魔王の世界征服日記

Leiren Storathijs

第32話 転生者

俺は、目が覚めると、いつもの王宮の玉座に座っていた。

目の前には、何も変わらぬウルフが座っていた。

あの後何があったんだ?

俺は、戦王の国へ交渉しに行こうとしたら、戦王の威嚇をフロガが返し、すぐに戦争となった。

戦王の力は、想像以上で、瞬く間に俺の戦力は半数以下となってしまった。

俺は、どうにか戦王の隙を狙い、反撃する事が出来たが、その逆転は一瞬にしてひっくり返され、俺も動けなくなる程の窮地となってしまった。

そこで、俺の右腕ウルフがいつぞやの村長を殺された時の様に覚醒し、戦王は突然の攻撃に対応出来ず、その場でウルフに喰われた。

しかし、一つの国の王が降伏するなら未だしも、殺されるなんぞ前代未聞なので止めようとしたが、俺は、戦王からくらった一撃が重く、何も出来ずそのまま意識が飛んだ。

そして現在に至る。

俺は何故王宮にいる?結局戦王はどうなった?

俺は、頭を抱え、悩んでいると、聞き慣れた轟音と、辺りに金属の瓦礫が飛び散る。

フロガが城門をぶち破って来た。

「しゃおらぁ!魔王!目覚めたか!」
「お前生きてたかのか......てか何度言えば......」
「おうよ!戦王は、俺が死んだとてっきり思ってたらしいが、俺様の生命力は舐めない方が良いぜ?それより、毎回思うんだが、もっと扉の強度強めた方が良いんじゃねぇか?」
「どんなに強くしても、蹴り飛ばしたら壊れるわ!」

ったく......とにかく今の状況を知りたい。誰か知る者は居ないのか?

そこで、扉の瓦礫を跨ぎながら、将軍が入って来た。

将軍は、ボロボロになった男を担ぎ、引きずっていた。

「扉が壊れてるって事は、魔王が目覚めた合図だろう。魔王よ、安心しろ。戦王は生きている」

将軍に担がれている男は戦王だった。

担がれている戦王は、呼吸が上手く出来ていないが、目だけ俺を、睨んでいた。

「......魔王め......貴様に二度も負けるとは、これ以上の屈辱は無い......今すぐにでも、この場で切り刻んでやりたい気分だが......そうもいかなくなってしまった」
「魔王、戦王は、魔王がなかなか帰ってこないから、俺が見に行った所、ウルフが噛みちぎっている所を見たんだ。あと少し遅ければ、死んでいただろう」
「で?『そうもいかない』とはどういう事だ?お前なら能力で復帰してこの場を逆転できるんじゃ無いのか?」
「フハハハ......我が王国が魔王が立ち去った瞬間、謎の集団に奪われてしまった......私が負けた以上、魔王の計画に則り、王国を受け渡すつもりでいたが、王国を取り戻すまでは協力しないか?」
「却下だ」

俺は、真顔で即答する。

「何!?」
「どうせ取り戻したら、もう一度俺と戦わないか?って言うんだろ?あんな痛い思いは嫌だもんね」
「そうか......まぁ、謎の集団の詳細を聞けば分かるだろう」

将軍は、俺に集団について説明を始めた。

「戦王と魔王の救出の直後、百人程の集団に出会ったんだ。全員、武装をした特殊部隊の身なりで、そこのリーダーと思われる者が、『我々は此処を占拠した。直ちに出て行って欲しい』と俺に言ったんだ。特に手荒な真似はされなかったが、あんな服装見た事ないし、本当に正体不明だった。しかし、一つ確かな事がある。彼らは自らの事を、『転生者』と名乗っていた」

転生者だと!?転生者ってあの転生者か!確かそれは、武の持っていた小説たる本に載っていた言葉だ!

本には、とあるきっかけで自分の居た世界とは別の世界。異世界に転生し、転生したものは、様々な恩恵が受けられるって奴だ!!

恩恵とは即ち、チートが多いらしいが、これが本当だったら厄介な事になるぞ......

「魔王、そんなに顔を青ざめてどうしたんだ?」
「どうやら、絶対に喧嘩を売ってはいけない奴らと会ってしまった様だな......将軍よぉ、転生者ってどんなにヤバイ奴らか知ってるか?」
「いや?魔王こそ知ってるのか?」
「あぁ、聞いた話によると......物語の主人公枠って所だ......俺が経験した主人公補正なんて甘いもんじゃねぇ......世界のバランスをぶっ壊す『チート』って力を持ってるんだ......」
「世界の、バランスを、崩壊させるだと......?」
「転生者って名乗るそいつらの手元には、電源をオフにするスイッチを持っていると言っても過言では無い」
「なら、尚更今すぐ止めなくては!お前の『魔王の世界の征服日記』が突然終わったらどうするつもりだ!」
「大丈夫だ!落ち着け......物語ってのはな、いくらカオスになろうが、成り行きで進むもんなんだよ......」
「そう言うもんなのか......?」
「あ、あぁ............」

終了ボタンを持つ転生者だからこそ、変に刺激はしない方が良いと考える俺だが、そこで何処からとも無く現れた武によって、考えは覆された。

「魔王、話は聞いたぞ。転生者ってのは、つまり俺と同じって事だろ?だが俺は、特に何も能力は得ていないただのおっさんだ。しかしだ。集団を形成し、部隊を作る程と言ったら何らかの能力を持っていてもおかしくない。だかな魔王、『変に刺激はしない』と言うのは間違いであり、逆効果だ」
「と言うと?」
「転生者ってのは、大体、『打倒!魔王!』の目的でこちらの世界にやってくる確率が高い。つまり、転生者達は今も、お前を探していると言う事だ」

なんだって!?それじゃあ、俺の計画は、実質不可能になったって事か!

