて……。
生まれ変わって新しい人生をやり直す事にした。
「ねぇアクシズー!私、もう人生疲れたしそっちに帰らない!生まれ変わって、赤ちゃんから人生やり直す事にする!そっちの二人に宜しく言っといてー!」
「ええッ!?」
エリス様が驚いた声を上げた。
そして……
《お前何馬鹿言ってんだ!ちょ、ちょっと待ってろよッ!!》
慌てるアクシズの声を聞きながら、私はエリス様に向き直る。
「それじゃ、一つ宜しくお願いしますエリス様。あまり我が儘は言いませんが、もし叶うのなら、次も女の子として生まれたいです。後、カッコ良い義理の兄がいる家庭に生まれたいです」
「ちょ、その、待って!待って下さいよッ!?」
私の言葉を聞いたエリス様が慌てふためく。
やがてアクシズの声が再び響いた。
《カズナー!ダクネスが、早く戻って来ないとお前を引ん剥いて色々するって言ってるぞ。習い事は貴族の嗜み、活け花ぐらい出来るって言ってるんだけど》
おい。
おい止めろ、活け花するのに何で私を引ん剥く必要があるんだよ。
私の体と活け花に、何の関係があるんだよ。
《あとめぐるんが、無言で何か始め……。はっ?めぐるんッ!?お、おいめぐるんッ!?ちょっ!カズナが!そんなにしたら、カズナがッ!!》
「ちょっと止めて!私の身体に何してんの!仏さんに悪戯しないの!バチ当たるよあんたらッ!!」
一体私の身体に何をされているんだろう。
私が不安に思っていると、アクシズが叫ぶ。
《めぐるん!めぐるーんッ!!ちょ、カズナ!早く来てくれ、早く帰って来てくれぇえッ!!》
「ちょっと止めて!アクシズ、二人を止めて!止め……!エ、エリス様、お願いします!私を帰して下さい!お願いします!!」
慌てる私に、エリスがクスリと笑いながら、片手の指をパチンと鳴らした。
そして目の前に現れたのは白い門。
私は慌ててその門の前に立ち……。
「それでは、佐藤和奈さん。今度は、貴女が天寿を全うした時に会えます様に。では、また!さぁ、行ってらっしゃい!」
エリス様の送り出す声を受け、私はそのまま門を開けた……!
To be continued…
それは味気ない色ながらも、戦国鎧特有の華やかさは、僅かにも損なわれてはいなかった。
将軍の名に相応しく、決め細やかな意匠を凝らされた陣羽織。
白い冷気を発する刀は、態々寄って見なくとも、恐るべき切れ味を秘めているであろう事は、一目で分かる。
冬将軍が八双の構えを取る。
そして日の下に白刃を煌めかせ、一番近くに居たダクネスに斬りかかった!
「くッ!?」
ダクネスが、それを大剣で受けようとするが……。
キンッと甲高い音を立て、ベルディアの猛攻にも耐えた大剣が、アッサリと真ん中で叩き斬られた。
「ああッ!?わ、私の剣が…ッ!?」
冬将軍と、それと戦うダクネスから距離を取り、
「冬将軍。国から高額賞金を掛けられている特別指定モンスターの一体だ。精霊は元々決まった実体を持たない。そして精霊は、出会った人達の無意識に思い描く思念を受け、その姿へと実体化するんだ。
火の精霊は、全てを飲み込み焼き尽くす炎の貪欲さから、凶暴そうな火トカゲに。水の精霊と言えば、清らかでカッコ良く知的で美しい水の女神を連想して、美しい乙女の姿に。
でも、冬は街の人間どころか、冒険者達ですら出歩かない。……そう、日本から送られたチート持ち連中以外はな」
アクシズが雪精を詰めた小瓶を握り、冬将軍について教えてくれる。
目の前の冬将軍は、息吹を行なう様に、総面の口からコオオオッと白い冷気を放っていた。
私は剣を折られたダクネスの隣に立ち、目の前の冬将軍に油断なく剣を構え。
「……つまりコイツは、日本からこの世界に来た何処かのアホが、冬と言えば冬将軍みたいなノリで連想したから生まれたの?
