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月兎。

第2部 5話

ずっと何かに耐えていたが、とうとう我慢出来ずに切れてしまった様な、追い詰められた様なデュラハンの絶叫に、私の周りの冒険者達がざわついた。
というか、私達も周りの冒険者達も、一体何が起こっているのかが理解出来ない。
とりあえず、私達が緊急で呼び出されたのは目の前にいる怒り狂ったデュラハンが原因の様だった。

「……爆裂魔法?」
「爆裂魔法を使えるヤツって言ったら……」
「爆裂魔法って言ったら……」

周りの冒険者達が再びざわつき、そして……。

私の隣に居るめぐるんへと、自然と周りの視線が集まった。
……周囲の視線を寄せられためぐるんは、フイッと隣に居た魔法使いの女の子の方を見る。
それに釣られて、私もその女の子を見ると、周りの視線も一緒に釣られたようにその女の子に……。

「ええッ!?あ、あたしッ!?なんであたしが見られてんのッ!?爆裂魔法なんて使えないよッ!!」

突然濡れ衣をなすり付けられ、慌てる魔法使いの女の子。
めぐるんがハァと息を吐き、嫌そうな顔で前に出た。それに、冒険者達がデュラハンへの道を開けてくれる。
街の正門の前に佇むデュラハン。
そのデュラハンから10mほど離れた場所にめぐるんが対峙した。
勿論私やダクネスやアクシズもめぐるんの後に付いて行く。
アンデッドを見つけるとまるで親の敵の様に襲い掛かるアクシズも、これ程までに怒り狂うデュラハンが珍しいのか興味深々で成り行きを見守っていた。

「お前が……!お前が、毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んで行くキチ○イか!俺が魔王軍幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい!その気が無いのなら、街で震えているがいい!
何故こんな陰湿な嫌がらせをする!この街には低レベルの冒険者しか居ない事は我々も知っている!雑魚ばかりと見逃してやっていれば、調子に乗って毎日毎日ポンポン爆裂魔法を撃ち込みにきおって……ッ!!頭可笑しいんじゃないのか、貴様ッ!!」

よほど堪えたのか、激しい怒りでデュラハンの兜がプルプルと震える。
それにめぐるんが若干怯むも、意を決して口を開いた。

「我が名はめぐるん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……」
「……馬鹿にしてんのか?」
「ちっ、違わい!」

めぐるんの名乗りを受けたデュラハンに突っ込まれるも、めぐるんは気を取り直し。

「我は紅魔族の者にして、そしてこの街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、こうして魔王軍幹部の貴公を誘き出す為の作戦……!まんまとこの街に、一人でノコノコ出て来たのが運の尽き!」

何だかノリノリでデュラハンに杖を突きつけるめぐるんを、その後ろで見守りながら、私はアクシズとダクネスにヒソヒソと囁いた。

「……ねぇ、アイツあんな事言ってるよ。毎日爆裂魔法撃たなきゃ死ぬとか駄々をねてたから、仕方なくあの城の近くまで毎日連れてってやってたのに。いつの間に作戦になったの」
「……ん、しかもサラッと、この街随一の魔法使いとか言い張ってるぞ」
「しーッ!そこは黙っといてあげろよ!今日はまだ爆裂魔法使ってねぇし、後ろに冒険者の大群が控えてくれてるから強気なんだよ。今良い所なんだから見守ろう!」

その私達のヒソヒソが聞こえていたのか、片手で杖を突きつけたポーズのまま、めぐるんの顔がみるみる内に赤くなる。
デュラハンはと言えば、何かに納得した様な雰囲気だ。

「……ほぅ、紅魔の者か。なるほど、そのイカれた名前は別に俺を馬鹿にしていた訳では無かったのだな」
「おい、両親から貰った僕の名に文句があるなら聞こうじゃないか」

何かヒートアップしているめぐるんだが、デュラハンは何処吹く風だ。
と言うか、街中の冒険者の大群を見ても別段気にする素振りも見せてはいない。
流石は魔王軍の幹部、私達みたいなひよっ子など眼中に無いのだろう。

