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月兎。

第1部 18話

「……この屋敷かぁ」

街の郊外に佇む、一軒の屋敷。
店員の話では、部屋数は屋敷にしてはそれほどは無いと言っていたけど、なかなかどうして。
日本にある一軒家の数倍の大きさがあるその屋敷は、とある貴族の別荘だったらしい。
しかし、その貴族が突然この別荘を手放したそうだ。
そして売りに出されようとした所に、この悪霊騒ぎである。

「悪くないな!ああ、悪くない!この俺が住むのに相応しいじゃないか!」

アクシズが興奮した様に叫び、ダクネスとめぐるんも心なしか顔が紅潮している。
私が全額お金出したんだから、勿論私一人で住みますよなんて、とても言えない雰囲気だ。
まぁこんな広い屋敷に一人で住むつもりもないし、そんな小さい事言うつもりはない。
でも、一番良い部屋は私が貰おう。
浮かれるアクシズにダクネスが言った。

「しかし、本当に除霊が出来るのか?聞けば、今この街では払っても払ってもすぐにまた霊が来ると言っていたが。除霊が出来なくては、カズナがせっかく高い金を出したのに、この物件が無駄になってしまうぞ」

そう、私はほぼ全財産をはたいてこの屋敷を買った。日当たりは良く、大型の浴室と庭と悪霊まで付いた優良物件である。

「でも悪霊憑きとは言え、よくこんなお屋敷があの値段で買えましたね。小さな家ぐらいの値段でしたよ。もしかして、今回の街中の悪霊騒動が起きる前から問題がある、訳有り物件だったりして…………」

めぐるんが不安になる様な事を言った。
そ、そんな事はない筈だ。
……無い、だろう。多分。

「まぁ何にしても、たとえそんな問題物件だったとしても私達にはアクシズがいる。でしょ?大丈夫だよね、対アンデッドのエキスパート」

自分で言ってて不安になってくるが、ことアークプリーストとしての能力に関してはコイツは問題無い筈だ。
…………多分。

「任せろよ!……ほうほう。見える、見えるぞ!この俺の霊視によると、この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの間に出来た子供、その貴族の隠し子が幽閉されていたようだな!
やがて元々身体の弱かったその貴族の男は病死、隠し子の母親のメイドも行方知れず。この屋敷に幽閉されていた少女は、やがて若くして父親と同じ病に伏して、両親の顔も知らずに一人で寂しく死んでいったんだ!
名前はアンナ・フィランテ・エステロイド。好きな物はぬいぐるみや人形、そして冒険者達の冒険話!でも安心しろ、この霊は悪い子じゃない。俺達に危害は加えない筈だ!
おっと、でも子供ながらにちょっぴり大人ぶった事が好きな様だ。甘い酒を飲んだりしてたみたいだな。という訳で、お供えは酒を用意しとけよカズナ!」

ペラペラと、テレビに出てくるインチキ霊能力者みたいな事を口走り始めたアクシズだが、私はそんなアクシズを胡散臭いエセ霊媒師を見る視線で眺め、ダクネスとめぐるんに尋ねた。

「……ねぇ、どう思う?何でそんな余計な設定や名前まで分かるんだってツッコミたいんだけど。……アイツ、本当に大丈夫なの?
私、全財産はたいたんだけど、もしかして早まった事しちゃった?」
「「……………………」」

二人も私と同じ不安を抱えていたのか、私の質問には答えてはくれなかった。




夜半過ぎ。
私達は皆鎧などは脱ぎ、既に屋敷で寛いでいた。
不動産屋の店員に、自分達で除霊するからオススメ物件を売ってくれとねだり、売って貰ったのがこの屋敷だ。
既に私達は各自の部屋割りを決め、荷物なども屋敷に持ち込んでいた。
私としては、この屋敷には今日からアクシズが住み着く以上、悪霊の類は出て行ってくれるのではと、淡い期待を抱いていた。
出て行ってくれなくても、あれでいて一応アークプリーストにして神のアクシズだ。
自分の家が悪霊なんぞに好き勝手やられるのを放置しておく様なヤツではない。

