魔王の世界征服日記

Leiren Storathijs

第16話 神速の馬

俺は、アエトスを回収後、魔王城へ、勇者の侵攻があったが、部下の力で一瞬で終わった。

アエトスの回収も三日掛かった後の勇者の侵攻なので、疲れを癒すために、休憩をした。

そして、俺の部下、四天王はあと一匹。俺は、今日、最後の一匹を探す事にした。

探すと言っても情報は既にトロールが把握しており、アエトスの情報と一緒に言う筈が、タイミングを逃してしまったらしい。

「さて、やっと最後の一匹だ。知ってる事を教えてくれ」
「あぁ、最後の一匹は、神速の馬と言われている奴でな、とにかくめっちゃ速いらしい」
「ほほう」
「そして、何と面倒な事に目撃情報はバラバラだ。北の荒野でとんでもなく速い物が通り過ぎて行ったり、南の砂漠で閃光を見たり、西の平原で不可思議な光を見たり、東の方でめっちゃ速い馬を見つけたってよ」
「あー、面倒だなそりゃ。じゃあどうする?」
「とりあえず、馬だからな。今までの四天王よりは、小さい事は確かだろう」
「はぁ......良し!最後の一匹の場所が分かった気がする!」
「マジか!今回の魔王は頭が切れるな!」
「あぁ!だって馬なんだろ?場所は東だぁ!」

予想の決め手は、目撃情報だ。北、西、南は、どれも『速い』と言う共通店はある。でも、それが馬かはどうかは分からない。

しかし、東の情報だけは、『めっちゃ速い馬』だ。これに間違い無い。確か東と言えば、馬の牧場があった筈だ。

もしかして、結構身近に居るんじゃね?

「どうして東なんだ?」
「馬って言ったら......そんな放牧されてたら、直ぐに話題になるだろ!」
「まさか東の牧場の事言ってんのか?で?四天王が人間に飼われてるとでも言いたいのか?」
「なんだ?なんか異論でもあるか?」
「いや、行動の決め手は魔王に従う。......まぁ、可能性は、ゼロでは無いか......」
「よーし!決まりだ!」

こうして、馬が東に居ると言う小さな可能性を信じて、俺は、東の牧場に行く事にした。

東の牧場とは、魔王城から東方向、かなり近い所にあり、魔王城の展望台から良く見えていた場所だ。

東の牧場に行くメンバーは、今日はウルフは抜いて、トロールと二人で行く事にした。

どうせ馬なんだし危険は無ぇだろ......。

「さて、本当に牧場に来ちまった訳だが......本当に居るのか?」
「俺は此処に居るなんて一言も言って無いぞ?『馬』は此処に確実に居るんだしな。だから此処を選んだ」
「あぁ、そうだったな......」

牧場を眺めると牧場なので、勿論の事、沢山の馬と家畜が居た。そして、一人のおっさんが家畜の世話をしていた。

「良し、まずは聞き込みってのが情報集めの基本だ」
「今回はどうしたんだ?魔王。やけに四天王探しに張り切っているが......」
「そうか?いや、まぁ、だってアレだしな......」

その理由とは、今回の四天王探し。最後なのに、今まで以上に普通だからである。探すべき部下とは馬であり、めっちゃ速いと言うのが今回の特徴だが、所詮馬だからだ。

張り切っている理由は、誰にでも出来る調査だからと言う理由もある。今までの四天王は、狼、猿、鳥と簡単に言ってしまえば普通の動物だが、スケールが普通では無いからだ。俺一人では、不可能だった。

つまり、今回の調査は、『俺でも簡単に出来る』からだ。

「アレって何だよ」
「つまりそういう訳だ。オーケー?」
「はいはいオーケー。ったく、たまーに魔王って何考えてんのか分からねえよな」
「あぁ、説明が面倒な時は、頭の中で考えいるからな。テレパシーでも使えたら便利だよな」
「そうだな」

なんか俺トロールに冷たくされてる?いや、最初からか?

と言う訳なので、俺はとりあえず家畜の世話をするおっさんに話しかけた。

「あのーすみません。聞きたい事があるんですが......」

俺がおっさんに声をかけると、おっさんはこちらに気付いたと同時に俺を見て驚いた。

「おぉ!これはこれは、魔王さんではありませんか!良くぞここまでいらっしゃいました」

え?何で俺の事知ってんの?

