女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第77話 自己否定

 ぼんやりと船に揺られながら、そういえば吸血鬼って海とか渡れないんじゃないっけとどうでも良い事を思い出していた。
 流れる水が苦手とかそんな設定。


 あったようななかったような。
 ゾンビだっけ?
 流れる水なら海はセーフなのか。


 川とかが駄目なのかな。
 ……でも俺、吸血鬼化してからも多分川とか渡ってるよな。


 そりゃ泳いで渡るような事は無いけど。
 入らなければ良いのかな。


 ……ラリアに聞いてみるかな。








「なんじゃその話。初めて聞いたわ」
「そうなのか」
「吸血鬼の弱点らしい弱点など太陽くらいじゃろう。それもかなり下級のものだけじゃ」
「ほー」


 黒髪おかっぱロリがのじゃ口調でもあんまり違和感ないのはアニメに毒され過ぎているのだろうか。こいつもよく見れば可愛いんだよなあ。
 小学生相当の見た目から成長できないというのは大きな制約ではないだろうか。


「別に姿など自在に変えられるが」


 と、ラリアは黒髪の長髪を流しっぱなしにしている妖艶な巨乳美人に変化した。凄いな。ここまで来たらもう変化とかじゃなくて変態だ。
 変態ってあれだぜ。ぱっと思いつく方じゃない方だ。


「男にもなれるのか?」
「なれるが、なろうとは思わんな」


 ふ、と元の黒髪おかっぱロリに戻ったラリアが言う。


「じゃあ今のはお前がなりたかった姿なのか」


 マリアさん見るとああはならないと思うが。
 理想形だから良いのかな。


「いや別に。なりたくないの反対はなりたい、になるとは限らんじゃろう」
「……悪い。不躾だったな」
「不敬と言うんじゃ。別に詫びんでも良いがな。儂はとうにそんなもの割り切っておる」


 そんなもの、か。
 吸血鬼は成長しない。
 そのままで再生し続ける。


 ラリアとマリアさんは姉妹で、ラリアが姉らしいが見た目はマリアさんの方が年上だ。これは吸血鬼化したタイミングによるものだろう。
 俺も、まだ分かりにくいが恐らく吸血鬼化した時点から身体的な成長――或いは衰え――はない。


 それを知った時、まあまあショックを受けたんだがな。
 まあ俺も今じゃあそんなに気にしてないが。
 吸血鬼化した事による強化の方が大きい。メリットがデメリットを上回っている。


 今のところ・・・・・は。
 勿論、分かっている。




 俺の方が寿命が長い。
 セレンさんはどうか分からないが、ミラやディーナ、パルメは俺より先に死ぬだろう。その時に俺がどう思うか、どう感じるか。


 大体予想はつくが、分からない。


 多分ラリアはそれを含めて『割り切った』のだろう。


 こういう事考えてると段々気分が萎えてくるんだよな。
 何か楽しいことでも考えよう。


「俺にもそういう変幻自在な変化って出来るのか? 腕を盾みたくしたり剣みたくしたりは一応出来るけど、姿かたちを丸っと変えようと思うとやっぱり難しいんだよな」
「ふむ。変化には想像力が必要じゃからな。創造力と同じくらいに、の。自分でない自分というのは想像するのは難しいのじゃ。儂の目から見ても小僧、おぬしはそれなりに才に溢れておるがそれでも数年はかかるじゃろうな」
「そうなのかぁ」


 才能あると言われて素直に嬉しいが、それでもすぐには無理か。なんかコツみたいなのを掴んだらすぐに出来てしまうものだと思っていた。


「まあ、間違えてはおらん。確かにコツさえ掴めばそう難しくはない。そのコツを掴むまでに数年かかるじゃろうという事じゃ」
「うーむ」


 自分じゃない自分。
 何かに変身した自分。


 イメージは出来るんだけどな。
 いざ実行に移そうとするとぼやけて難しい。


「儂に変化してみる事からじゃな。勿論儂に限らず、目の前におる人物に、じゃ。本来始めるのは鏡の前に立って映る自分に変化するところからじゃが……それくらい飛ばしても問題ないじゃろう。ショック療法みたいなもんじゃしの」
「鏡の前に立って映る自分に変化、ねえ。それって何か変わるのか?」
「左右が逆になるんじゃよ。自分とは完全に反対の存在となる。それをやっても良いのだが、最悪精神がイかれるからのう」
「なにそれ怖い」
「それまでの自分を真っ向から否定していおるようなもんじゃからの。なに、小難しく考えずとも適当で良いんじゃ」