私は自分の部屋として確保した、二階の一番大きな部屋で、わりと安心して休んでいた。

「あああああああッ!?うわぁああッ!!」

その、頼りにしていたアクシズの泣き声を聞くまでは。

「どうしたのッ!?ねぇアクシズ、何があったの!?大丈夫ッ!?」

私は慌ててアクシズの部屋の前に駆けつけると、そのまま部屋のドアをノックする。
返事が無いので、これはヤバい事態なのかと判断し、勢いよくドアを開けた。
そこには……、

「うっ…ううっ……カ、カズナァアアッ!!」

部屋の中央で、大事そうに空の酒瓶を抱え、泣いているアクシズの姿。
……おい。

「えっと、何があったの?てか、あんたは酒瓶なんて抱いて何してんの。酔っ払って奇声を上げたとか言ったら頭からクリエイトウォーターぶっかけて酔い醒ましてやるからね」
「ち、違うんだ!この空になった酒瓶は、俺が飲んだ訳じゃない!これは、大事に取っておいた凄く高い酒なんだ。
風呂から上がったらゆっくりチビチビ大事に飲もうと楽しみにしてたのにッ!!それが、俺が部屋に帰って来たら、見ての通り空だったんだよぉおおおおッ!!」

……寝よう。

「そっか、じゃあお休み。また明日ね」
「ああッ!?待てよカズナ!これは悪霊だ!悪霊の仕業なんだ!この屋敷に集まってきた野良幽霊か、この屋敷に憑いている貴族の隠し子の地縛霊か!そのどちらかに違いない!
ちょっと俺、屋敷の中を探索して目に付く霊をシバき回してくるわ!」

野良幽霊なんてもんがこの世界には居るのかと気になったが、除霊してくれると言うのなら別に止める必要も無い。

「……なんだ、一体何の騒ぎだ?」
「もう結構遅い時間なんですから、勘弁して下さい。何事なんですか?」

先ほどのアクシズの叫びを聞きつけて来たのだろう、ダクネスとめぐるんの二人がやって来る。

「コイツが、取っといたお酒を悪霊に飲まれたとか騒いでてね。除霊するとか言ってるんだよ。
そもそも何で悪霊がお酒なんて飲めるんだよとか色々ツッコミたいんだけど、めんどくさいから私はもう寝る。後はあんたらに任せた」

私が部屋に戻ろうとするとアクシズが後ろから罵倒してくるけど、そんな事はどうでもいい。
とっておきのお酒を飲んでしまう程度の悪さしかしない悪霊なら、放置しといても問題ないでしょ。




一体どれほど眠ったんだろう。
私は、ふと夜中に目が覚めた。
屋敷の中は静まり返り、今は恐らく深夜はとっくに回っているだろう。
……トイレ行きたい。
私は寝ていたベッドから起き上がろうと……。

して、その体が動かない事に気がついた。
……えっと、何これ。金縛り?
声を出そうとしてみてもくぐもった声が出るだけで、アクシズに助けを求める事も出来ない。

私は大変な事に気がついた。
尿意が大ピンチである。

あかん、シッカリしろ、私はもう高校生だ!
大人になって漏らしても良いのは、特殊なお店とお婆ちゃんだけだ!
私は身動きが取れない状況で、歯を食いしばって耐えていると、部屋の隅から音が聞こえた。

カタンッ。

その音は、静まり返る屋敷の中でとても大きな音に聞こえた。
その音に、身動きが取れない私は視線だけを部屋の隅へと向けて見る。
部屋の隅の暗がりには。

一体何故そこにそんな物があったのか、小さな西洋人形が置かれていた。

「………ッ!!」

私は無意識の内に唾を呑む。
嫌な汗が止まらない。
何だろう、なんであんな所に人形があるんだろう。
私はあんな物置いといた記憶は無いし、私が寝てる間にアクシズが嫌がらせでもしようとコッソリ置いといたんだろうか。
うん、そうだね。きっとそうだ。
あの駄目神め、朝になったらこっ酷い目に合わせてやる。

私は勝手にアクシズのせいだと結論付けると、そのままキツく目を瞑って現実逃避に走る。

カタンッ。

嫌でも部屋に響くその音に、私は目を瞑ったままどっと汗を掻いた。
うん、あれだね。
何でもかんでもアクシズの所為にするのは可哀想だ。そう、何だかんだ言って日頃アイツも頑張ってるんだ、たまには優しくしてやろう。

カタンッ。

なんせ神様だからね、うん。
そう、この屋敷にはその神が付いてる。
悪霊?何ソレ、そんなもんアクシズさんに掛かっちゃ吹けば飛ぶ様なチョロいもんだろ、なんせウチのアクシズはリッチーですら消滅しそうになったんだよ?