「え?」
「はい?あ、あぁ!そう言えばお会いするのは今回が初めてですね!」
「あ、あぁ......」
「実はですね、魔王さんの家の近くにある村と良く交易をさせて貰っていまして、そこの村の方達に魔王さんの話を良く聞いていたのです」
「なるほど!そうだったのか!あ〜、ちょっと疑う所だったよー」

村の奴らが勝手ぺちゃくちゃと俺の事をバラしたのは、あんまり納得してはいないが、敵意が無ければ問題視する事では無い。寧ろこれは、利用しやすいと考えた方が良いだろう。

「魔王......いや、これ以上何も考え無い方が良いか......実は頭ではしっかり考えいるかも知れない......」

「おっと、それで聞きたい事と言うのは?」
「そうだ。ここで、めっちゃ速い馬が居るって聞いたんだが、ここに居るかなぁ?って思って」
「めっちゃ速い馬?と言いますと?」
「神速の馬って言われて居るんだが......」
「あぁ、それなら、それに近い馬は、最近とある平原で飼い慣らした覚えがあります」
「か、飼い慣らした!?」
「えぇ、しかもその馬、何と話せるんです!言葉を話せる馬を見て私は最初驚きましたが、その馬も『ここまで優しい人間が居たとは、俺は人間の事を見誤っていたようだ』と反省していました」

めっちゃ速い馬で、言葉を交わせる馬と......これは確定と言わざるを得ない。四天王以外喋れる馬なんて居ねえだろ。

「それでどうやって飼い慣らしたんだ?」
「いえ、飼い慣らしたと言うより、正確に言うと、反省した馬の方が私について来たのです!確かその馬の名前は『エクウス』と名乗っていました」
「今、その馬は何処にいるんだ!?」
「何故そんなに慌てているのですか?」
「いや、俺の昔の相棒の名前と特徴が一致しているからな。ずっと探していたんだ」
「ほほう......昔の相棒ですか......」

ここでおっさんは突然涙を流す。

「は?どうしたんだおっさん」
「私は村の方から聞きました。魔王さんとの関係は、もう数千年と関係が有ると」

え?コイツなんか勘違いして無えか?勇者との因縁は数千年はあるが......村の奴らと出会ってからはまだ、数日から一ヶ月?くらいしか経ってないと思う......。

「つまり、生き別れになった相棒である馬を何千年と探し続け、遂に、相棒かも知れないという希望の光を見つけたのですね......!」
「いや、ちげえから」
「隠さなくても分かりますよ!私は動物を愛する者は皆家族の様に思って居ますから!」

話にならん。さっさと馬に会わせて貰おうか。

「分かった。分かった。どうでもいいから馬に会わせてくれ」
「おっとすみません!今から呼びますね。『ハナセールウマ』を」

ん?今コイツなんて言った?ハナセールウマ?まさかおっさんが名付けた名前じゃねぇだろうな......だとしたら......。

何て良いセンスの持ち主なんだ!最高過ぎて、俺も感動しちまうぜ......!

「......ん?なんで魔王まで涙流してんだ?」
「あ?お前には分からないのか!おっさんが、エクウスに名付けた名前!ハナセールウマって!」
「あぁ、滅茶苦茶だっせぇな」
「なん......だと?」
「あ?まさかお前......そんな名前に感動していたのか!ぶっははは!全くお前のセンスには毎回驚かせられるぜ!」

この時、俺は思った。トロールと俺は一生分かり合えないと。

「えぇ......」
「えぇ......?」

そうして、しばらくすると、おっさんがハナセールウマのこと、『エクウス』を連れて来た。

「ったく......その名前で呼ばないでくれと何度言ったら......?」
「ん?よ!お前がエクウスか。俺はお前の事覚えて無えけど、俺の事覚えてるか?」
「あ、あぁ!?まさか......魔王か?」
「おぉ!覚えててくれたか!よし。なら、俺が此処に来た理由は分かるよな?」
「あ?分からねえな。すまねぇが俺の背中にお前の席は無えぞ?」
「それってどう言う......」
「だから、俺はこのおっさんに飼われいるんだ。まぁ、何時ものんびり過ごしていて暇なんだけどな」

これは想定外だ。今までのケースでは、条件付きや、証拠を持ってくるのがいつものやり方だったのに......