 それまでの自分を真っ向から否定、か。
 鏡合わせはようは真逆で噛み合わないってことだからな。
 俺を真逆にした姿か。


 自己嫌悪なんて腐るほどしてきたが、果たして真逆になったらそれは自己否定になってしまうのだろうか。自分を嫌悪するのならまだしも、否定するというのは難しい。
 この辺りが肝なんだろうな。


 否定までは行かずとも。


 嫌悪している自分を変えるくらいのつもりで――


 弱い自分を。


 ざわ、と何かが体の中で暴れだそうとした。


「……ッ!」


 すぐにやめる。
 なんだ今の。何かやばい・・・のが来そうだった。変化とかじゃなくて――それこそ、変態みたいな。そういう変わり方をしそうになった。


「……ほう」
「今のが何か知ってるのか?」
「多くの吸血鬼はそこまで辿り着かないか、辿り着いてその場で果てるかじゃが、聞きたいか?」
「……ああ、聞いておきたい」
「吸血鬼の真の姿になろうとしたのじゃよ、今、お前は。何かに変化しようとしてそれに辿り着きかけた者は初めて見たが。……まあ、歴代で見てもそう・・なれるのは数人じゃよ」
「……お前はなれるのか?」
「どうじゃろうな」


 なれるのか。
 今、俺の中で暴れようとした鬼に。


 あれを表に出すのはまずい。そう直感出来てしまう程の力をコントロール出来るのか。
 だが、今のを仮にコントロール出来れば。
 今までとはランクの違う強さを手に入れる事が出来る。


「慌てるなよ、ユウト」
「…………」
「急けば急く程、自我は消えて行く。完全に消えてしまえば、王が始末しなければならなくなるのじゃ」


 ぞっとしない話だな。
 あいつとまた戦う事になるとすれば、それは確実にどちらかが死ぬだろう。消えるだろう。かなりの確率で俺が負けるだろうが。


 だが……
 慌てるなと言われても、もうすぐで手の届きそうなそれに手を伸ばさないのはどうなんだろうか。


「自惚れるなよ、小僧」
「…………」
「自分を特別だと思うな。格別だと思うな。手を伸ばせば届きそう等と、夢見がちな事を言うな」
「夢見がち、か」


 夢にも見た事ないけどな。吸血鬼に上のステージがあったなんて。


「上ではない。外じゃ」
「外……?」
「いや、今のは齟齬じゃな」
「ちょっと語感が似てるからってあんまり面白くはないぞ」
「まあ、気にせんで良い。お前がそこに辿り着く事は、普通にしていればないからの。そのために儂がこうして同行しておるわけじゃし」


 そんな意図があったのか。
 いや、適当に言っているだけかもしれない。
 ラリアは結構適当な奴だ。
 マリアさんとは大違いだな。


 まるで反対だ。 
 さながら鏡のように。


 ……いやこれはこじつけか。


 ラリアが俺たちに同行しているのは、恐らくレオルも絡んでいる。あいつはああ見えて過保護というか友達思いというか、そんな節があるからな。
 修さんとレオルの件がなければ魔王討伐はもっと後になっていただろう。


「しかし、今のを抜きにしてもお前はもう少し強くならないとじゃなあ。四人だったか。今のお前のままで守り切れるか?」
「……無理だろうな。それは感じてるよ」


 痛感している。
 レッサーデーモンにああも手も足も出ないとは思いもしなかった。
 そして正直な話、ああもレオルと俺との間に差があるとは思っていなかった。


 頑張ればどうにかなるレベルだと思っていた。
 実際は死に物狂いでかかって万が一を狙わないといけないくらい開いていたが。いやもっとかもしれない。あいつの底はまだ知れない。


「いやいや、そう悲観する程でもないぞ、ユウト。お前はそれなりに特別性じゃからの」
「さっきと言ってる事が真逆だぞ」
「少なくとも現時点で不死性は王よりも上じゃ。不死性で上という事実だけでもそれなりに特別なんじゃよ」
「不死性、ね……」


 確かにそれはレオルを上回ってはいるかもしれないが。
 それ以外は駄目と言っているようなもんじゃないか。


「実際それ以外は駄目じゃからのう。駄目駄目じゃ。だからこそ伸びしろがあるとも言えるがの」
「伸びしろ」
「そうじゃ。まずは、剣術を習っていたそうじゃが、継続する事じゃな。吸血鬼としては儂が鍛えてやるが、人間の部分は人間同士でしか熟達されて行かない」
「そういうもんなのか」
「そういうもんじゃよ。魔眼とやらは儂にもどうしてやることもできんが」
「これくらいは自分の力でなんとかするさ」


 流石にな。
 これも自分の力ではないけど。
 自分の力になるように努力することは決して無駄ではないはずだ。


「夜になってお前の体が空いていれば・・・・・・・・儂が鍛えてやろう。盛るのは良いがくれぐれも儂には聞こえんようにの」
「…………」

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