カタンッ。
カタンッ。
カタンッ。

ああ、朝になったらアクシズに今までの事を謝ろう、そうだ、ミツルギが言っていた事じゃないけど私は確かに神様に対してちょっと扱いが雑過ぎたね、うんあれだ、反省してる、反省してます。

カタカタカタカタッ、ガタガタガタガタッ!

あああああああああマジで今までの事全部謝るから!謝るから、どうかアクシズ様助けて下さいッ!!

………………私の懺悔と祈りが届いたのか、あの部屋の隅から聞こえていた音が止んでいた。良かった、やっぱり悪霊なんて居なかったんだ。
私は少しだけ安心する。

…………目を開けたい。

目を開けて、さっきの人形が今どうなってるのか確認したい。
しかし、私の勘みたいな部分が全力でそれは止めとけと囁いている。

どうしよう、マジで気になる、けど開けるの怖い、でもこのままも怖い!

私は暫くの間悩みに悩み、このままではトイレにも行けない事を思い出す。
私は意を決して、うっすらとその目を開け…………。




そして、私のすぐ目の前で私の顔を覗き込んでいる西洋人形と目が合った。

「嫌ぁあああああああああああああああああああああッ!!」

私は魂を搾り出す様に絶叫を上げると、途端に動く様になった身体で目の前の人形を払いのけた!




「アクシズゥウウ!アクシズ様ぁあああああッ!!」

私はアクシズの部屋へと廊下を裸足で走っていた。背中に、何者かが追って来る音を聞きながら。
怖い怖い、超怖い!
ナニコレ、何でこんな事になってんのッ!?
私はアクシズの部屋の前に着くと、ノックもせずにそのまま部屋に飛び込んだ。
そして慌ててそのままドアを閉め、部屋のドアに鍵をかける。

ガダンッ!

一拍置いて、ドアに何かがぶつかる音。
それをドア越しに背中に聞きながら、私は部屋の中に視線をやった。

そこにはアクシズの姿は無く。
黒髪の黒服の少年が、部屋の中央に座り込んでいた。

「きゃぁあああああああああ!」
「うわぁあああああああああ!」

思わず悲鳴を上げる私に、目の前の黒髪の少年も悲鳴を上げる。その聞き覚えのある声によく見ると、それはいつものローブ姿のめぐるんだった。
私とめぐるんは一頻り叫んだ後、少しだけ落ち着きを取り戻す。
ドアの外では、ドアに何かがガツガツとぶち当たる音。何がドアにぶち当たっているのかは怖いから考えたくはない。

「お、脅かさないでよめぐるん、危うく漏らすとこだったじゃん」
「それは此方のセリフです!何でカズナがこの部屋に飛び込んで来るんですか、アクシズが帰って来たのかと思ったのに……」

そのめぐるんの言葉にハタと気付く。

「そういや、何でアクシズの部屋にめぐるんが?いや、アクシズはどこ行ったの?」

私の言葉に、めぐるんは。

「う……。いや、その……。人形が、ですね。その、あちこちで動いておりまして」

ああ、めぐるんも私と同じ目に合ったのか。

「それでですね。………その……アクシズに、身の安全を守ってもらうのと、………一緒にトイレに……と思いまして…」
「……あんたもか…」

私のその呟きに、めぐるんも私が同じ目に合った事を察したらしい。

「カズナも人形に追いかけられたんですか。多分アクシズは、ダクネスと共にこの屋敷内の除霊を行なっているのではと思います」
「……アクシズはともかく、ダクネスは……、ああ、そういえばアイツ、アレでクルセイダーなんだったね」

あまりそうは見えないが、本来クルセイダー、聖騎士とは神に仕える騎士にして敬虔な神の信徒。
プリースト程ではないけど、確か神聖な力も使える筈だ。
あの守り馬鹿のダクネスが魔法系のスキルを取っているとは思えないが、スキルが無くとも神への祈りの真似事ぐらいは出来るのだろう。