なんて迷惑な話なんだよ、どうすんのこれ。冬の精霊なんてどう戦えば良いのッ!?」
ハッキリ言って、目の前のモンスターにまるで勝てる気がしない。
一見人型の鎧武者だが、それが精霊が実体化した物だって言うのなら、状態異常に陥る事はないだろう。
頼みの綱のめぐるんも、今日はもう魔法が使えない。
アクシズが、手の小瓶の蓋を開け、中に閉じ込めていた雪精を解放する。
「カズナ、聞け!冬将軍は寛大だ!きちんと礼を尽くして謝れば、見逃してくれる!」
アクシズはそう言って、白い雪が積もる雪原に、そのまま素早くひれ伏した。
「土下座だ!土下座するんだ!ほら、お前らも武器を捨てて早くしろ!謝れ!カズナも早く、謝れッ!!」
ペタリと頭を雪に付け、プライドなど其処らに落として来たらしい元なんとか様は、それは見事な土下座を行なった。
ふと見ればめぐるんも綺麗な土下座を行なっている。
この何の迷いも無く土下座する二人を見ていると、いっそ清々しさすら感じられた。
冬将軍はと言えば、確かに土下座した二人には目もくれなくなった。
その分、私とダクネスにその視線が向けられる。
私も慌てて土下座を……。
ふと、私の隣で未だ立ったままのダクネスを見る。
「……ちょっと何やってんの、早くあんたも頭下げなさい!」
隣では、悔しそうに冬将軍を睨み付け、斬り飛ばされた大剣の一部を捨て、立ち尽くすダクネスの姿がある。
「くっ……!私にだって、貴族の息子であるというプライドがある!誰も見ていないとは言え、父や私を慕ってくれる領民がいる以上、怖いからと、モンスターに簡単に頭を下げる訳には……」
面倒くさい事を言い出したダクネスの頭を、私は両手で握っていた剣から左手だけを手放して引っ掴み、そのまま無理やり頭を下げさせた。
「いつもはモンスターにホイホイ着いて行こうとするあんたが、何でこんな時だけしょうもないプライド発揮すんの!
普段ドン引きの変態発言が多いクセにどうでもいい下ネタには恥ずかしがったり、あんたの基準は色々可笑しい!」
「や、やめろぉ!くっ、下げたくも無い頭を無理やり下げさせられ、地に顔を付けられるとかどんなご褒美だ!」
頬を赤くしながら形だけの抵抗を見せる変態の頭を、私は左手で押さえつけ、そのまま自分も頭を下げた。
チラリと冬将軍の様子を伺い見る。
すると、冬将軍は既にその刀を鞘に収めていた。私はホッとしながらも、そのまま頭を下げ続け……
アクシズが私に、鋭く叫んだ。
「カズナ、武器武器!早く手に持ってる剣を捨てろッ!!」
冷たい雪原の上に頭を付けながら、私は右手に剣を握ったままだった事を思い出す。
私は慌てていた為か、思わず腰を浮かせながら右手の剣を投げ捨てる。
当然頭が雪から離れ……。
頭を上げてしまった私の目に飛び込んできたのは、鞘に収めた刀のツバの部分、そこに左手を添えた冬将軍の姿だった。
良く見れば左手の親指が、刀のツバをそっと押し、白刃を僅かに覗かせている。
それは、俗に言う居合いの構え。
それまで空いていた冬将軍の右手が、一瞬ブレた様に見えた。
そして聞こえる、チンと言う小さな音。
それは刀を鞘に収めた音だろう。
私はそれを聞きながら、うっかり上げてしまった自分の目線が、何故か冬将軍から雪の積もる地に向けられ、そのまま目の前に白い地面が迫って来るのを………………
† † † † † † † † † † † †
「………………」
「………………」
私は呆然と突っ立った状態で、神エリスと見詰め合っていた。
そこは、以前私が初心者殺しに齧られ、殺された時に来た神殿みたいな部屋の中。
そこに相変わらず唐突に、私は突っ立っている。
目の前には、長い白銀の髪に青い瞳。
相変わらずの、人間離れした美しさをしたエリス様。
その本物の神様は、物凄く困り顔の表情で、ポリポリと指で頬を掻きながら話し掛けてきた。
「……あの、もうちょっと気を付けて生きて下さいね?以前規約を曲げて生き返らせた時、凄く苦労したのに……。
どうせ先輩が、また無茶言い出して生き返らせるんでしょうけれども、その度に苦労するのは私なので……」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい。迷惑掛けてごめんなさい」
私はペコペコとエリス様に謝った。
エリス様の言う通り、多分その内、アクシズが生き返らせてくれるだろう。
「ええと……あの連中、大丈夫ですか?」
私は自分が殺された事で、アイツらが、私の敵討ちだ!と冬将軍に突っ掛かって行ったりしていないかを心配した。
しかし杞憂だったらしい。
「ああ、大丈夫ですよ。皆さん大人しくしておられます。冬将軍は、貴女を斬った後は消えてしまった様ですね。今は先輩が、貴女の体の修復をしています」
それを聞いて安心したが、それはそれで少し寂しい。
まぁ、そういう事なら待たせて貰おう。
死んでおいてなんだが、殺されたのが痛みも感じず一瞬だった所為か、それともいい加減慣れてきたのか。
私は死んだと言うのに、何故か平然と落ち着いていられた。珍しい物を見るかの様に、私は辺りをキョロキョロと見回す。
