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月兎。

第1部 11話

リッチー。

それは、有名なアンデッドモンスター、ヴァンパイアと並ぶアンデッドモンスターの最高峰。
長い時を経た大魔法使いが、魔道の奥義により人の身体を捨て去った、ノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王。
強い未練や恨みで自然にアンデッドになってしまったモンスターとは違い、自らの意思で自然の摂理に反し、神の敵対者になった存在。

その、ラスボスみたいな超大物のモンスターが。

「や、やめやめ、やめてぇえええええッ!!誰なのッ!?いきなり現れて、なんで私の魔法陣を壊そうとするのッ!?やめて!やめて下さいッ!!」
「うっさい、黙れアンデッド!どうせこの妖しげな魔法陣でロクでもない事企んでるんだろ、なんだよ、こんな物!こんな物ッ!!」

ぐりぐりと魔法陣を踏みにじるアクシズの腰に、泣いてしがみつき止めていた。
リッチー?の取り巻きのゾンビみたいなアンデッド達は、そんな揉み合う二人を止めるでもなくボーっと眺めている。

……えっと、どうしよう。
とりあえず、ゾンビメーカーではなさそうだけど。
アクシズは絡んでいる相手をリッチーだとか言い張っているが、何だかリッチーが、チンピラか何かに因縁付けられてるイジメられっ子にしか見えない。

「やめてぇえ!やめてぇえッ!!この魔法陣は、未だ成仏できない迷える魂達を、天に還してあげる為の物です!ほら、沢山の魂達が魔法陣から空に昇って行くでしょうッ!?」

リッチーの言う通り、何処から集まってきたのか、青白い人魂の様な物がふよふよと魔法陣に乗り、そのまま魔法陣の青い光と共に、空へと昇って行く。

「リッチーのクセに生意気な!そんな善行はアークプリーストのこの俺がやるから、お前は引っ込んでろ!見てろよ、そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごと纏めて浄化してやるッ!!」
「ええッ!?ちょ、やめッ!?」

アクシズの宣言に、慌てるリッチー。
アクシズが手を広げ、大声で叫んだ。

「『ターンアンデッド』!」

墓場全体が、アクシズを中心に白い光に包まれた。
アクシズから湧き出す様に溢れるその光は、リッチーの取り巻きのゾンビ達に触れると、ゾンビ達が掻き消す様にその存在を消失させる。
リッチーの作った魔法陣の上に集まっていた人魂も、アクシズの放った光を浴びていなくなった。
その光は勿論リッチーにも及び……。

「ぎゃぁあッ!!か、身体が消えるッ!?止めて止めて、私の身体が無くなっちゃうッ!!成仏しちゃうッ!!」
「あはははははは、愚かなるリッチーよ!さぁ、俺の力で欠片も残さず消滅するがいいッ!!」

「やめてやれこの馬鹿」

いつの間にかアクシズの背後に立っていた私は、アクシズの後頭部をダガーの柄でゴスッと殴った。

「いぎゃぁあッ!?い、痛、痛ぇじゃねぇか!お前何してくれてんだいきなり!」

後頭部を強打されて集中を途切れさせたのか、アクシズが白い光を放つのをやめ、頭を押さえながら涙目で私に食って掛かる。
ダクネスとめぐるんの二人もやってきた所で、私は首根っこを掴み持ちあげてくるアクシズを無視して、頭を抱えて震えながらうずくまるリッチーに声を掛けた。

「ねぇ、大丈夫?えっと、リッチー……でいいの?あんた」

見ると、リッチーの足元が半透明になっており、軽く消えかかっている。
やがて徐々に半透明になっていた足がくっきりと見える様に戻り、涙目のリッチーがフラフラしながら立ち上がった。

「だ、だ、大丈夫です……。あ、危ない所を助けて頂き、ありがとうございました…ッ!!えっと、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」

そう言って目深に被っていたフードをはね除けると、現れたのは月明かりに照らされた二十歳位にしか見えない茶髪の美女だった。
リッチーって言うからには骸骨みたいなのを想像してたんだけど。ウィズは黒いローブとマントをはおり、さながら悪の魔法使いみたいな格好だ。
いや、リッチーなら悪の魔法使いでいいのかな?