しかし、そうなると私とめぐるんは今、困った状況に置かれている事になる。
咄嗟の事で武器の類は部屋に置いて逃げてしまった。
見ればめぐるんも杖など持たず、手ぶらのままだ。
杖を持っていてもこんな所で爆裂魔法を唱えられてはたまらないけど。
この状況をどうしようかと悩んでいると、めぐるんが何かに気付いた様に言ってきた。

「カズナ、ドアの外の音が止んでます。今ならドアの外に人形はいないのでは?」

そう言えば、既に音は止んでいた。
しかし、正直言って出るのが怖い。
仮にもリッチーを退けられるアクシズが、あんな人形如きにやられるとは思えない。
となれば、このまま部屋でジッとしてればアクシズとダクネスがじきに除霊を完了させるだろう。
しかし一つだけ問題がある。

「……ねぇめぐるん、ちょっとドアの方向いて耳塞いでて。失礼して、アクシズの部屋のベランダから……」

私が一つだけある問題を手っ取り早く解決させようと、寝間着のズボンに手をかけ、ベランダに出ようと……。
する私を、行かせまいとするかの様に後ろからめぐるんが腰に抱き着いて来た。

「……ちょっと、何してんの。放してよ、さもないと私のズボンとアクシズの部屋の絨毯が大変な事になる」
「行かせませんよ、何一人でスッキリしようとしてるんですか。僕達は仲間じゃないですか、トイレだろうと何処だろうと、逝く時は一緒です……」

めぐるんが、そう言ってニコリと微笑を……。

「ええい放せ!こんな時だけ仲間の絆を主張するんじゃない!紅魔族はトイレ行かないって言ってたじゃん!なんならそこに空いた酒瓶が転がってるから!」
「今とんでもない事口走りましたね!その空いた酒瓶で僕にナニをしろとッ!?させませんよ!僕でも、カズナが用を足そうとしてる所を、後ろから揺らしてやるぐらいは出来ますか…ら……ね…………」

途端に尻すぼみになっていくめぐるんに、私は不審に思い、めぐるんを見る。
そしてめぐるんが、私が出ようとしていたベランダの窓の方を凝視している事に気が付いた。
嫌な予感がしつつもそちらを向くと。

そこには、案の定と言うべきか、予想外と言うべきか。
ベランダの窓にビッシリと張り付いた、大量の人形が此方を見ていた。

「「ぎゃぁあああああああああ!」」

私とめぐるんは同時に叫び、二人仲良く部屋から飛び出し、駆け出した。




「ううっ……カズナ、居ますか?離れないで下さいよ?」
「居るよ、ちゃんと居るし、もし人形が出ても一人で置いてったりしないから早くして」

屋敷の中を駆け、私とめぐるんは近場のトイレに逃げ込んだ。もう二人共、自分の身体に言い訳が出来ない程に限界だったからだ。
先に用を済ませた私は、めぐるんが出てくるのをドアの前で待っていた。
私が何処かへ行くのが怖いのか、先ほどからしきりに話しかけてくる。

「……あの、カズナ。流石にちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれません?」
「何が悲しくてこんな深夜にトイレの前で私が歌わなきゃいけないの!どうせこれから野外やダンジョンで何度もこんな状況あるでしょ!」

めぐるんにツッコミつつも、実は待ってる私も微妙に気恥ずかしいので、仕方なく歌い出した。
歌といっても日本の歌しか知らないので、適当にお化けなんてないさを大声でアカペラで。

「……ふぅ。えっと、もう良いですよカズナ。聞いた事も無い、随分変わった歌ですね?前から思ってたんですが、カズナって何処の国出身の人なんですか?」
「夜中にトイレの前で歌う風習がある、日本って言う素敵な国の出身だよ。ほら、行くよ。さっさとアクシズを探して合流しよう」

適当な事を言う私の後を、無言でペタペタとついてくるめぐるん。
とにかく今の状況では、私とめぐるんは悪霊に対して何の抵抗も出来ない。
一刻も早くアクシズ達と合流したい。