「……死んだと言うのに、今回は随分と落ち着いていますね。此処に来る人達は、大概取り乱す方が殆どなのですが……」
「まあ、日本で一回、この世界で二回。計三回目ですし」
エリス様に答えながら、私は改めて部屋を見回す。
……本当に、何も無い部屋だ。
そんなキョロキョロしている私を、エリス様が無言で見ている。私も特にやる事も無く、結局私とエリス様は無言で見つめ合う。
…………どうしよう、凄く気まずい。
何でこんな時に限ってアクシズはちゃっちゃと生き返らせてくれないの。
しかし……。
「こんな何も無い部屋でずっと居て、退屈したりはしないんですか?この世界の人口がどれ程居るのかは知りませんけど、ホイホイ人が此処に送られて来るものなんですかね?」
私の疑問にエリス様が微笑みを湛えながら答えてくれた。
「そうですね。私が担当しているのは、モンスターによって命を落としてしまった人達のみですから……。
普段はそこそこ忙しいですが、この冬の時期は皆さん外に出歩きませんから、とても喜ばしい事に、暇しておりますよ」
エリス様は、そう言って私に、優しげにニコリと笑い掛けて。
アカン、駄目だ、何これヤバい。
そうか、私の異世界入りは何かが足りないとは思っていたんだ。
足りない物。そう、メインヒーローはここに居たんだ。
私が顔を赤くして狼狽えていると、
「それに……。私もずっと此処に居る訳ではありませんしね。他の者に代わってもらって、実はコッソリ色んな所に遊びに行ってるんです。……この事は、内緒ですよ?」
そう言って、悪戯っぽく片目を瞑り、笑いかけてきた。
お、おおぅ……。
私が赤い顔でコクコク頷いていると。
《カズナー!カズナ聞こえるかー?リザレクションは掛けたから、もうコッチに帰って来れるぞ。目の前の奴に門開けてもらえ》
いつもいつも、本当に間の悪い奴の声が聞こえてきた。
……もう少し時間掛けてくれれば良かったのに。
先程とはまるで正反対の事を考えながら、私は思わず舌打ちしそうになる。
「もうちょっと後で良いよー。もっとエリス様と色々話とかしたいし。それまで私の体大事に取っといてー」
私は何も無い空間に向かって声を張り上げる。
エリス様が、えっ?と小さな声を上げ、ちょっと照れた様にはにかみ微笑んだ。
暫く、シンと静まり返り。
《ハァアアッ!?お前何言ってんだッ!?おい馬鹿言ってねぇで早くコッチ帰って来いよ、早く帰って目一杯働いて、借金返さねぇとだろッ!?》
そのアクシズの言葉に、私は現実を思い出す。
莫大な借金。
そして、冬のクエストはやはり私達には荷が重いという現実。
このまま生き返っても、大量の借金抱えたまま、この冬の間は屋敷に篭り、ちまちまジッポ作り続けるのだろうか。
そして、漸く借金を返したとしても、あの三人と共にこれからずっと……!
……私はアクシズに答えず考えた。
暫くそのまま考えて……。
生まれ変わって新しい人生をやり直す事にした。
「ねぇアクシズー!私、もう人生疲れたしそっちに帰らない!生まれ変わって、赤ちゃんから人生やり直す事にする!そっちの二人に宜しく言っといてー!」
「ええッ!?」
エリス様が驚いた声を上げた。
そして……
《お前何馬鹿言ってんだ!ちょ、ちょっと待ってろよッ!!》
慌てるアクシズの声を聞きながら、私はエリス様に向き直る。
「それじゃ、一つ宜しくお願いしますエリス様。あまり我が儘は言いませんが、もし叶うのなら、次も女の子として生まれたいです。後、カッコ良い義理の兄がいる家庭に生まれたいです」
「ちょ、その、待って!待って下さいよッ!?」
私の言葉を聞いたエリス様が慌てふためく。
やがてアクシズの声が再び響いた。
《カズナー!ダクネスが、早く戻って来ないとお前を引ん剥いて色々するって言ってるぞ。習い事は貴族の嗜み、活け花ぐらい出来るって言ってるんだけど》
おい。
おい止めろ、活け花するのに何で私を引ん剥く必要があるんだよ。
私の体と活け花に、何の関係があるんだよ。
《あとめぐるんが、無言で何か始め……。はっ?めぐるんッ!?お、おいめぐるんッ!?ちょっ!カズナが!そんなにしたら、カズナがッ!!》
「ちょっと止めて!私の身体に何してんの!仏さんに悪戯しないの!バチ当たるよあんたらッ!!」
一体私の身体に何をされているんだろう。
私が不安に思っていると、アクシズが叫ぶ。
《めぐるん!めぐるーんッ!!ちょ、カズナ!早く来てくれ、早く帰って来てくれぇえッ!!》
「ちょっと止めて!アクシズ、二人を止めて!止め……!エ、エリス様、お願いします!私を帰して下さい!お願いします!!」
慌てる私に、エリスがクスリと笑いながら、片手の指をパチンと鳴らした。
そして目の前に現れたのは白い門。
私は慌ててその門の前に立ち……。
「それでは、佐藤和奈さん。今度は、貴女が天寿を全うした時に会えます様に。では、また!さぁ、行ってらっしゃい!」
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