魔王から人間に乗り換えられちゃ交渉のしようが無いッ!

そこでおっさんが首を傾げながら不思議そうに質問をして来た。

「何を話されているのですか?」
「あぁ、コイツは俺の昔の相棒で確定した。エクウスも、俺の事を覚えているんだ」
「それはなんと!......感動する話です!」
「いや、問題はそこじゃねぇ。どうやらハナセールウマは、あんたの事を気に入っちまったらしく、戻ってくれないんだ?どうかおっさんも話してくれねぇか?」
「だからその名前は......」
「そう言う事でしたか.....私の事を気に入ってくれたのは大変有難い事なのですが、私自身としては、相棒の方が戻って来て欲しいと言っているので、戻って欲しいと思っております」
「ッチ......分かったよ。なら一つ条件がある......」

やっぱり来たぁ!この時を待っていたんだ?さぁ今回の条件はなんなんだ?

「魔王よ、お前は俺の事本当に覚えてないんだよな?」
「あ、あぁ......すまんな。いくら頭叩いても思い出せ無えわ」
「なら今から出す条件としては最高だ。教えてやろう、俺はお前の何だったのかを」
「おう......」
「俺はお前の足として使われていた。つまり、完全に馬として扱われ、俺の足、神速の馬としてお前を何処までも連れて行っていた。って事は条件が何か分かるか?」
「んあ?さっぱり分からん......で?何が言いたいんだ?」
「分からねえのかよ!まぁ、良い。条件は、今だけお前を俺の背中に乗せてやる。そこで、俺は全力で走る。恐らく過去以上の速さで、お前を振り落とす勢いでな。そして、俺の背中に乗ったお前は振り落とされない様に、この世界一周耐えて見せろ!」

え?嘘だろ?この前、アエトスを仲間にする為に西の果てまで行くのに三日掛かったんだぞ?それを世界一周って......最後の一匹の試練だからって流石にそれは......。

「どうしたその顔は?さっきちょっとだけトロールから話聞いたんだが、どうやら俺が最後だってな?で?最後だからって無理って言うんじゃ無いだろうなぁ?」

なっ!心を読まれている!これも、相棒だったからか?

「安心しろ。俺の足なら世界一周何て一時間あれば十分だ。それとも信用出来ねぇか?あーあ、相棒って呼ばれていた時が懐かしいぜ」
「そんな事言って無えだろ!」
「ならやれよ」
「あぁ、良いだろう。最後だろうが関係無え!やってやろうじゃ無えか!」

そして俺は、最後のエクウスを仲間にする為に、背中に乗った。

「さぁ、行くぜ!魔王!俺の速さについて来れるかなぁ!」
「あぁ、最初はゆっくりで頼む......」
「あ?聞こえねぇぞ!」

エクウスは、俺の声を無視して、一気にスピードを上げ急発進する。

案の定俺は、突然のスピードに乗る事が出来ず、弾き飛ばされた。

「どぅおぉわ!」
「あ?だっせぇな!こんなスピードに乗れないなんて、過去の魔王は、もっと格好良かったのになぁ!?」

コイツ......なんか突然調子乗って来ていないか?さっきから、俺を煽りやがって......。

いや、俺がゆっくりなんて弱音吐いたからか?分かったよ......お前を乗りこなせるまで何度でも弾き飛ばされてやるよ!

「まだだ!ちょっと前の感覚を忘れていただけだ」
「はっ!前の感覚ぅ?俺の事さえ覚えていねえ奴が言う言葉じゃねぇな!」
「あぁ、うるせぇな!さっきから!そんなに俺を煽って楽しいか!?」
「おおっと、すまねぇな。これが本当の俺の性格だからな!」

ますます、ムカつくな!やるって言ってんだろうが!

そして、俺は、もう一度エクウスの背中に乗り、次はしっかり、しがみつく様に構える。

「ふっ......さぁて、次はどうかな!?」
「ファッ!?」

俺はしっかりとたてがみを掴みながら構えていたのに、エクウスを悪戯をする様に前足を高く上げ俺を投げ飛ばす。

「おいおい。魔王、鬣をそんなに強く掴まれたら痛えだろうが、そこはしがみつく為に生えてんじゃ無えんだよ」

あぁ?どうすりゃコイツに乗れるんだ?そもそも、俺は記憶上、馬に乗った事が無え!乗り方が分からねえ!!