……と、その時だった。
私とめぐるんがトイレの手洗い場から廊下に出ようとしたその時。

カタ……カタ……カタ……カタ……

嫌な音が聞こえ、私はトイレの手洗い場のドアの前でそっとたたずむ。
隣ではめぐるんが、私の腰にギュッと抱き着いてきたので、私も震えながら身を寄せる。
怖い、人形マジ怖い。
あんな人形に殺されるなんて事は流石にないだろうけど、夜中に西洋人形に追いかけられるというのは冗談じゃなく恐怖だった。

「たたたた、太古の真名の名において、原初の力を解き放て……!」
「コラッ、あんた何唱えてんの!この屋敷ごと吹き飛ばす気ッ!?」

爆裂魔法の詠唱を始めためぐるんの口を塞ぎ、そのまま暴れない様に身体を押さえる。

あの、カタカタ言う音がドアの前で止んでいた。震えながら私の手を掴み、私の顔を見上げるめぐるん。
ああもう、やるしかないか!

「めぐるん、ドアを開けたら走って!私は多分効かないとは思うけど、不死王の手で麻痺が効くか触ってみる!人形の攻撃喰らっても、死ぬ様な事はないでしょ!」

私が叫ぶと、めぐるんは口を塞がれたままでコクコクと頷いた。
行くよ!

「うらぁッ!!掛かってこいこの悪霊がぁああああッ!!後でウチの狂犬神けしかけてやんぞコラァアアアッ!!」

叫びながらドアを勢い良く押し開けると、ゴッ!!と何かがドアにぶち当たる。
しめた、追ってきた人形を今ので吹き飛ばしたかもしれない。
私はめぐるんの手を掴み、ドアの外へと飛び出すと、そのまま一気に駆け抜けようと…………!

「お、おいアクシズ、大丈夫かッ!?」

駆け抜けようとした私は、ドアの前に顔を押さえてうずくまるアクシズと、傍に力を失い転がる人形、そして、アクシズに声を掛けるダクネスの前で固まった。




「ふぅ、これでよし、と。結構居たなぁ、結局朝までかかっちまったじゃねぇか」

アクシズが、人形に憑いた最後の悪霊を浄化して、少しずつ白んできた窓の方を見て呟いた。
流石は対アンデッドのエキスパート。
この広い屋敷の悪霊を、一晩で退治してしまった。

「……ん、一応ギルドに行って報告した方が良いだろう。クエストを受けた訳ではないが、不動産屋がギルドに相談していた案件だ。
街の悪霊屋敷の一つを浄化した事で、臨時報酬ぐらいは貰えるかも知れない。それに、この街に急に悪霊が増えた原因も知りたいしな」

ダクネスの言葉に全員が頷いた。
全員でジャンケンして、誰が報告に行くかを決める。明るくなってしまったので、このままギルドに報告に行く事になったのだ。
当然、皆徹夜で除霊していた為、誰もが報告になんて行きたくないし、正直私だってこのまま寝たい。

が、いつもの私の運の良さはどうしたのか、私とアクシズが負けてしまった。

渋々ギルドに向かう私とアクシズは、道中に屋敷の悪霊の話をしていた。

「ところで、屋敷に憑いた貴族の隠し子って話はどうなったの。私達には危害は加えない、悪い霊じゃないって話じゃなかったの?」

アクシズがその言葉にポンと手を打ち。

「ああッ!!そういえばそんな子も居たな!安心しろ、今回の件はどこからともなくやって来た野良幽霊の仕業だったから。
でも俺の高級酒を飲んだのは、多分貴族の隠し子の方だと思うんだ!なぁカズナ、飲まれちまった酒、除霊の必要経費って事で……」

私は何か言っているアクシズを無視して、ギルドのドアに手を掛けた。

「おはようございます。ちょっと早いんですが、報告したい事があるんで良いですか?」

早朝だと言うのに、受付には人が居た。

「はいはい、何でしょうか?」

私とアクシズは屋敷での出来事を説明すると、受付のお姉さんはアクシズの冒険者カードを見て、なるほどと頷く。
そういえば、冒険者カードには倒したモンスターの情報や数が記録されるんだったね。
多分、以前クエストを受領した時より、倒した悪霊の数が増えているのか等を確認したのだろう。

「はい、分かりました。確かにこの案件では、悪霊退治の依頼と言う事で不動産屋から依頼を受けております。
屋敷の持ち主はカズナさんになった様ですが、街に居るモンスターを退治したと言う事で。わずかですが、臨時報酬が出ます。ご苦労様でした」