「どうすれば良いんだ......」
「まだ諦めるな......これは詰みゲーでは無い。必ず危機回避ルートがあるはずだ......」
「そうだよな!ガハハハ!」

これは、単なるゲームでは無い。自らの力で運命を切り開くゲームだからなぁ!

さて、この話はここで止めて......やる事は一つとなった。

転生者をぶちのめす!不死身じゃねぇ限りは、勝てるだろ!

「で?魔王、これからどうするんだ?」

俺は、将軍と武とボロボロの戦王に向かって叫ぶ。

「転生者をぶちのめす!俺らは魔王軍!バランス崩壊?んな知るか!」
「魔王よ、俺は魔王軍に入った記憶なんて一切無いんだが......国を奪還する為だ。今だけは協力してやろう」

戦王の協力は得た。後は将軍だが。

「必ず帰ってこい。帰って来なかったら、リセットしてやる」
「え、お前は?......」
「あ?俺は行かんぞ?あくまで世界を平和に戻すと言う立場だ。死んだら役目がなくなるからな」
「えぇえ?そこは空気読もうぜ?」
「空気が何か知らんが、俺は死んではいけない存在なんだ!未来を捻じ曲げようとするな!」
「そこまで言うなら......仕方がねぇか......」

そうして、戦王の国奪還の為、転生者とやらの軍へ、俺と生き残った部下と戦王で進軍する事になった。

道中、平原の向こうに戦王の国が見えた所で、俺たちが進軍していた時の事を思い出す。

「そういやこの前俺たち此処に来る時、突然大砲撃たれたよなぁ」
「お前ら雑魚共を吹き飛ばすには丁度良いくらいだ」
「負けたけどな!ウルフに喰われる寸前でやんの!」
「ふっ......アレは予想外だ。しかし、次、タイマンで勝負したら貴様に勝ち目は無い」
「次?やる訳ねぇだろ?痛いの嫌だし」
「ワン!」
「そうかい。まぁ、良いだろう」

そうして、何事も無く、戦王の国の大門まで着いた。

門は閉ざされており、耳をすましても、静か過ぎるくらいだった。

俺は、大門をノックする。

「ごめんくださーい。魔王なんですけど、誰がいますか?」

すると、大門の子扉が開き、中から一人の特殊部隊身なりの兵士が出て来た。

「ん?どちら様でしょうか?」
「あ、いや魔王なんだけど、入って良い?」
「魔王?何を言っているんだ?魔王と言ったらこれから俺たちが倒しに行く存在だ。ここにいる訳が無いだろう」
「え?あ、あぁ、そうだよね?ハハハ......いやさ?此処、元々俺らの陣地なのよ。だから返してくれないかなぁっと思って......」
「取り返しに来た?そういや、此処を占領する時に、ボロボロな二人を担いだ男が静かに出て行ってたな」
「そうそう!それ!俺の部下なのよ」
「そうだったのか......でもそう言うことに関しては、リーダーを通さないと分からないなぁ」
「じゃあ、リーダー呼んでくれる?それなら出来るでしょ?」
「分かった。ちょっと待っててくれ」

そうして兵士は、子扉を閉めて行った。

「なんか、転生者もそこまで凶暴な奴らじゃ無いんだな......」
「分からんぞ?本性を剥き出せば、最悪の場合、我らの事を消しかねん」
「消す......ねぇ......」

数分後、子扉から、さっきの兵士とリーダーと思われしき者が出て来た。

俺は、リーダーを見た瞬間、目を見開き、相手もお互いを指差した。

「なんでお前が......!」
「お前は......!」

同時に名前を叫ぶ。

「勇者じゃねぇか!!」
「魔王じゃねぇか!!」
「お前、行きてたんだなぁ!」
「何故魔王が此処に居る!」

俺と勇者の間と俺の部下は物々しい雰囲気を醸し出しているが、勇者の存在を知らない、周りの奴らは、首を傾げている。

「どうしたんだ?魔王」
「リーダー?魔王ってどう言う事ですか?」
「全転生者に告ぐ、魔王が現れたぞ!!」
「全部隊!撤退だぁあ!!!」

俺は、戦王の腕を引っ張りながら、全力で逃げる。

「おい!どうしたんだ魔王!あいつは一体何者なんだ!」
「説明は後だ!お前が言った通りに消されるぞ!」
「フン!望む所だ......俺一人で片付けてくれるわ!」

戦王は、俺の腕を振り払い、追いかけて来る転生者全員相手を、迎え撃つ体勢を取った。

「止めろ!戦王!マジでアイツらはヤバイ!」
「ガウガウッ!!アグゥッ!!」

ウルフは俺の腕に噛み付き、必死に逃げる様に俺を引きずり倒す。

「痛い痛い痛い痛いッ!!?ウルフ!?分かったから!腕離して!」
「ガァァア!ガウッ!!」
「待て待て待て!腕がッ!引きちぎれる!おぉおお!?ウルフぅ!?マジで痛いから!」

そうして、俺はウルフに引きずられながら、部下と一緒に戦王を残し逃げるのだった。









          

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