という訳なので、家畜を世話するおっさんに馬の乗り方の基礎を教えもらう事にした......。

そうして二時間後、ようやく基礎を掴めた俺は、もう一度、エクウスの背中に乗る。

「へぇ?二時間だけでようやく様になって来たじゃねぇか」

これって褒められているのか?俺は少し得意げな表情が顔に出た。

「行くぞ!」

俺の顔を見たエクウスは急発進を始めた。しかし、俺は、二時間前の様に弾き飛ばされる事は無かった。

「よし!トロール!ちょっと世界一周してくるわ!」
「おう。いってらっしゃい。ついでに成功したら魔王城に戻って来いよ!」
「あぁ!成功したらな!」

エクウスは、更にスピードを上げ、身体を揺らして来た。

「うおっ!とっと......へへっ、今の俺はそう簡単に落とされねぇぜ?」
「へぇ?そうかい」

世界一周には、一時間程で済むと言っていたが、本当にそう思う。

今、俺は、おっさんから学んだ基礎のお陰で、振り落とされずに済んでいるが、走っている途中、速すぎて周りの景色が全然見えず、前方直線の一点しか見えないのだ。

つまり、今何処に向かっているのか全く分からん。

そうして、三十分程経った頃だ。突然エクウスがスピードを落とした事で、周りの景色が見えて来た。

その景色は、全く見た事が無い、山脈地帯。

「さぁて、ここからだ!基礎何て物が役に立たねぇ時がな!」
「何?」

前を見ると、大きな谷が見えた。俺は、ここを飛び越えるのだろうとすぐに察した。

え?え?どうすれば良いの!?

「行くぞおおおお!いやっふううう!」
「うおおおお!!?」

俺は、いつぞやのやり方で、エクウスを踏み台にし、エクウスが向こう側の崖に着地する前に、背中を飛び降りた。

あ......これ、届かねえわ......。

そう思うと、ギリギリ崖に掴まる事が出来た。

「ぬおおおお!?」

そして、後ろから飛んで来たエクウスは、上手く崖に着地した。

するとその瞬間、エクウスは、崖に掴まる俺を足で巻き上げる様にして、高く上空へ弾き飛ばす。

「何すんだあああ!?助かったけどおおおお!?」
「へっ、今の魔王、最高に格好良いぜ!さぁ、風に身体を任せて良く見てろ!」

何をする気だ?風に身体を任せろ?俺は、言う通りに身体の力を抜いてみた。

俺の身体は宙に浮きながら縦に回転し、曲線を描きながら、前に落ちて行く。

あ、やばい。吐きそう......。

「さぁ、行くぜ!魔王!おらよ!」

エクウスは、回転しながら、落ちてくる俺を背中で受け止めた。

しかし俺は、受け止められた事で、腹をエクウスの背中に強打し、本当に吐きそうになった。

「うおぇっ!し、死ぬ......」
「汚ねえな!俺の背中で吐くんじゃ無えぞ?」

俺はどうにか態勢を立て直し、吐きそうになりながらも、スピードに乗り直す。

世界一周開始から五十分が経った。俺の吐き気は治らない。

そろそろ一時間経つだろうか......不味い......俺の腹が危険信号を出している。

「そろそろ世界一周が終わるな!吐きそうになりながらも、良くここまで来たな!」
「うっぷ......あ、あぁ」
「最後の景色がお前は見えるか?」
「あ?」

駄目だ。意識が朦朧として来た。エクウスのスピードに乗るのが精一杯だ......。

「お前の城だろうが!成功したら帰るって部下に言っていただろうが!これからお前を展望台に投げ飛ばす。最後一匹回収祝いに盛大に吐いて来い!」

俺は、もうエクウスの声は聞こえていなかった。

そして俺は、勢い良く、高く投げ飛ばされ、展望台に吸い込まれる様に入り、床に叩きつけられた。

そうして、俺は、無事にエクウスを回収し、盛大に吐いたのだった。











          

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