「……フン、まぁ良い。とにかく、俺はお前ら雑魚共にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ある調査に来たのだ。
暫くはあの城に滞在する事になるだろうが、これからは爆裂魔法は使うな。良いな?」
「それは、僕に死ねと言っている様なものなんですが。紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」
「お、おい、聞いた事ないぞそんな事。貴様、嘘つくなよ!」

どうしよう、もう少しめぐるんとあのモンスターのやり取りを見守りたい気分になってきた。
見ればアクシズも、めぐるんがデュラハンに噛み付いているのをワクワクして眺めている。

デュラハンは片方の手の平の上に首を乗せながら、そのまま器用に、外人がやるみたいにやれやれと肩をすくませた。

「どうあっても、爆裂魔法を止める気は無いと?俺は魔に身を落とした者ではあるが、元は騎士だ。弱者に手を出す趣味は無い。
だが、これ以上城の近辺であの迷惑行為をするのなら、此方にも考えがあるぞ?」

剣呑けんのんな気配を漂わせてきたデュラハンに、めぐるんがビクリと後ずさった。
そしてそのままアクシズに目をやると、

「迷惑なのは我々の方です!貴方があの城に居座ってる所為で、我々は仕事もロクに出来ないんですよ!ふっ、余裕ぶっていられるのも今の内です。
此方には、対アンデッドのスペシャリストがいるのだから!さぁ、先生、お願いします!」

めぐるんは、アクシズに丸投げした。
…………おい。

「ふふん、しょうがねぇな!魔王軍の幹部だか何だか知らねぇが、この街にこの俺が居たのは運が悪かったな。
アンデッドが、力が弱まるこんな昼間にノコノコ出てきちまって、浄化して下さいって言ってる様なもんだ!
お前の所為で、受けたクエストの報酬がずっと棚上げされてんだよ!さぁ、覚悟は良いかッ!?」

先生呼ばわりされたアクシズが満更でも無さそうに、ズイとデュラハンの前に出た。
成り行きを固唾かたずを飲んで見守る冒険者達の視線を浴びながら、アクシズがデュラハンに片手を突き出す。
それを見たデュラハンは、興味深そうに自分の首をアクシズに向かって前に出す。
きっと、これがデュラハンなりのマジマジと見る行為になるのだろう。

「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストか?なるほど。こんな街に居る低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないが、確かにこの太陽の下で浄化魔法を喰らっては痛そうだ。……では、こうさせて貰うとしようかッ!!」

デュラハンは、アクシズが魔法を唱えようとするよりも速く、その右手の人差し指をめぐるんへと突き出した!
そしてデュラハンはすかさず叫ぶ。

「お前、二週間後に死ぬかんなぁあッ!!」

デュラハンが人差し指でめぐるんを指すのと、ダクネスがめぐるんの襟首を掴み、自分の後ろに隠すのは同時だった。

「なッ!?ダ、ダクネス!」

めぐるんが叫ぶと同時、ダクネスの身体がほんのりと一瞬だけ黒く光る。
やられた、死の宣告か!

「ダクネス、大丈夫!?痛い所とかは無い?」

私が慌てて聞くも、ダクネスは自分の両手を確認するかの様にワキワキと何度か握り。

「……ふむ、何とも無いが」

平気そうに言ってのけた。
だが、デュラハンは確かに叫んだ。
二週間後に死ぬ、と。
呪いを掛けられたダクネスをアクシズがペタペタと触る中、デュラハンは勝ち誇った様に宣言する。

「その呪いは、今は何とも無い。若干予定が狂ったが、このままではそのクルセイダーは二週間後に死ぬ。ククッ、それまで死の恐怖に怯え、苦しむ事となるのだ。
めぐるんとか言ったな紅魔の小僧よ。二週間の間、仲間の苦しむ様を見て、自分の行いを悔いるがいい。ククッ、素直に俺の言う事を聞いておけばよかったのだ!」

そのデュラハンの言葉にめぐるんが青ざめる中、ダクネスがおののき叫んだ。

「な、なんて事だ!つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば俺の言う事を聞けと!つまりはそう言う事なのか!」
「えっ」