「えっと……ウィズ?あんた、こんな墓場で何してるの?魂を天に還すとか言ってたよね?アクシズじゃないけど、リッチーのあんたがやる事じゃないと思うよ?」
「おいカズナ!こんな腐ったみかんみたいなのと喋ったら、お前までアンデッドが移るぞ!ちょっとソイツに、ターンアンデッド掛けさせろ!」

私の言葉にアクシズがいきり立ち、ウィズに魔法を掛けようとする。ウィズが私の背後に隠れ、怯えた様な困った顔をしながら、

「そ、その……。私は見ての通りのリッチー、ノーライフキングなんてやってます。それで、アンデッドの王なんて呼ばれてる位ですから、私には迷える魂達の話が聞けるんです。
そして、この共同墓地の魂の多くはお金が無い為ロクに葬式すらしてもらえず、天に還る事なく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデッドの王な私としては、定期的にこの墓場を訪れ、天に還りたがっている子達を送ってあげているんです」

……ほろりときた。
いい子だ。
恐らく、店の店員とかを除き、私がこの世界に来て初めて出会ったマトモな人だ。
いや、人間じゃないけど。

「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだけど……。アクシズじゃないけど、そんな事はこの街のプリーストとかに任せておけばいいんじゃない?」

私の疑問に、ウィズが言いにくそうに憮然としたアクシズをチラチラと気にしながら。

「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金が無い人達は後回し……と言いますか。その……、あの……」

アークプリーストのアクシズがいるので言いにくいのだろう。

「つまりこの街のプリーストはお金儲け優先の者が殆どで、こんなお金の無い連中が埋葬されてる共同墓地なんて、供養どころか寄り付きもしないって事?」
「え……えと、そ、そうです……」

その場の、全員の無言の視線を受けたアクシズが目を逸らす。

「それはまぁ仕方ない。でも、ゾンビを呼び起こすのはどうにかならないの?私達が此処に来たのって、ゾンビメーカーを討伐してくれってクエストを受けたからなんだけど」

私の言葉に、ウィズは困った表情を浮かべ。

「あ…そうでしたか……。その、呼び起こしている訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力で勝手に目覚めちゃうんです。
……その、私としてはこの墓場に埋葬される人達が、迷わず天に還ってくれれば此処に来る理由も無くなるんですが……。
………えっと、どうしましょうか?」


† † † † † † † † † † †


墓場からの帰り道。

「納得いかねぇ!」

アクシズは未だに怒っていた。
時刻は、既に空が白みがかってくる時間帯だ。

「仕方ないでしょ。てか、あんな良い人退治する気にはなれないでしょうに」

私達は、あのリッチーを見逃す事に決めた。
これからは毎日暇を持て余しているアクシズが、定期的にあの墓場に浄化に行くと言う事で折り合いがついた。
そこは腐っても神、アンデッドや迷える魂の浄化はちゃんと自分の仕事だと理解はしているらしい。
酒飲む時間が減るとか駄々をこねていたが。
モンスターを見逃すという事に若干抵抗があっためぐるんとダクネスも、ウィズが今までに人を襲った事がないとの事で、ウィズを見逃す事に同意してくれた。

私は、一枚の紙切れを眺めながら呟く。

「まさか、リッチーが街で普通に生活してるなんて。街の警備はどうなってんの」

一枚の紙切れ。
それは、ウィズの住んでいる住所が書かれた紙。あのリッチーは私達が住む街で普通に生活しているらしい。
というか、小さなマジックアイテムの店を営んで普通に人として生活しているそうな。
リッチーってダンジョンの奥深くに居るイメージがあったんだけどと言ったら、生活や魔法の研究に不便なダンジョンに、態々住む必要性がありませんよと言われた。

いや、リッチーだって元は人間なんだから言ってる意味は分かる。
分かるんだけど、この世界に来てから私の持っていた異世界観がどんどん破壊されていってる気がする。
と言うか、私が期待してた異世界じゃない。

「しかし、穏便に済んで良かったです。いくらアクシズがいると言っても、相手はリッチー。もし戦闘になってたら僕やカズナは間違いなく死んでたでしょうし」

何気なく言うめぐるんの言葉にぎょっとする。

「げ、やっぱリッチーってそんなに危険なモンスターなの?ひょっとしてヤバかった?」
「ヤバいなんてものじゃないです。リッチーは、魔法を極めた人が行なう禁断の儀式で成れる存在ですから。強力な魔法抵抗力に魔法の掛かった武器以外の物理攻撃の無効化能力。
相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する、絶大な魔力で敵をなぎ払うアンデッドモンスター。
多分、爆裂魔法だって使えますよ。寧ろ、何故そんな大物にアクシズのターンアンデッドが効いたのかが不思議でなりませんよ」

軽く気絶しそうになる。
そうだよね、アンデッドモンスターの元締めみたいなもんだよ。
リッチーのスキルを教えてくれるって言われたから喜んで名刺貰ったけど、スキルを習いに行く時は必ずアクシズを連れて行こう。

「カズナ、その貰った名刺渡せ。ちょっとあの女より先に家に行って、あの女の家の周りに神聖属性の結界張って涙目にしてやるから」
「や、やめたげてよ……」

やっぱりアクシズは連れて行かない方がいいかもね…。
私がそんな事を考えていると、ダクネスがぽつりと言った。

「そういえば、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるんだ?」
「「「あっ」」」


私達は駆け出しですら達成出来るクエストに失敗した上級職の多いパーティとして、暫く笑い話のネタにされる事になりました。


To be continued…

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