その言葉に、私とアクシズが無言でガッツポーズを取った。
受付のお姉さんは尚も続ける。

「苦労をかけて申し訳ないです。悪霊が急に増えた原因なんですが、分かりましたよ。街の共同墓場があるじゃないですか?あの墓場に、何者かが悪戯か何かで、神聖属性の結界を張ったんですよ。
それで、墓場で発生した霊が行く所を失って、街の中の、人の居ない空き家等に住み着いたみたいで……」

それを聞いたアクシズが、ビクンと震え、動きを止めた。
…………?

「ちょっと失礼」

私は受付に言って、アクシズをギルドの隅に無言で引っ張って行く。

「……ねぇ、心当たりあるよね?言って」
「…………はい。ウィズに、墓場の迷える霊を定期的に成仏させて欲しいって頼まれてたじゃないスか。でも、しょっちゅう墓場まで行くのってめんどくさいじゃないスか。
それで、いっそ墓場に霊の住み場所をなくしちまえば、その内適当に空気に散って居なくなるかなぁって……」

つまり、手抜きしたこの馬鹿の所為でこの街に居場所を失った霊が迷い込んでいた訳だ。
要するに今回の騒動は、私達が霊を屋敷に放ち、値段を下げさせ、安く買った所を除霊した訳で。
………なんというマッチポンプ。
これはどう考えてもダメだな。

「……ねぇ、ギルドからの臨時報酬は受け取らないから。良いね?」
「………はい」

申し訳無さそうな表情で、素直にコクリと頷くアクシズ。

「後、私と一緒に不動産屋に謝りに行くよ。詐欺みたいなものだからね」
「……………はい、本当にスンマセン」

私とアクシズはギルドを後にし、不動産屋に……。

と。途中で私達が買った屋敷の傍で、昨日の不動産屋の店員が、同じく不動産屋の店員と思われる女性を連れている所に出会う。

「これはこれは。どうなったか心配で、今朝早くに屋敷へ様子を見に行ったのですが。無事、除霊は済んだ様ですね」

にこやかな笑顔で言ってくる店員が、私達の心配をしてくれていたと知り、私は居たたまれなくなった。
私とアクシズは事情を話し、除霊の済んだ屋敷を返す事を店員に告げる。

……が。

「なるほど。……でも、出来れば今後もあの屋敷に住んで頂けると有り難いのですが。なにせあの屋敷は広い分、他の物件よりも大量の悪霊が住み着いて暴れておりましてね。お陰で随分と悪評が……」
「「スンマセンしたッ!!」」

私とアクシズが地に頭を付けて土下座すると、店員が慌てて言ってきた。

「ああ、いいですいいです!頭を上げてください!ええっと、こうしましょうか。貴方達はこのまま暫く、あの屋敷に住んで下さい。貴方達はあの屋敷を除霊出来たと言う事は、よほど実力のある冒険者なのでしょう。
冒険者に貢献するのは、この街の住民の義務ですよ。そして、貴方達に長く住んで頂ければ、悪霊屋敷の評判もいずれは消えます。
その時は、まぁ、屋敷を引き払う時には再び我々に売って頂ければ、と言う事で……」

店員さんの太っ腹な条件に、私とアクシズは再び地面に土下座する。

「ああ、止めて下さい止めて下さいッ!!」


† † † † † † † † †


何度も頭を下げながら屋敷へ帰る、カズナとアクシズを見送り。

「……社長、これで良かったんですか?」

そのまま、屋敷を遠く見つめる女の店員が呟いた。それに、社長と呼ばれた店員が笑う。

「アンナ・フィランテ・エステロイド。あの屋敷の元の持ち主の貴族の令嬢の名だ。……その令嬢の遺言でね。
身体が弱くて外に出られなかった自分の代わりに、自分の死後は屋敷を、外の世界を見て回れる、冒険者達に売って欲しい。
そして、楽しそうに冒険話をするその様子を見守っていたい。それが彼女から、あの屋敷をタダで譲り受けた条件だ」


これで漸く、彼女との約束が果たせたよ。
不動産屋の社長は、そう言って秘書に笑いかけた。


To be continued…
第1部完

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