物知り執事ルアン君の、長い長い話
#1 わがままな僕
「お坊ちゃま、もう朝ですわ!お目覚めにならないと学校に遅刻してしまいます!」
僕の1日は、このおばさんメイドの高い声で始まる。
小学校なんて庶民的なところにあるなんか行きたくないってのに、何度拒否しても毎日毎日学校に間に合う時間に起こそうとしてくる。
結局その説得を聞いて学校へ行ったことはないんだがな。
うちで一流の家庭教師を雇っているし、うちで働く執事は頭脳明晰、容姿端麗だ。
屋敷の中には人がたくさんいるし、ペットだっていっぱい飼ってる。
だから、友人もいらんのだ。
「全く…お坊っちゃま、朝食のご用意が完了しております。着替えはここに置いておきますわね」
そう言うと、メイドはさっさと部屋を出ていった。
どうせ今日も面白くないいつも通りの生活をさせられるんだろう。
つまらない……なにかおおごとが起きればいいのだがな。
すると部屋に、僕が生まれた時からうちで働いていた爺ちゃんの執事が入ってきた。
腰は曲がって、杖をついて歩いている。
歳とってんのにそんな無理してまで働かずとも、いっそのこと辞めればいいのに。
その方が絶対にいいのに。
まぁでも、なかなか若い執事を雇うのが難しいらしいから、仕方がないことではある。 
「晴人坊っちゃま、お食事にご案内いたします」
「あぁ。ありがとう。今日は食事場所が違うのか?」
「はい…。実は、新しく執事が此処に来るのです。その執事の指示で、食事場所を変えろと……」
「は、はぁあ?何だその身勝手なやつ」
新しく執事が雇えたのは喜ばしいんだろうが、まだ屋敷に来てもいないってのにそんな勝手に支持するなんて、何がしたいんだ?そいつは。
どうせまたある程度歳をとった執事か、若くても40代だろ。
「晴人坊っちゃま、着きましたよ。第2広場にテーブルと椅子を置かせていただきました」
外で食事をするのは初めてだ。
…いや、1度外で食べたことがあったか。
少し場所が変わっただけなのに、不思議と気分が上がった。
僕は腕に着替えをかけたまま、じっと固まったままだった。
「その新しい執事ってのはいつくるんだ?」
僕はパジャマを脱ぎながら、ぶっきらぼうに聞いた。
「今日着くと連絡がきているのですが…。あいつは本当にろくなことをしない…」
最後に執事がぼそっと言った言葉で確信した。次に来る執事というのは、失礼だが、今いる執事らより若いだろうし、普通じゃなさそうだ。 
「へぇ、まぁいいんじゃないか。僕も丁度、普通な生活を捨てたいところだったからな」
そう行った頃には、もう着替え終えていた。赤いネクタイに白いシャツ。ピシッとした長ズボンに、つやつやの革靴。
このスーツ姿が、僕の正装だ。
「せっかく食事を用意してもらって悪いが、僕はその新しい執事とやらが気になる。ちょっと迎えに行ってくるよ」
そう言って歩き出した時、誰かにボフッとぶつかった。すごく背が高いのか、頭がぶつかった位置が下っ腹あたりだ。
「ふふふ…見つけましたよ坊ちゃん」
黒いマントに身を包めた高身長の男は不気味な笑いを見せた。
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姉川京
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