ダクネスが何を言っているのか分からなかったデュラハンが素で返した。
私も何を言っているのかが分からない。

「く…ッ!!や、止めろぉお……!呪いぐらいではこの私は屈しはしない……!屈しはしないが……ッ!!
ど、どうしようカズナ!見るがいい、あのデュラハンの兜の下の厭らしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言う事を聞けと、凄まじい拷問プレイをする変質者の目だッ!!」

大衆の前で、突然変質者呼ばわりされた可哀想なデュラハンがポツリと言った。

「……えっ」

……気の毒に。

「この私の体は好きに出来ても、心までは好きに出来るとは思うなよ!城に囚われ、魔王の手先に手足を拘束され、鞭で打たれ拷問される聖騎士とかッ!!
ああ、どうしよう、どうしようカズナッ!!行きたくは無い、行きたくは無いが仕方がない!ギリギリまで抵抗してみるから二週間後に城に迎えに来てくれ!では、行って来る!」
「ええッ!?」
「止めなさい、ハウス!デュラハンの人が困ってるでしょ!」

ノコノコと敵に着いて行こうとするダクネスにしがみつき引き止めていると、デュラハンがホッとしている姿が見えた。

「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのは止めろ!そして、そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来る事が出来たなら、その呪いを解いてやろう!
……だが、城には俺の配下のリビングアーマーやゴーレム達がひしめいている。ひよっ子冒険者のお前達に、果たして俺の所まで辿り着けるかな?クククククッ、クハハハハハハッ!!」

デュラハンはそう宣言すると、哄笑こうしょうを上げながら、街の外に止めていた首の無い馬に乗り、そのまま城へと去って行った……。


† † † † † † † †


あまりと言えばあんまりな展開に、集められた冒険者達は呆然と立ち尽くしていた。

それは、私も同じだった。
私の隣では、めぐるんが青い顔でワナワナと震え、杖をギュッと握り直す。
そしてそのまま街の外へ出て行こうとする。

「コラ、何処行く気。何しようっての」

私がめぐるんのマントを引っ張ると、めぐるんはそれにグイグイと力を込めて抵抗しながら、此方を振り向きもせずに言ってきた。

「今回の事は僕の責任です。ちょっと城まで行って、あのデュラハンに直接爆裂魔法ぶち込んで来ます」

めぐるん一人で行った所で、どうなる物でもないだろうに。
というか。

「私も行くに決まってるでしょ。あんた一人じゃ最初の雑魚相手に魔法使って、それで終わっちゃうよ。そもそも、あの城に魔法撃ち込めってそそのかしたのは私だしね」

私の言葉に暫く渋い表情を浮かべていためぐるんは、やがて諦めた様に肩を落とした。

「……じゃあ、一諸に行きますか。でもリビングアーマーやゴーレム相手じゃ、カズナのスキルは殆ど役に立ちませんよ?なので、こんな時こそ僕の爆裂魔法を頼りにして下さい」

そう言って、少しだけめぐるんは笑みを浮かべた。私はそんなめぐるんに微笑み返し、めぐるんの頭にポンと手を置く。
確かに無機物な敵が相手じゃ、私の不死王の手や目潰し、片手剣、弓なんて物は役に立たないだろう。
しかし、それならそれで考えがある。

「私の敵感知で城内のモンスターを索敵しながら、潜伏スキルで隠れながらコソコソ行こう。二週間の期限があるんだし、毎日城に通って一階から順に、爆裂魔法で敵を削っていっても良い」

私の提案に少しは希望が持てたのか、めぐるんが明るい顔を見せてきた。
私とめぐるんはダクネスの方を振り返る。

「ねぇダクネス!呪いは、絶対に何とかしてあげるからね!だから、安心……して…………」

私とめぐるんが振り向く先には、何故かショボーンと残念そうな顔のダクネスと、胡座をかいた状態で、ジッと私とめぐるんのやり取りが終わるのを待っていたアクシズの姿。

アクシズが、何でもなさ気に言ってきた。

「……あ、終わった?その、盛り上がってる所悪いんだが……。ダクネスに掛かってた呪いなら、もう俺が解いたぞ」
「「えっ」」

私とめぐるんは、デュラハンみたいに素で返した。


To be continued…

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