物知り執事ルアン君の、長い長い話
#3 はじめてのこと
「さて、坊っちゃん。出かけましょう」
僕は庶民的だという服を着せられた。
いつもきちっとしたスーツだからか、すかすかして違和感があった。
「なあ、ルアンなんとか。ショウテンガイっていう場所にはなにがあるんだ?」
「ははっ、ルアンでいいですよ。商店街はいろんな種類の店が並んでいます。食事もできますよ。予定としては、昼前には帰ってきたいですが。」
こいつはなにがしたいんだと、ずっと思っていた。庭で運動をしているから歩くのには慣れているが、いつも歩く道ではないのが緊張感をもたらした。
「坊っちゃん、いいですか?私たちは兄弟という設定にいたしましょう。お金持ちの家系だとバレると、高いものを無理矢理買わせる店がありますから」
あまり何を言ってるかは分からなかった。なにせ、僕は勉強はしているが世の中のこと、町、国、人々のことなどを全く知らない。知ろうとしたことはなかった。
要するに、世間知らずってやつだ。
「着きました。ここです」
店は古臭くてぼろぼろで、目を疑った。
「こんなところでなにを買うんだよ。早く帰りたいんだが」
「今晩の夕食の材料を買おうと思いまして。スーパーに行くよりここで買った方が新鮮なんですよね〜」
ルアンは楽しそうだったが、僕は全く楽しめなかった。なにがしたいんだって怒鳴りたくもなった。
夕食の材料なんて買わなくても屋敷の大型冷凍倉庫に山ほどあるし、こんな安物をわざわざ買わなくてもいいだろう。
「お坊ちゃん、お会計してみますか?お金どうぞ」
渡されたのは千円札2枚。
千円札を見ることはあまりない。
貰う小遣いも一万円札だ。
こんな小さな金で会計をするなんて、面倒くさいんだな。
「いらっしゃいませ。」
店員の女はにこりと笑みを浮かべた。
どうせ「営業スマイル」ってやつだろう。
庶民は嘘をつく。そうやって金儲けのために作り物の自分を作り出す。
「ん。これを買う」
僕は少し背伸びをして会計の台に野菜をごろっと乗せた。
「人参が2本と、じゃがいもが3つと、キュウリが2本で、400円………なんだけど、僕、買いに来てありがとう。ちょっと割引しちゃうよ」
そういうと、360円だと言ってきた。
小さい金なんだから割り引いたりなんかしなくていいのに。もっと自分のために儲かるようにすれば………
「また来てねっ」
店員の女はにこにこ笑って、手を振ってきた。僕はぺこっとお辞儀をして、ルアンの
いる方に逃げるように走っていった。
 
商店街から帰る帰り道。
僕はなんだか気分が上がっていた。
庶民は皆一緒だと、考えを決めていたが、あの女のように、優しい感情で笑みを客に対して浮かべるような人がたくさんいるんだろうな。
「よーし!今晩の夕食は、坊っちゃんと私で作りましょうねっ!」
「は………はぁぁあ!?」
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